立ち呑み日記・やれやれの時間 [食前酒]

カフェの、すみっこのほうに席がとれて、やれやれ。

ただ今、11歳のムスコとその大親友の、チェスのおけいこが終るのを待っているところです。地下鉄に乗るほどの距離ではなく、かといっていったん帰ったら家に到着するなりまたすぐさま飛び出さないとならない。

そこで最寄りのカフェで時間をつぶすわけです。

このカフェは古く堅牢なカウンターが中央にデンと構えて、なかなか素敵。戦前のしつらえのままだと思いますヨ。

1990年代後半までは、頑固そうな老齢のご主人が一人で切り盛りし、ワインの種類の多いそれはもう有名店で、「ポワラーヌ」という、かまど焼きの田舎風パンを使ったオープンサンドが名物でした。

「この店は『ポワラーヌ』のパンを出している」
というと、一目置いたもンです。最近はおいしいパン屋がいろいろ台頭したせいか、「ポワラーヌ」をさほど有り難がらなくなりました。

このカフェ、当時の観光ガイドブックにはどれにも掲載されていたほどでした。

その後、高齢のご主人が亡くなり、別のオーナーへと移籍。店構えは昔と同じですが、タバコのやにだらけだった店内が塗り替わり、照明などが今風に垢抜けたように思います。

経営者は存じませんが、40がらみのオジサンたちが店をまわしています。

フロアを仕切っている細身のオジサンは、漏れ聞こえてきたところによると以前は舞台に立っていたプロのダンサーだそうな。

さもありなんと思いますね、注文を取りに来るときの、キレのある身のこなしといったら。

「紅茶、ですね」
と、昨秋の新年度からこのかた、寒いのでナントカのひとつおぼえよろしく紅茶ばっかり注文しているので、本日もそう聞かれました。

「おねがいします」

食前酒といきたいところですが、ちびすけどもの送迎があるなかでそうもいきません・・

・・と、そこへ、小さい子ども二人連れた年配のマダムが、ワタシの隣りにやってきました。

仕事で抜けらなくなった息子に突然頼まれおっとりがたなで孫を学童保育へ迎えに行き、ひとまずここでやれやれ、という旨を、元ダンサーのギャルソンに説明なさっています。

息子夫婦は離婚に向けて別居中、ということも聞こえてきました。フランスではちっともめずらしくない状況です。

「あなたがた、何にする?」
と、マダムはメニューを目からうーんと離して読みながら、孫に話しかけています。
「ジントニックはどう?」

「ボクたち子どもだからお酒は飲めないよ」
と、8歳ぐらいのお兄ちゃんのほうが真に受けて返答しました。

子どもたちは、砂糖がけのクレープをたのむことになったようです。

マダムはというと、
「この時間だもの、キールにするわ」

キールは白ワインのカシスリキュール割りで、食前酒の定番です。

そうこうするうちにこちらも迎えの時間となりました。

「マタネー」
と、カウンターの内側にいるコワモテのオジサンが、誰に教えてもらったのかいきなりシナシナっとした女のコっぽい発声の日本語で挨拶してくれるのも、いつものことです。


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「の」というんですがその前の漢字が日本人(観光客)には読めないんじゃないの?  と、立ちどまってじーと見るうちに、これかならずしも「の」ではないのではと思い始めました。@みたいな記号かしら。

前菜は、カボチャのポタージュ
主菜は、鶏ロースト、じゃがいもとトマトのロースト、いんげん塩茹で

立ち呑み日記・投げ売り屋 [買い物]

買い物の帰り、磁石に引きつけられたごとく、用もないのに投げ売り屋へ吸い込まれました。

投げ売り屋の商品といったら、「過去」をはらんでいるのが特徴です。「過去」とは、以前出ていた店の売れ残りなど紆余曲折の末ここへたどり着いた、というような経歴。

とはいえ売り物はすべて新品です。

(こりゃ売れなかったのも当然だわナ)
と、ナットクさせられるガラクタがまた山と積み上がっているんですね。

その山に分け入るたのしさ。

お菓子やワインなど食料品も時として並び、
(どういう理由で前の店ではけなかったんだか)
と、賞味期限を入念に点検したのちカゴにとることになります(賞味期限切れで売られていることは金輪際ありません)。

こういう店、「バッタ屋」とも、以前は日本で言いましたよネ。

「バッタ屋」と呼ぶときには、さげすみが少なからずこもりました。すなわち、正規の仕入れとは違う。

バッタ屋、今日の日本にいまだ存在しているものなんでしょうか。経済的社会的に大いに躍進し、「ディスカウントショップ」へと昇華し切った気がするんですが。

ワタシが子どものころは、家族で浅草へ行くたびに、オトーサンとオカーサン(ワタシのオトーサンとオカーサンです)が喜々としてこのテの店へ寄り道していたものでした(くっついているワタシら子どもは飽き飽きして『まだぁ?』『まだぁ?』を連発)。

浅草は投げ売りのメッカという印象でした。

近所の食料品店や駅前スーパーではついぞ見かけないメーカーのサバ缶なんかを
「持ってけドロボー!」
と、寅さんよろしいオジサンが話術巧みに叩き売っている。

それを両親はおもしろがりましたが、子どものワタシは、こういうオジサンが怖かったもンです。

しかしおもちゃもまた、買ってもらえました。「リカちゃん」のパチモンの着せ替え人形やら、メーカー不明のショベルカーやら。

いずれも街の玩具屋で買うよりうんとお財布にやさしい(今日ビ街角の玩具屋といったら絶滅して久しいですが)。

でもやっぱり品物にあふれかえったあの店内はまがまがしさがあふれ、子どもには薄気味悪かったです。

ドンキや百均に、その雰囲気はかけらもありません。それに、「安かろう悪かろう」という概念も消失し、今では質に全幅の信用が置けます。

さて、ネギとび出てたエコバック提げて入った投げ売り屋は、あいかわらず大繁盛でした。お客の大半が、女たち。

いずれも、役に立ちそうもないガラクタを
「安く買いこんで役を吹きこんでやろう」
と、熱心に物色しているわけです。

この店には女性下着やセーターなど衣類も充実していて、試着コーナーもちゃんとあります。ファッションブティックとは一線を画する、日曜大工で一角を囲ったような試着コーナーで、今あたかもマダムが春物ブラウス片手に出て来たところでした。

ワタシは、1,99ユーロ(約260円)という値段に大いに心惹かれ、見慣れないパッケージのペストソースとチョコ菓子をカゴにとりました。

(スーパーで買っても値段はそうかわらなかったかも)
と、帰りの道すがら反省しきりとなるのが、投げ売り店での買い物後のならわしでもあります。


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で、格安で買った「ペスト」ですが、ふつうにペストと思い込んでいるバジリコソースではなく、ロケットサラダでつくったものだそうで(よく読めばそう書いてある)、味が思い描いていたものと違いました(ちょっとトホホ)。

前菜は、カボチャポタージュ
主菜は、牛ステーキ、じゃがいもピューレ、いんげん塩茹で


立ち呑み日記・キャベツ百珍 [買い物]

めずらしいキャベツって、今流行ってるんでしょうかネ。

若者言葉でいうなら、
「今、キャベツがキテる」
ないしは、
「今、キャベツがヤバい」

「ちょ、マジで?」
と、せっかくですからキムタクさまに声をあげていただきましょうか。

ビストロスマップをなさっているキムタクさまなら今日におけるキャベツの動向をご把握に違いないとふみました。

いえね、ここのところマルシェに行くと、正確には、マルシェのなかでも野菜生産者じか売りの屋台を覗くと、
「なにこれ」
と、つい日本語で独り言が出ちゃうような、見たこともない野菜が並んでるんですヨ。

それらすべてキャベツだというんです。

フランスのふつうのキャベツは日本のと異なり、ボーリングの玉そっくりに丸くてずっしり重いです。

ホラよく縄のれんのお通しなんかに味噌を添えた生キャベツが出て来ますが、フランスのキャベツであれをやったら固くて噛みきれるもンじゃないです。

家庭では煮込み料理にします。

そのほかにも緑色の葉のちぢれたのや、ほろ苦くてサラダにすると美味しい紫キャベツなどが一般的。

ところが最近見かけたのなど、三角形にとんがってるんですヨ。

「白菜と見間違えたんじゃないの」
と、おっしゃりたいでしょうけど、目をこすってしかと見ました。

そして買って食べました。味はまったくのキャベツ。これ、イタリア発なんだそうです。

その隣りに並べられていたのは、深緑色で細長い葉が羊歯(しだ)みたいに八方に広がっていて、
「これもキャベツ」
と、言われた日には、にわかに信じられません。

これ、「トスカーナのキャベツ」といってやはりイタリア発なんだそうな。

「お金はいいからから食べてごらん」
と、屋台のマダムは、穴のあくほど見つめている客(ワタシです)に、気前よくオマケしてくれました。

生産者もめずらしがって栽培してみたはいいもののあまりに見慣れないところから売り上げがいまひとつ伸びず、持て余していたんじゃないでしょうか。

ここは販促に力を入れる時期、と、考えたのかもしれません。

トスカーナのキャベツは、日本では「カーボロネロ」または「黒キャベツ」と呼ばれ、数年前に上陸しているもよう。

お昼に即席ラーメンとともに煮込んでみたところ、味が濃くてちぢれた葉にスープがからんでとおってもヨロシかったです。

そこで、今度はちゃんとお金を払って買おうと勇んで行くと、
「悪いね、もうはけちゃった」

かわりにこれ、と、小ぶりの樅(もみ)の木みたいなのを指さすんですが、これまたキャベツというんですね。

こちらは、「オランダのキャベツ」だそう。

オランダでは枝みたいなこの葉っぱをざくざく切ってじゃがいもとともにスープで煮てざっとつぶしたひと皿が、国民的家庭料理だそうです。

「今ごろクリスマスツリーかい?」
と、抱きかかえてマルシェで買い物を続けていたら魚屋でもチーズ屋でもからかわれたので、エヘンとばかりキャベツだと説明したんですが、笑うばかりで誰ひとり信じませんでした。

オランダのキャベツは葉がかたく、火が通るのになかなか時間がかかりましたが、やはり味が濃くうっすら甘味もありました。


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落し物のマフラーがかけてありました(標識のところに黒いニットの、ドシーロト写真でわかりづらいんですが、見えるかナ?)。

前菜は、トマトとさいの目エマンタールチーズのサラダ
主菜は、ミートソースと極太マカロニ(リガトーニ、と、いうそうです、マカロニがゴムホースなら土管の太さ)、いんげん塩茹で

立ち呑み日記・オットの大失態 [困った!]

「ク、クレジットカードの情報打ちこんじゃったのッ?」
と、ツマ(ワタシです)の声の裏返るまいことか。

いやはや、オレオレ詐欺にしたって、この自分がだまされるワケないと思い込んでいる人こそだまされると聞きますからね。

誰だってちょっとしたスキがあるんでしょうね。

「Hello」
と、その朝、英語で電話がかかって来たんです。

インド人英語らしい訛りといい、背後でオペレーションセンター風の喧騒が聞こえることといい、明らかに外国が拠点のセールスと思いましたが、オットの姓名を言うので取り次いだんです。

「間に合ってます」
と、オットが電話を切ればいいだけのことですからね。

そしたらば、切るどころかオットはこれにみごとひっかかっちゃった。

「マイクロソフト社、マイケル・ジョンソンと申します」
と、訛りのない、品のいい声で告げたそうな。

ワタシが取り次いでいる間に選手交替したんですね。

「弊社製品のセキュリティー期間が過ぎてしまい、お使いのパソコンがハッキングの可能性にさらされてしまいました」

これから申し上げる操作を今すぐなさってください、
とのこと。

「パパがここまで間抜けとはね」
と、ムスメというのは父親に向かって残酷なまでの正論を吐きますナ。
「マイクロソフト社から直接電話がかかってくるワケないじゃん」

「いいからちょっと黙ってて」
と、ムスメをいなしてオットに聞くところによると、マイケル・ジョンソン氏から再びインドなまりの「専門家」にしゃべり手がうつり、言われるままに打ちこんだそうな。

なぜ言われるままにやっちゃったか、
「考える間がなかったとしか言いようがない」

最終的に150ユーロ(約18000円)を、クレジットカートで決済しようとしたというんです。

ところが幸い、フランスの銀行はインターネットでカード支払いする時には携帯電話のショートメールに銀行からその場に送られて来るコード番号を打ちこまない限り決済できないしくみになっているんですが、オットは携帯電話を持たないのでできなかったんですね。

「今から銀行へ行って問題解決してきます」
と、ご丁寧にも電話口の相手に状況を説明していったん受話器を置いたところで、ハッとわれに返った。

おっとりがたなで銀行へ走り、150ユーロ決済するのではなく、クレジットカードを止めました。

急ぎ帰って来て、今やってしまったことをアンインストールしようとパソコンを開けたら、あろうことかブロックされて手が付けられず、あれよという間にパソコンは暗転しうんともすんともいわなくなりました。

遠隔操作でパソコンを乗っ取るとメールアドレスの設定を勝手に換え、ウィルスを送りこむのだそうです。

メモリーカードに入れてないここ一か月の仕事がおじゃんだ、と、大いに嘆くなり怒るなりするかというとさにあらず、こういうときって雲の中でも歩くようにフワフワーっとなるものなんですネ。

呆然自失のオットの腕をつかんで新品のパソコンを買いに連れ出し、同時にうんともすんとものほうを修復に出しました。

幸い、素敵な新品がやってきて、修復もうまくいきました。

残るは、メールアドレスの奪還です。

いやはやなんとも。


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晴れたー! と、ウキウキ写真とった矢先の大事件でした。

前菜は、カボチャのポタージュ
主菜は、タラそぎ身ムニエル、じゃがいもソテー、ミニマカロニのカレー和え(残り物)、いんげん塩茹で

立ち呑み日記・俺は俺の足で [ワルガキ]

「♪・・って言ってたマーシー、タシロじゃない」
と、13歳のムスメが、フランス語なまりのお経、テナ感じで、ラップの曲をがなりたてている。

「『マーシー、タシロジャナイ』って日本語の呪文かなにか?」
と、ムスメに真剣なまなざしで聞かれました。

一時帰国はするもののフランスで生まれ育っているムスメが、マ、顔黒塗りのシャネルズもバカ殿のけらいも、その後の凋落も、知ってるワケないですからね。

エヘンと、もったいつけて解説してやりました。

この箇所、どんなに日本語のわかる外国人でも日本で長年生活していなければクスッとはなりません。

タシロじゃない別のマーシーが言ってた、というのは、こうです。

♪やりたくないことやってる暇はねえ・・

「THE BLUE HEARTS(ザ・ブルーハーツ)」という1980年代中ごろに結成されたパンクロックバンドのギター演奏にしてボーカル、真島昌利さまで愛称マーシー。

ワタシはロック音楽に疎いのでブルーコメッツやらブルーシャトーやらの「昭和歌謡」のたぐいかと思いましたが、ザ・ブルーハーツといえば「リンダリンダ」などのヒット曲を沢山世に送り出し、ねじめ正一がもろ手を挙げて絶賛する文学性のある詩人だそうです。

♪チューインガムを噛みながら聞いてるブルーハーツ・・
と、ブルーハーツが何だかわからないままムスメはさらにガナりたてます。

ムスメはこのラップの曲をyoutubeでたまたま知ったのだそうで、
「日本にもラップがあるんだ」
と、もう夢中です。

「イジマ」という曲名だというので
「誰なの、その飯島って」
と何度も聞き返すうち、直子でも愛でもなく、イジマ(「忘れるな」)という韓国語で、日韓合作ラップだと分かって来ました。

みなさんご存知でした? 2015年元旦にリリースされ、世界的大評判だそうです。歌詞は日本語韓国語のみならずフランス語訳もインターネットで見つかります。

Keith Ape(キース・エイプ)という芸名の若い韓国人ラッパーが中心となり、韓国系アメリカ人のOkasian、韓国人で日韓バイリンガルのJayalldayが仲をとりもって日本勢のlootaとkohhという2ラッパーが参加。

韓国語の部分と日本語の部分があるんですが、ムスメがドリフの早口言葉よろしく熱中しているのが、Kohhさまご担当の箇所です。

♪俺は俺の足で歩く・・
という、孤高の若者の心情が強く耳に残ります。

Kohhさまとはどんな方なのかと検索してみれば、東京の下町で生まれ育った24歳で、青春の蹉跌が並々ならずあったことが首から胸板から二の腕からみっしり彫られたオソロシげなタトゥーに表れています。

24歳といったらお母さまはワタシと同世代でありましょう。

(さぞ心配しただろうなあ・・)
と、ならずもの然とした容貌とは相反するしっかりした口調のインタビュー映像を見ながら、同輩に思いを馳せました。

ラッパーって、時に即興で韻を踏み、詩は自作なんですってネ。

もうおひと方のlootaさまの箇所は、
♪脳味噌に如雨露は日課葉巻にキス・・
と、Kohhさまの簡明とはうってかわって語彙がむずかしい。

♪残せるものは多いに越したことがないこの一生に・・
と、意味も深淵で、ムスメの日本語力では完全なるチンプンカンプンの棒暗記です。


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はっ。今日写真撮り忘れてた、と、夕方パンを買いに出た道でとにもかくにもパチリ。

前菜は、トマトとさいの目エマンタールチーズとロケットサラダのサラダ
主菜は、メルゲーズ(羊肉のピリ辛生ソーセージ)、トマト風味レンズマメ煮込み、モロッコいんげん塩茹で

立ち呑み日記・バーガー台頭 [ランチ]

フランスでハムバターサンドがバーガーにこのままいくと凌駕されるであろう、
というフランス語の記事を読みました。

バゲットにバターごってり塗ってハムをはさんだサンドイッチは、スナック界のフランス代表といっていい重鎮です。

それが、アメリカ代表に国内首位の座をもぎとられつつあるというんですからおだやかではありません。

2015年1年間で消費されたハムバターサンドは12億3千万個で、消費された全サンドイッチの55パーセントにあたるのだそうな。

ところがその消費量は右下がりになっている。

代わってバーガーは11億9千万個、これは前年より11パーセント上昇。

「今後2年のうちにバーガーのほうが上回る」
と、マーケティング会社はみているそうです。

:2009年に書かれた記事もたまたま見つけたんですが、
「ハンバーガー1つ売れる間にサンドイッチ8つ売れる」
とのことで、
「フランスはサンドイッチのほうがバーガーより売れる世界でもめずらしい国」
と、同じマーケティング会社が解説しています。

それが、7年の間にここまでになってしまった。

ハムバターサンドはアメリカのビッグマック指数のように、毎年フランスの物価の指標に使われているのだそうです。

そのお株をバーガーに奪われてしまうのか。

なぜ、ハムバターサンドが凋落の道をたどっているかというと、値上がり、これにつきます。

同じ値段で、ファストフードに行けばお肉みっしりでほかほか温かいところが食べられる、となれば、つめたくカサカサしたほうを遠ざけるのは、自明の理ではないでしょうか。

ファストフードといえばジャンクフードのイメージでしたが、今やカフェなど昔ながらの飲食店のメニューにもバーガーは進出しています。

日本でもグルメバーガーと呼ばれ、2010年ごろから人気のようです。日本の価格帯は1000円から1500円、フランスもだいたいそれくらいです。

今やフランスの75パーセントのカフェ・レストランにバーガーがあり、そういった店の80パーセントが「売れ筋」と答えているそうです。

言われてみれば、以前ならカフェでお昼に
「ステーキは胃にもお財布にもちょっと重いわネ」
なんていうときにメニューを子細にながめ、
「あらバーガーがあるじゃないの、気が利くワ」
などと思ったものですが、気が付けばメニューにあって当然と感じるまでになっています。

ステーキもバーガーも同じ肉なのに何が違うの?
と、思われるでしょうが、違いますね。

ステーキは「主菜」ですから、カフェでこれ単品となると前菜を省いた中途半端感がつきまとう(一品だけ食べている人だってもちろんいるんですヨ)。

そこいくとバーガーは一皿で完結、さっと食べておしまいにできる。

昨今のフランス人は、従来のように昼食にたっぷり2時間かけるのではなく、安くてさっと食べられて満足いくものを好むと聞き及びますから、そのあたりにバーガー台頭の理由があるのかなあ・・
と、牛挽き肉買うのに肉屋で並びながらつらつら考えました。

うちの二匹もバーガーに目がなく、ハムバターサンドがお昼ごはんと聞こえてくるや言語道断と考えるクチです。


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通りがかりにパチリ。この季節はセーヌ河の水面が上がります。

前菜は、野菜ポタージュ
主菜は、シュークルート(豚および仔牛のフランクフルトソーセージ・キャベツの酢漬け)、残りじゃがいものグラチネ、いんげん塩茹で


立ち呑み日記・分子料理法 [おやつ]

2月の学期休みに「フチュロスコープ」という科学のテーマパークに行ったんですが(前回の立ち呑み日記をご高覧くださいませ)、ここで分子ガストロノミーも、ちょこっと体験できました。

分子ガストロノミー、みなさんご存知ですか?

科学の見識を持って料理にのぞもう、ということで、だったら「科学料理法」とこう素直に呼んでもいいんでしょうけど、それでは目新しさが伝わらないので、ものものしい感じのする「分子」という言葉を入れて科学を表現したもののようです。

たとえば、マヨネーズは卵黄と酢と油を混ぜてつくりますが、必死にまぜまぜしても分離しやすい。

そこで、油の代わりに室温に柔らかくしたバターを使うと、卵黄や酢と容易に乳化するばかりでなく、バターのコクと風味の加わった目新しいマヨネーズになる・・
・・と、いうようなのが分子ガストロノミーの一例(だそうです)。

このあいだyoutubeで、一年遅れのビストロスマップを見ていたら、稲垣吾郎が
「液体窒素で凍らせました」
と、「冷凍庫で凍らせました」と言うのと同じくらい普通のこととして桃の氷菓を出していたので、この新料理法は日本でも浸透しているのではないでしょうか。

東京・三越前のマンダリン・オリエンタルホテルにタパス・モレキュラー・バーとして2~3年前に分子ガストロノミーが鳴り物入りで登場し、友人の美食家たちもこぞってその写真をフェイスブックに載せていたものです。

蟻(あり)など虫を食する、というのも、分子ガストロノミーの範疇(はんちゅう)らしいですゾ。

にせイクラの表面に使われる材料で作られたひと口大のぷるぷるしたボールがレンゲにのせられ、ぱくっとやると表面がぷちっと割れて口中に味噌汁がぱあっとしたたる、と、いうような奇抜な演出があるようです。

フランスではハウツー本も出ていて、ピエール・ガニエールなど大料理人も造詣を深くし、パリのレストランはほかにも何軒か取り入れているところがあるもよう。

料理教室も開かれ、ジュニア向けには実験キットがおもちゃ屋に売られています。

さて、「フチュロスコープ」の分子ガストロノミーカフェは一品が3ユーロから5ユーロ(約400円から600円)と、意外にもそう高くはありませんでした。

「リコリス(ミントみたいな香草)の泡」と、液体窒素で凍らせた「ドラゴン結晶」を、とってみました。

「リコリスの泡」は、少量の寒天を溶かしこんだ甘いシロップの中へドライアイスの一片をポトンと落とすもので、寒天が膜になることで表面にプクプクふくらむ甘い泡をすくって食べます。

そしてお待ちかねの「ドラゴン結晶」、マイナス300度で一気に凍っていて、口に入れてフーッと息を吐くとドラゴンみたいな白いケムがもうもうとでます。

あっちでもこっちでも、白いケム吐き出したところをスマホかざしてパチリ。

それにしてもこのカフェ、一回一回説明付きで、カウンターにはたった一人しかいないんです。

今回は冬のことでお客が少なく番がすぐまわって来ましたが、これではハイシーズンなどいったい何時間待たされるやら、そっちのほうが気になっちゃいました。


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ドシロート写真でよくわかりませぬが、立って乗って歩く速度で動く乗り物に乗っているツーリストの一行が通りがかったので大急ぎでパチリ)。受け付けをどこでやっているのか知りたいです。

前菜は、トマト・モッツァレーラ・ロケットサラダのサラダ、オリーブオイルとバルサミコ酢がけ
主菜は、七面鳥ささ身ムニエル、ハッセルパック(じゃがいもに櫛状に包丁を入れたグリル焼き)、モロッコいんげん塩茹で


立ち呑み日記・未来の寝室 [おでかけ]

これ、フランス人にしか思いつかないよナァ・・
と、展示の操作パネルをいじりながら、まったく感心しました。

学期休みで、「フチュロスコープ」というテーマパークに行ったんですヨ。

「フチュロスコープ」は、フランス西部のポワチエという小都会の郊外にあり、パリからTGV新幹線で直行できます。

ホラ、世界史でやった「トゥール・ポワチエの戦い」の、ポワチエです。

パリから日帰りも可能ですが、隣接するホテル群との1泊2日プランがあり、ワタシら親子もそれを利用しました。

ディズニーランド・パリと異なり、入場者の9割がフランス在住者、うち3分の2がリピーターだそうで、ワタシらもそのクチです。

みんなリピーターなんだろうなあ・・
と、ホテルの朝食ビュッフェを眺めまわして思いましたね。

朝食は10時までなんですが、寝坊してぎりぎりに行ってみたら、みなさんまだまだのーんびりなさっている。

ワタシら家族が最後かと思えばさにあらず、背後から何家族もがちっとも焦っていない足取りでやって来ます。

開園は10時、人気アトラクションには行列を避けるためにも朝一番に入り必死に走らないとならないんです。

しかしそれも初回で卒業済み。

「フチュロスコープ」は、先端科学と4Dなど映像の、科学万博みたいなテーマパークで、アトラクションの大半はIMAXの大型球形映画館です。

(一度見りゃ別にいいナ)
と、なってもいいところをリピーターにさせるのは、年一度、アトラクションのいくつかが入れ替わるから。

「これ去年はなかったね」
と、リピーターは全アトラクションを制覇しようとはがんばらず、今年版を中心にのーんびりまわります。

2月末からのこの学期休みは、スキー場や高速道などの集中混雑を避けるため、フランス全土を3ゾーンに分けて休みの期間がずらしてあるんですが、ポワチエ地区の学期休みはとっくに終わっているので入場客はパリ地区からの家族連れしかおらず、意外なほど空いてホントによかったです。

さて、のーんびり出撃したわれわれは今回の新顔「未来エキスポ館」へ、行列用柵がバスケットボールコートほどもつづら折りになっているのを横目に、すんなりすべりこんだんですね。

等身大スマホみたいな鏡に全身が映るとヴァーチャルブティックで洋服だけ着せ替わる、というような体験型展示がいくつもあります。

そこに、「未来の寝室」、というのがあったんですね。

手前のパネルを操作すると、光のぐあいでクローゼットの扉が好みの色やデザインに替わるのみならず、寝室全体が森の中になったり、魚泳ぐ深海になったり、雪降る山中になったり、ベルサイユ宮風の豪華なしつらえになったり、する。

そういう別世界の真ん中に、ダブルベッドが鎮座ましましているわけです。

「ロマンチックだなあ・・」
とも、言えましょうが、
「むしろラブホって感じだなあ・・」
と、どうしたって思わずにいられない。

最先端技術の雄、日本だったらこれ、家に居ながらにして別天地を味わえる
「未来のお茶の間」
という方向になるのではありますまいか。

そのほうがドラエもんのポケットからも出て来やすそうです。


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通りがかりにパチリ。隅田川沿いにバブル時代に制作展示された、ビール会社(だったと思いますが違っていたら平にご容赦)の「黄金のウンチ」同様、名インダストリアルデザイナー・フィリップ・スタルクによる「自由の女神の持つ炎」です。ダイアナ妃が事故で亡くなった時はここが鎮魂の碑みたいになってました。

前菜は、スモークサーモン、プチトマト
主菜は、舌平目グリル、パエリア風野菜とムール貝入りサフランご飯、いんげん塩茹で

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