立ち呑み日記・月のうさぎ [食前酒]

ウサギをロゼワインで煮込みながら、つらつら考えた。「月のうさぎ」という合唱曲、あったナ。

合唱組曲「月と良寛」の中の一曲で、ワタシの中学高校生時代、学内コーラスコンクールというと、毎年どこかしらのクラスが歌っていたものです。

今調べてみたら、「さっちゃん」「犬のおまわりさん」「おなかのへるうた」などを作曲した大中恩(おおなかめぐみ)の1960年の作品で、昭和40~50年代によく歌われていたもよう。

歌詞は有名な仏教説話、同じ内容が今昔物語にも採集されているそうです。

むかしむかし・・
キツネとサルとウサギが、野山で楽しく暮らしておりました。

あるとき・・
お腹が空いて死にそうなおじいさんと山中で出会います。

キツネとサルとウサギは・・
おじいさんを助けるのに、それぞれ食べ物探しに出かけました。

キツネとサルは、持ち前の知恵と腕力でおじいさんを喜ばせるような食べ物をたんと提げて戻って来ます。

けれどもウサギは・・
身体も小さく力もなく、何も収穫できずしょんぼり戻って来ると焚火の前のおじいさんへ無力を詫び、せめて自分を食べてくれ、焚火に飛び込みます。

おじいさんは神様の姿にかえり・・
うさぎの優しい心を慈み、むくろとなったウサギを胸に抱き、月の世界へと旅立って行きました・・

自己犠牲を美化するとは封建的でヤなこった、
と、反抗期のワタシは歌を口ずさみながらも冷ややかに思ったものでした。

が、大人になり台所で香気あふれかえるウサギの鍋をかきまわしつつ口ずさんでみれば、この説話は必ずしも鹿爪らしい美徳のみを物語っているわけでないと気づかされるんですね。

裏メッセージが、ちゃあんとある。

すなわち、ウサギは
「食べられる(食べていい)」
と、お釈迦様のお墨付きをもらっている。

殺生というので肉食は日本では長らく禁忌でしたが、その実、村の生活ではたまさかに野ウサギをしめウサギ汁にしてきたわけです。

ホラ、上野の西郷さん、あれは愛犬連れてウサギ狩りに繰り出す姿だそうですゾ。西郷どんはペット用としてウサギ狩りしたわけでは断じてありますまい。

明治の文明開化のころ、牛豚馬の肉は、エイヤっと垣根を飛び越えるほどの勇気と興味をもって、当時の日本人は口にしました。

飛び越える垣根なく、村の日常の目立たないところで食べ続けられてきたウサギ肉は、戦後の繁栄とともに忘れ去られてしまった。

あるいは安ソーセージ用のほんの混ぜ肉として、できればその存在を知らしめたくないような低地位までに落ちぶれてしまった。

美味しいのになあ・・

「あんなにかわいいのに」
と、言われちゃうと、やはりなかなかむずかしいです。

ヒヨコだってかわいいのに、こちらは食べるのと愛でるのと両立できたのはどういうマーケティングだったんだか。

日清チキンラーメンにはかわいいヒヨコの絵があしらわれ、博多の名物屋台には焼き鳥屋「ピヨちゃん」という老舗があったと聞き及んでいます。

そこいくと、ウサギ肉専門レストラン「ミッフィー」と言われた日には、やはり食べづらいことこの上ないです。


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秋晴れの午後、歯医者の帰りの通りがかりにパチリ。カルーゼル凱旋門といって、19世紀初頭にナポレオンをたたえて建立されました。前方はルーヴル美術館。風がありけっこうホコリっぽかったです。

前菜は、トマトサラダ
主菜は、ウサギの南仏野菜入りロゼワイン煮込み、白飯、グリーンサラダ


立ち呑み日記・やれやれの時間 [食前酒]

カフェの、すみっこのほうに席がとれて、やれやれ。

ただ今、11歳のムスコとその大親友の、チェスのおけいこが終るのを待っているところです。地下鉄に乗るほどの距離ではなく、かといっていったん帰ったら家に到着するなりまたすぐさま飛び出さないとならない。

そこで最寄りのカフェで時間をつぶすわけです。

このカフェは古く堅牢なカウンターが中央にデンと構えて、なかなか素敵。戦前のしつらえのままだと思いますヨ。

1990年代後半までは、頑固そうな老齢のご主人が一人で切り盛りし、ワインの種類の多いそれはもう有名店で、「ポワラーヌ」という、かまど焼きの田舎風パンを使ったオープンサンドが名物でした。

「この店は『ポワラーヌ』のパンを出している」
というと、一目置いたもンです。最近はおいしいパン屋がいろいろ台頭したせいか、「ポワラーヌ」をさほど有り難がらなくなりました。

このカフェ、当時の観光ガイドブックにはどれにも掲載されていたほどでした。

その後、高齢のご主人が亡くなり、別のオーナーへと移籍。店構えは昔と同じですが、タバコのやにだらけだった店内が塗り替わり、照明などが今風に垢抜けたように思います。

経営者は存じませんが、40がらみのオジサンたちが店をまわしています。

フロアを仕切っている細身のオジサンは、漏れ聞こえてきたところによると以前は舞台に立っていたプロのダンサーだそうな。

さもありなんと思いますね、注文を取りに来るときの、キレのある身のこなしといったら。

「紅茶、ですね」
と、昨秋の新年度からこのかた、寒いのでナントカのひとつおぼえよろしく紅茶ばっかり注文しているので、本日もそう聞かれました。

「おねがいします」

食前酒といきたいところですが、ちびすけどもの送迎があるなかでそうもいきません・・

・・と、そこへ、小さい子ども二人連れた年配のマダムが、ワタシの隣りにやってきました。

仕事で抜けらなくなった息子に突然頼まれおっとりがたなで孫を学童保育へ迎えに行き、ひとまずここでやれやれ、という旨を、元ダンサーのギャルソンに説明なさっています。

息子夫婦は離婚に向けて別居中、ということも聞こえてきました。フランスではちっともめずらしくない状況です。

「あなたがた、何にする?」
と、マダムはメニューを目からうーんと離して読みながら、孫に話しかけています。
「ジントニックはどう?」

「ボクたち子どもだからお酒は飲めないよ」
と、8歳ぐらいのお兄ちゃんのほうが真に受けて返答しました。

子どもたちは、砂糖がけのクレープをたのむことになったようです。

マダムはというと、
「この時間だもの、キールにするわ」

キールは白ワインのカシスリキュール割りで、食前酒の定番です。

そうこうするうちにこちらも迎えの時間となりました。

「マタネー」
と、カウンターの内側にいるコワモテのオジサンが、誰に教えてもらったのかいきなりシナシナっとした女のコっぽい発声の日本語で挨拶してくれるのも、いつものことです。


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「の」というんですがその前の漢字が日本人(観光客)には読めないんじゃないの?  と、立ちどまってじーと見るうちに、これかならずしも「の」ではないのではと思い始めました。@みたいな記号かしら。

前菜は、カボチャのポタージュ
主菜は、鶏ロースト、じゃがいもとトマトのロースト、いんげん塩茹で

立ち呑み日記・ワカモーレ [食前酒]

ワカモーレが
「食べたい、食べたい、食べたい」
と、13歳のムスメ。

ワカモーレはメキシコが本場のアボカドのペーストですが、フランスでもスーパーの冷蔵コーナーに必ずあるほど一般的です。

「誰だってこれ観たら食べたくなるって」
と、ムスメはiPADの画面をこちらの鼻先へつきつけます。

どういういきさつで見つけたのか、≪ワカモーレの作り方≫というスペイン語の映像で、色つき粘土とレゴを使った3Dアニメが始まりました。

緑色の粘土のアボカドにアニメの包丁がしゃっしゃっと入ってパカンと割れたところへ、これもアニメのスプーンで、びるるん、びるるん、と、すくいだし、石の器に入れていきます。

するとアボカドはぱらっとした緑色のレゴにかわり、同様に赤い粘土のトマトへしゃしゃしゃしゃっと細かく包丁が入るや石の器の緑のレゴに混じり赤く細かいレゴが散る。

みじんの白い玉ネギや深緑色の香草、黒い点々の胡椒(の、レゴ)なんかも入ります。

それを、にぎりこぶしぐらいの石が、ごり、ごり、ごり、と、押しつぶしていきます・・

・・レゴは渾然一体となって薄緑色の粘土へとまたかわり、ハイ出来上がり。

しゃっしゃっ、パカン、びるるん、びるるん、しゃしゃしゃしゃっ、ごり、ごり、ごり・・・という音とレゴが想像力をかきたて、ムスメの言うように実物の食べ物でないのに喉が鳴りました。

矢も盾もたまらず、作ることにします。念のためクックパッドでもレシピを確認。

ワカモーレといえば語学学校時代、クラスメートの誰かしらのアパートでの持ち寄りパーティーというと、お決まりのようにボールでドンと出ていたものです。

トルティーヤという、とんがりコーンみたいなスナック菓子ですくって食べるのが本流ですが、大袋をあけても若い胃袋にはまるで足りず、持ち寄りのスティック野菜やポテトチップや薄切りバゲットまで総動員して口に運びました。

ワタシもまた狭い下宿部屋でパーティーを主催した時は見よう見まねで作りましたヨ。アボガドの種を上にごろごろ乗せておくと変色しない、なんて裏ワザも、この時知りました。

が、あれから早や30年(!)、レシピは忘却の彼方。考えてみれば、食前酒のおつまみに最適なのになぜ今まで作ろうとしなかったんだか。

レシピを検索して知りましたが、本場メキシコではすべての料理の味つけのベースにするためよけいな辛味は加えないのだそうです。

アボガド、細かく刻んだトマト、玉ねぎ、コリアンダー、ライム、以上を、本場メキシコでは先の3Dアニメのように石の器でにぎりこぶし大の石を用いてごりごり混ぜる。完全なピューレではなく、ある程度形を残しておくのが「本場流」だそう。

うちに石の器はないのでカフェオレボールでやりました。つぶすのは、フォークとスプーンです。

ライムを絞り入れるとグッとエキゾチックな「本場」の風味になりました。が、11歳のムスコなどそのせいで一気に敬遠。初心者はレモンのほうが穏やかでいいかもしれません。

トルティージャの大袋も買ってみましたが、それよりセロリですくって食べると軽やかで、食前酒が大いにすすんじゃいました。


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ホームに入って来た地下鉄を撮ろうとオタオタするうちに行っちゃいました。仕方なく対面のホームをパチリ。

前菜は、アボカド、レモンで
主菜は、牛(フォーフィレ)ステーキ、じゃがいもピューレ、モロッコいんげん塩茹で

立ち呑み日記・キムチのシル [食前酒]

アジア食材店で買ってみた瓶入りキムチの最後の一片をつまんだ後に、シルがずいぶん残りました。

獰猛なほど真っ赤な、辛そうなシルなんですが、このまま捨てちゃうのもなあ・・と、おそるおそるフチに唇つけてちょこっとひと口・・

・・あらまあ美味しい。

口中がカンカンしてくるまでの辛さはなく、味つけがことのほかヨロシくて、
のむおつまみ
テナ感じです。

ついもうひと口。このままごくごく飲み干してもいいくらいです。

考えてみれば、韓国・北朝鮮の方々ってキムチの残り汁、どうしてるんでしょうか・・

・・と、こう書きながら気づきましたが、本邦をかえりみれば、白菜のおしんこを漬けたらやっぱり下の方に澄んだシルが出ると思うんですけど、これまでこれをのんでみようと思ったことなどた・だ・の一度たりッともなかったです。

それはなぜなのか。

キムチのシルのほうは再利用法がいろいろあるようで、クックパットを検索したらずららららーっと出て来ました。

パリの、在仏日本人・韓国人にその名を知られた韓国料理店「韓林(ハンリン)」などは、キムチの残りシルのおかげで大成功したと言い切っていいほどです。

1970年代にフランスへわたってこの店を開いた初代ご主人が、資金の少ないところでなにか名物料理が編み出せないかと頭をひねり、苦肉の策で、キムチの残りシルに刻みネギとしょうゆを混ぜた液に、これも仕入れ値格安の鶏手羽を漬けこんで唐揚げにしてみた。

韓国にはそういう伝統料理は存在しないのだそうで、しいていうなら
「中華料理の範疇(はんちゅう)、じゃないかなあ」
とは、在パリ韓国人の友人。

「韓林」ではこの鶏唐揚げがすこぶるよろしいと、どの在仏日本人・韓国人も知ってるくらいです。

アア食べたくなってきたナ。

韓国本国では、キムチの残りシルといったら白いごはんにかけて食べるのが王道だそうな。韓国には♪真っ赤なお日さまよ、キムチの汁かけ飯かっこんでチャンギ(銅鑼)鳴らしてのぼって来い、という内容の童謡があるぐらいなんだそうです。

「かっこんで」と書いてはみましたが、実際には韓国・北朝鮮でご飯茶碗を手に持ち上げるのは禁物で、しかもご飯は箸ではなくスッカラというスプーンで食べるものですよネ。

白菜のおしんこのほうは、なぜシルをご飯にかけて食べてみようとならなかったんでしょうか。

ただまあ、おしょうゆを代表にして、お茶碗のご飯にかけまわしてそれだけ食べる、ト、こう想像すればわかりますが、お行儀がよろしくない感じがしないでもないですよネ。

とはいえ、おしょうゆに加え生卵が加わるとお行儀は別にダイジョブになるのはどうしてなのか・・

・・とまあ例によってどうでもいいことつらつら考えながらキムチの残りシルをさらにどんどんのみそうになりましたが、さすがに塩分のこと考えてやめました。

キムチの残りシルは、自家製キムチならどう再利用してもよろしいが、市販品の場合、保存料だの着色料だの化学調味料だのがごーってり添加されている可能性が高いので要注意のようです。


写真はしばしお待ちくだされ。

前菜は、鯛のお刺身、大根のバター焼き、銀杏塩焼き、おろし大根にのったいくら
主菜は、鶏レバー、ハツ、豚肉、豆コロッケの串焼き、ポテトフライ、グリーンサラダ*

立ち呑み日記・スペイン国歌 [食前酒]

スペインの国歌って、歌詞がなくてメロディーだけなんですってネ。

ただ今、ピレネー山脈のふもとにある友人の大きな家に3家族が居候して、のーんべんだらりと過ごしているところ。

居候のひと組は友人の息子一家で、彼らはセビリア在の西仏国際結婚なんですが、本日食前酒かたむけながら、国歌のハナシになったんです。

フランスって太っ腹だなあ、と、ワタシなど思うわけですヨ。

いえね、こないだyoutubeを見ていたら、レビューショーでフレンチカンカンを陽気に踊っていたんですね。その音楽が「ラ・マルセイエーズ」、これ国歌ですゾ。

ちょっと想像してみてくださいナ、「君が代」で、とはいってもそのままだとテンポがあれなんで右翼の街宣車風で、スクールメイツあたりがフレンチカンカンをひだスカートからげ大股広げてちゃっちゃっとやる。

「不謹慎きわまれりッ」
と、どの方面からも叱られそうです。

アメリカ国歌でも、やはりむずかしいんじゃないでしょうか。

「スペイン国歌もね、カンカンは無理だと思う」
と、息子夫婦。

この時、歌詞が存在しない旨おしえてくれたんです。

20世紀初頭、アルフォンソ3世の治世下には王政礼賛の歌詞が、フランコ独裁にはまたその時代の歌詞があったそうですが、今はそのいずれも非公式だそうです。

2008年に一般公募された7000もの候補の中から「これ」というのを選出したものの、やはり強い反対が出て、没。

そもそも歌詞に折りこまれる国名が「スペイン」ではだめで、「スペイン王国」、いや「制限君主による共和制の国」、と、この時点でもう火花を散らす大議論なんだそう。

「多民族が共存する制限君主による共和制の国」なら
「まあいい、かもしンない」
と、スペイン勢の二人。

そこでみんなでスペイン国歌を考えてさしあげよう、と、いうことにあいなりました。

♪イベリコの燻煙かぐわしく、
と、いうのを、ワタシなど断然入れたいですね。

イベリコ豚といったらパリにも専門店があり、その繊細な風味といったらため息モノ。ただしお値段もまたため息モノなので、そうめったなことでは口に入りません。

♪黄金(こがね)のパエリア炊き上がり、
と、いうのもはずせないところです。

♪赤と白のワインも泉のごとく・・

どうです、われながらうまし国を実に的確に表現しているではないですか。が、これらはみな「ダメ」なんですね。

なぜというに、豚を禁忌とする宗教の人たちから総スカンをくらい、米以外の生産者たちからにらまれ、禁酒主義者たちが目をむく。

「ね、むずかしいでしょ」
と、スペイン勢二人。

ではスペインで誰もが誇れるものとは何か。

「『太陽がさんさんと照る』」
と、ジュースをのみに来た10歳のムスコが、実にもう、うがったことを言い出しました。

♪多民族の共存する制限君主制による共和国には太陽がさんさんと照る・・

どうです、実に的確で素晴らしい。スペインの方はぜひご参考になさってください(ってこれ食前酒のヨタバナシですからそのへんのとこよろしくおねがいいたします)。


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木の高いところに張り巡らせたロープをターザンのように伝う自然のテーマパークで、ただ今水飲み休憩。

前菜は、豆腐とピータンと胡麻油のまぜまぜ
主菜は、ジャージャー麺

立ち呑み日記・ネギ味噌 [食前酒]

晩ごはんにお招きしたお客様にベジタリアンの方がいらしたので、主菜を牛肉ステーキと豆腐田楽の二本立てにしました。

田楽の味噌はたまご味噌。味噌と卵を炒りつけた津軽地方のおかずです。薬味に小口のネギ。

たまご味噌とネギが余ったので、後片付けの時冷蔵庫のスペースの都合上エイッと同じ小鉢に投入しちゃいました。

そしたらなぜか、かきまぜたほうがいいような気がしてきてスプーンでぐるぐるし、そのスプーンをぺろっと舐めたら、あらマ、なんて美味しいこと。

ネギがサリサリして味噌で辛味が抑えられ、その味噌は卵でまろやかになっていて、三者渾然一体の妙味とはこのこと。

とっくにデザートまで終わり、お茶と一緒にビスケットまでつまんだっていうのにオチョコをひっぱり出し、日本から持ってきた紙パックの清酒をひと舐めせずにはいられないくらいでした。

翌日はもっとよかったです。ネギがしっとりしてより味噌になじみ、渾然一体の仲がより深まってました。

この味噌を気のきいた小さな器にチョンと盛りつけ、箸でちょっぴり舐めつつちびり、ちびりやったらさぞいいだろうナァ・・

「やればいじゃないの紙パックの清酒もあるんでしょ?」
と、いうお声が聞こえて来たようですが。

そりゃマ、やりますとも。ただ、わが身の環境といいますか状況がですね、ちびり、ちびりにそぐわないんです。

みなさんもご夫婦なり友人なり、近しい人とともにネギ味噌、とこう想像してみてくださいナ。さしつさされつネギ味噌に箸をちょこっとすべらせ舌にのせ、いったん箸を置いてしばし談笑する。

この時、いわくいい難い「間」が、ありますよね、フランス人にはこれがないんですね。

そもそもネギ味噌は前菜なのか主菜に添えるのか、あるいは食前酒のおともにするのか。

食前酒となるとフランス人はたいてい立ったままグラスを持ちますから、そこへネギ味噌の小鉢を突きつけられても口に運びづらいばかりです。

となればキュウリやニンジンのスティックなどを添えてディップということに、どうしたってなる。ディップは美味しいですけど、そうするとひと舐めしてちびりちびりとは、おのずと違うものになっていきます。

前菜はどうでしょうか。

ネギ味噌だけではもたないのでトマトサラダなどといっしょにテーブルにのせることになります。それはもちろんヨロシイです。

が、前菜といったらもうつまみでなくお食事ですから、一同せっせとフォークとナイフを動かし、談笑も次から次へとトーンが上がり、いっときも休む間なし、テナ感じになっていくんです。

するとここにちびりちびりの間合いは出来得ない。ネギ味噌は皿のヘリにでもとって時にフォークで舐め、時にパンにつけてまた食べる。

マ、それも悪かないンですがネ。

ネギ味噌っておにぎりの具にしてもおいしいそうです。

朴葉みその郷(さと)、岐阜県では、ネギ味噌に小麦粉をまぜて揚げた天ぷらが定番おかずでスーパーでも売っているそうで、これなど食前酒のつまみにとおってもよさそうです。


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おけいこごとに連れて行くところのワルガキほか三匹。この直後三匹は意味なくターッと走り出し肝を冷やしました。

前菜は、トマトサラダ
主菜は、白身魚ムニエル、ニンニク風味パセリ入りのじゃがいもピューレ、いんげん塩茹で

立ち呑み日記・カフェにて [食前酒]

水曜日の夕方5時。

ニワトリを鶏小屋に追い込むがごとく、10歳男子三人組を習い事の教室におしこんで、やれやれ。

男子三人組の送迎を代表して請け負っているオカーサン(ワタシです)は、近くのカフェに席を見つけたところです。

外は紺色にしっとり暗くなり、このカフェは喫茶というより食前酒の時間に入りテーブルにはキャンドルが揺れています・・

・・と、席についてひとまず全体を見回していると、不意にまわりが微妙に暗くなった、気がしました。

小学校のころ朝礼でこんなふうに不意に周囲が、
あれれほの暗くなったぞ・・
と、思うまもなく脳貧血でブッ倒れたことがあるんですが、三人組を連れ帰る責任上、今ここで意識を失うわけにはいきません。

頭ブンブンお目目パチパチしていると、ほの暗くなったのは断じてわが貧脳の脳貧血なんかではなく、古めかしいカウンターの向こうでギャルソンさんが電気のスイッチを触っているから、ということに気づきました。

宵闇迫るにつれて店内の照明も加減しつつ落としているところだったんですね。

カフェはいつ行ってもカフェと思いこんでましたけど、考えてみれば朝昼晩で演出をかえていたわけです。

朝はカウンターにクロワッサンの入ったカゴを置いて朝食仕様、昼は紙のテーブルクロスで昼定食仕様、午後はお茶タイムで、ここまでの時間帯までは店内が薄暗いと陰気くさくなるので照明で明るくし、陽が落ちてくると今度は暗くしてそれ相応の雰囲気を出す。

なるほどなあ・・と、感心しながら、こちらへキビキビ向かって来たギャルソンさんにペリエを注文しました。

店の中央にデンと構える古色蒼然と黒光りした木のカウンターでは、背の高い椅子に半尻のせたオジサンが赤のグラスワイン前にのーんびりやっておられ、目の当たりに指くわえてうらやみましたが、男子三人組の送迎という大任抱えた身では真似するわけにもいきません。

男子三人組は公道も校庭も同じと心得て、右へ左へ走り回りますからね。

ペリエと、レモンの薄切りが入ったコップがやってきました。

トクトクトクしゅわしゅわしゅわ・・と、ペリエを注いでいると、また別のギャルソンさんがキビキビ近づいてきて、とん、と、わがテーブルに、なんとまあ薄切りサラミの小皿を投下してくださいました。

「ハッピーアワー」と、学生街のカフェやバーにはよく看板が出ていますが、食前酒の時間帯はちょっとしたサービスがあるんです。

コレワコレワと、さっそくパクリ。

燻(いぶ)した脂の滋味が舌全体にまわり、ホッペの内側がきゅきゅーんと痛くなったほど、とおってもヨロシいお味。

ここで赤ワインを後追いさせれば
(アーシヤワセ・・)
と、陶然となることうけあいですが、ペリエをゴクッとやったら、ホッペのきゅきゅーんがことさらに強調されました。

そういえば渡辺淳一『失楽園』に、ペリエでエポワスというクセの強いチーズを食べる陰険な夫が出てきたナ・・

・・テナ脈絡ないことぼんやり考えるうちに時間はみるみるたち、男子三人迎えの時間となりました。


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セーヌ河の中之島サン・ルイ島のクリスマス飾りです。

前菜は、アボカド、レモンで
主菜は、ほぐした鱈(たら)そぎ身のフライ(残り物)入りオムレツ、じゃがいもピューレ、いんげん塩茹で



立ち呑み日記・五人娘 [食前酒]

陽気涼しくなり、ぬるめにつけた燗酒が
(のみたいなあ・・)
と、戸棚に後生大事ととってあった日本酒の最後の一本に、とうとう手をつけてしまいました。

日本酒は、たまさかに日本からのおみやげでいただくんですヨ。自分でも一時帰国のたびに持ち帰ります。

大吟醸だの純米吟醸だのは気軽に開けづらく戸棚のこやしになるままに、フランス人の友人知人の家にお招きにあずかった折の手土産にしたりしてました。

が、ある日ふと思ったんです。手土産もいいけど、わが目の前を右から左へ消えていくばかりではチトさみしい。

そこである時、戸棚のこやしへ勇気をもって手をつけてみました。するとなんとまあおいしいこと。

勇気はりんりんとわき、一本、また一本とどんどん片付いて行きました。なかには二十年近く眠っていたものもあり、こういう古いお酒は黄金色に変色してマデーラ酒みたいなこっくりした風味。

ワインもいいけど日本酒もいいナ・・
・・と思っていたところで、この涼風です。

空を見上げれば鰯雲、パリはここのところ小春日和が続いているとはいえ、地面を見れば影が大きく伸びている。

これはどう考えてもぬる燗日和。

そこで勇気中の勇気をふりしぼって最後の四合瓶をとり出したわけです。なに、次回の一時帰国でまた買えばいいだけのハナシです。

純米吟醸といいますから高級品、しかも箱の説明によると、無添加で万事自然に発酵させたものとのこと。こくこくと耐熱カップにとり、軽くチンしたぬるいところをお銚子にうつして、デワデワいただきまーす・・・

・・・ウッ、と、思わずむせましたね。なんという糠(ぬか)臭さ。発酵の進んだ糠味噌が浮遊沈殿してるんじゃないかとさえ思いました。

知りませんでしたが、この純米吟醸「五人娘」は糠みそ風味でつとに知られているんだそうです。

そもそもは醸造元・寺田本家の寺田社長が、伊勢神宮に伝わる古い文献にあったという玄米からつくった御神酒の話に触発されて発芽玄米で醸造してみたのが始まりだそう。

この試作品は、糠味噌発泡酒、とでもいうような、清酒とは似ても似つかぬ摩訶不思議品だったそう。

そこから改良に改良を重ねて「五人娘」にいたるんですが、その間、酒税法上「清酒(日本酒)」ではなく「その他の雑酒」に長らく分類されていたそうな。

なぜというに、清酒(日本酒)は白米から醸造したもので、表皮を剥いていない玄米のそれは前例がなかった。

食品見本市に出した時は、ブースで試飲していた紳士が
「これがまずい酒の代表だ、よく憶えとけ」
と、連れの一人に耳打ちしているのを寺田社長はしかと聞いたと言います。

しかし、こういうクセの強いものっていったん慣れるとやみつきになりませんか。

当初は「うえー、ぺっぺっ」と敬遠したのに慣れてくるとそれ無しではいられないものって、ワタシはペリエなどの炭酸水がそうです。

かようにこの糠臭さもいつの日かやみつきになりましょうが、初心者(ワタシです)には今はまだ大いなる努力が必要な段階。

とはいえなにしろこれが最後の一本。ありがたく、最後の一滴まで全うする所存であります。


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ワイン屋のショーウインドーをパチリ。

前菜は、トマトサラダ
主菜は、鶏ロースト、じゃがいもロースト、いんげん塩茹で、グリーンサラダ


立ち呑み日記・村のカフェにて [食前酒]

「今日の『デペッシュ』読んだ?」
と、フランソワーズと青空マルシェ前のカフェに陣をとっていたら、フランソワーズの友人女性が駆け寄って来ました。

ただ今バカンスで、ワタシら一家は古い友人でスペイン国境近くの寒村に住むフランソワーズの家に居候をきめこんでいるところ。

買い出しに青空マルシェのたつ隣り村へ出るんですが、帰りにきまってここでひと息入れます。

常連のフランソワーズとその連れ合いアランの前には打てば響くように生ビールが出てきて、ワタシも
「同じものおねがいします」

フランソワーズの友人女性もわれわれの輪に加わりました。と、いいますか、いつもの輪にワタシが加えていただいているわけですが。

「この県で、コカイン総3キロ400グラムを豊胸手術でオッパイにしこみ密輸しようとした女が捕まったんだそうよ」

ニンニク商の屋台の前で小耳にはさんだと言うんです。発言者は今日の『デペッシュ』で読んだと確かに言ったそうな。

『デペッシュ』というのは地方紙で、『ル・モンド』などの全国紙がとり上げない地元の話題に充ちています。

「だからひょっとしてあなたがた詳細を知ってるかと思って」
手を貸した外科医も外科医よねーえ、と、鼻息荒く糾弾なさいます。「どの村の誰だか」

パリなどの都会では外科医といったらゴマンといますが、こういう小村では「誰」というのがうすうす特定できるらしいんですね。

「総3キロ400といったら片オッパイ何キロになるのかしらねえ」
と、悠然とタバコ吹かしながらフランソワーズ。「1キロ800?」

「違う、1キロ700」
と、これまた煙突のようにタバコふかしながらフランソワーズの連れ合いのアラン。

「あらアラン、その手何やったの?」
と、友人女性は、サポーターの巻かれたアランの右手首に気が付きました。

木の彫刻家アランは、作品のもとになる廃材を斬り分ける際に、なにぶんにも寄る年波から腱鞘炎になった、と、言ってました。

「オナニー」
としかし人を喰うことを信条としているアランは飄然と言い放ち、タバコをぷかり、生ビールをぐびり。

やあね、と、友人女性はアランの肩をぽんと打ち、
「いつもの」
と、お店のひとに声をかけます。

「3キロ400グラムのオッパイといったら相当な重さで生き死ににかかってくるわよ」
と、フランソワーズ。

もう何年も前になりますが、フランスにはロロ・フェラーリという巨乳タレントがいたんです。彼女はそんじょそこらの巨乳ではなく、豊胸手術により尋常ならざる風船を際限なく増大。

が、それがたたり、スターの座もはかなく亡くなってしまいました。

まして中に詰めているのがコカインというんですから、危険なんてものではないはず。ワタシもまた、その新聞記事を読んでみたくてたまらなくなってきました。

「買って来たわよーッ」
と、そこへフランソワーズのまた別の友だちが新聞を高々と掲げて大股でやって来ました。
「カゼネタよ、載ってやしないわ」

おかしいと思ったのよね、と言いながらイスを引き寄せ、いつもの、と、今度はギャルソンに声をかけて、おしゃべりはまだまだ続きます。


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香辛料屋の広告塔なのかいかがわしいモノ発見。このあたりから想像をふくらませた誰かがホラバナシしたんじゃないでしょうかねえ・・

前菜は、メロン
主菜は、白インゲン豆とハムのトマト煮込み


立ち呑み日記・缶ビールの友 [食前酒]

新大阪駅21時。ユニヴァーサルスタジオジャパンでの二日間を終え、いよいよ東京方面に戻ります。

周囲にはわれわれ親子と同じくUSJの紙袋を提げた行楽客もいますが、大半が出張帰りの白シャツの方々です。

みなさん片手には売店で買ったビニール袋を提げておられる。

こちらのオカーサン(ワタシです)も抜け目なく提げたビニール袋には、缶ビール((2)と30品目弁当というのが入ってます。

晩ごはんはレストランでしっかり食べたんですがネ。

30品目弁当は食べたかったからというわけではなく、売店にこれしか残ってなかったのでいやがおうでもこうなりました。

結果から先に言いますと、おつまみとしては大失敗(涙)。おかずの、揚げ豆腐も野菜の煮しめも、どれをとっても、甘い。ひたすらに、甘い。

30品目をとりいれる健康食としては優良でしょうが、缶ビールプシーッにはまったく不釣り合いでした。

が、買っちゃったものは仕方ない。ワルガキ二匹がiPADに頭をつっこんでいるのを横目に甘い煮豆を(甘―ッ)と思いながら口に運びつつ、グビリ、またグビリとやります。

出張慣れした白シャツのみなみなさまは何をおつまみにプシーッとやっておられるのか。

下り新幹線だったら違いなく「シウマイ弁当」でありましょう。FBを開けると、関西方面出張となる友人たちが決まってその写真を掲載しています。

長方形の経木の箱に、きっちり一列に並ぶシウマイ。筍なのかシナチクなのか、黄金色の煮もの。それらの中央に太陽のごとく君臨する干しアンズと寄り添うフチの赤いカマボコ一片・・

・・これらすべて缶ビールの友として十分すぎるほど存在感がありますが、弁当箱の下半分をみっしり占める黒ゴマのかかった白飯は、おつまみとしてはどうなんでしょうか。

(ホントいうと合わないんじゃないのかなあ・・)
と、三十品目弁当の下方をみっしり占める五穀米をもそもそやり、またしてもグビリ。

ご飯ものだってしかし、ビールに合わないこともないです。それが証拠に、斜め前方の窓際席の紳士は、柿の葉寿司をつまみにグビリとやっておられる。

いいナ。どの売店で見つけたのかナ。

柿の葉寿司は、中学時代の京都修学旅行で関西の食べ物をよく知らなかった引率の校長先生から
「柿の葉っぱまで残さず全部食べなさい」
と、まるごと食べさせられて以来、ノドの通りの悪い、もう二度とお目にかかりたくない代物と思い込んできましたが、大人になって久しい今ではしみじみつまんでみたい食べ物になっています(ただし柿の葉っぱはなしで)。

窓際の紳士も、柿の葉は剥いてお召し上がりのようでした。

そのお隣りの席の紳士は、柿ピーの小袋に指をつっこんで口にポンとほうりこみ、二本目をプシーッ。その足元は、早くも革靴と靴下を脱いだ裸足です・・

・・見回すと、白シャツの紳士連はみなさん、裸足を前方に投げ出しておいででした。

新幹線慣れしてないワタシとしましては、十余時間の飛行機ならあれですが、たかだか2時間半の旅では足が寛(くつろ)ぐ前にまた靴下と靴を履き直さねばならず、かえって疲れるような気がしないでもないんですが、どういうものでしょうか。


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ついこのあいだまであった建物がもう思い出せません。

前菜は、メロン、トマトサラダ
主菜は、さつま揚げ、モロッコいんげん塩茹で、冷やし中華

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