立ち呑み日記・かぶせ歯 [困った!]

「歯科技工士さんに直接歯を見せてください」
と、歯医者さんにおねがいされ、歯科技工士さんの自宅兼アトリエへ出向くこととなりました。

前歯の一本に、セラミックをかぶせることになったんです。

今回の歯と対称の位置にある歯もかぶせ歯ですが、よくできていて自前と見分けがつかないくらいです。

今回は、治療台で鏡を手渡され、
(うーむ・・)と、なりました。

一本だけ、
かぶせましたーッ、
というごとく、あからさまに色が違う。

「こ、こんなのいやですッ」
と、色めきたつまでもなく、四十代美女の歯科医師先生は美しい眉をピクリとさせ、
「彩色させ直します」

この先生が手際よく作った仮歯は左右の歯となじんだ自然な色合いで、かぶせ歯とはわからないほど。このままでいいとさえ思いました。

「それは無理なの、仮の歯は長きにわたってはもちません」

先生はスマホをワタシの口すれすれに近づけ写真までとり、修正しとなりました。で、その修正ができ上がって来たんですが・・

やはり色が違う。

歯科医先生は眉間に大いにシワをよせ、
「ダメだわ、一からやり直してもらう」

昨今の歯医者さんは虫歯の治療のみならず、審美に大いに重きを置いているものだそうです。

先生の父君も歯科医師で、ワタシはもともと父君の患者でしたが、大(おお)先生のあぶらがのっていた1970~80年代は、
「インプラントを大いに奨励したものだよ」、
二代目である娘の時代となった今は、
「なんといってもホワイトニングだね」
とのことです。

さて、三度目の正直、こんどこそガハハと笑っても悪目立ちしない口元になれると喜び勇んで登院。

本来一回のみでお役御免となる仮歯を入れたり抜いたり何度も繰り返したために、当初はあんなに自然な形だったのが今は吸血鬼のキバみたいになってますからね。

でも、治療台にのるや、ふだんならすぐさまおしゃべりがはじまる先生が無口になったので、
(またしてもしっぱい)
と即座にわかりましたね。

色が、やっぱり違う。質感も違う。

そこでこの文章の冒頭に戻るわけですが、先生はその場で技工士さんに電話をかけ、製作者の前でワタシがニッカリしてしかと見せることとあいなりました。

技工士さんはパリから車で20分の閑静な住宅地にアトリエ兼住まいがあるとのことで、パリの中心地で待ち合わせ、迎えに来てくださった技工士さんの自家用車で向かいます。

技工士さんは六十がらみのレバノン人で、1970年代中ごろのレバノン戦争でフランスにやって来て医大受験に失敗し、歯科技工士への道へと方向転換したのだそうです。

アトリエは小さな庭に面したガレージを改造し、いかにも職人仕事にふさわしい、手作り感あふれる一角です。

セラミックのかぶせ歯は、彩色して専用窯で焼いて完成。

が、後日、胸ときめかせて登院するとあろうことか、ほんとうにあろうことか、またしても色が違う。質感が違う。くっきり違う(泣)。

先生がため息つきつつおっしゃるには、腕のいいベテラン技工士さんなのに半年ほど前に最新式でコンピューター制御の窯を導入して以来こうだそうで、仕方なく別の技工士さんに発注をかえ、一からやり直すこととなりました。

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こちらもようやく暖かくなってきました。

前菜は、無酵母クラッカーを砕いたパン粉のすいとん入りスープ、鯉のつみれ(缶詰) 過ぎ越しの祭というユダヤのおまつりのお節料理です。
主菜は、鴨の抱き身ソテー、いんげん塩茹で

立ち呑み日記・そうだったら

♪そうだったらいいのにな、
という、NHK「おかあさんといっしょ」でしょうこおねえさんなどが歌っていた曲があります。

うちの二匹がちびすけだったころ、よく大声でやっていたものでしたヨ。オカーサンが子どもになっちゃって子どもの自分がオカーサン、など、子どもの夢を一瞬叶えてくれる歌です。

♪そうだったらいいのにな、

日本はこれほどまでの地震大国で、しかしこれは実のところ大きな「資源」、ことに外国人観光客を誘致できる他国にはない「観光資源」ではありますまいか。

震度1であろうと揺れる地面の上に立ったこと一度も経験したことのない人って世界に数多くいますからね。

今後、どんな強い地震にも万全の対応の出来る建築法が開発され、政府も十二分に予算をかけ、日本津々浦々、どの建物家屋も絶対安全なものになる。

二度と建物は倒壊することなく、道路が断絶したりガス水道電気が止まったりというのはとしよりの思い出話となり、地震で命がおびやかされるようなことは金輪際なくなります。

それどころか、安全な状況で揺れを楽しめるまでになっている。

「揺れを楽しむってどういうこと?」
と、首をおひねりの方も多々おられるでしょうが、ジェットコースターを考えればわかりますが、人は安全のお墨付きの上でスリルを味わってみたいものなんです。

地震の揺れは遊園地と違い大自然そのもの、安全ななかで地球の鼓動を体感できるまでになっているわけです。

建築は、揺れが吸収されるなどして揺れが一切感じられないタイプと、絶対安全の上でゆさゆさ揺れるタイプの二通りから選べるようになります。

ゆさゆさ揺れるタイプは、家具調度品が揺れと呼応して、ものが落下したりなどの不具合は一切ありません。

「あー揺れてる揺れてる」
と、花が咲けば花を愛でるごとく、純粋にたのしめる。

温泉旅館など行楽施設にはこの手法がもっともよろしい。

今日の宿泊施設では、禁煙の部屋と喫煙の部屋が選べたりしますが、
「揺れるお部屋と揺れないお部屋、どちらをご用意いたしましょうか」

「そうね、風景をゆっくりたのしみたいから今回は揺れないほうで」
と、気分で選べます。

揺れが吸収される一軒家のなかに一室だけ揺れるタイプも作れます。子供部屋なんていいんじゃないでしょうか。

そのころには、いつ、どこに、どんな規模の地震が起こるのか前もって予報が出るようになっていますから、予報をにらんで家族や友達が集まり「揺れパーティー」を楽しむ習慣ができています。

揺れが、「オ、来たぞ来たぞ!」
で、「カンパーイ」

大規模地震の予報となると、その町のホテルの揺れるほうの部屋の予約がたちまちに満室になる。日本の行楽客ももちろんですが、外国人観光客が押し寄せるのは必至です。

そこで一般家庭では子どもが独立した後など、揺れるほうの部屋を民泊に出すわけですね。

どうです、経済効果はかりしれない。

津波もまた万全となり、市街地に水が押し寄せることなく、安全な場所から見物がたのしめるまでになっていてドローンを使ったテレビ生中継も当たり前となっています。

そうだったらいいのにな・・


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やっと咲きました。

前菜は、トマトとおろしチーズのサラダ
主菜は、フランクフルトソーセージ(牛肉ソーセージと豚肉ソーセージ)、蒸しじゃがいも、ブロッコリーなどキャベツ系野菜の茎と葉っぱのオリーブ油がけおひたし(ほうれん草のおひたし風です)

立ち呑み日記・白髪そうめん [ランチ]

お昼に、アジア食材店で買ったそうめんをゆでながら、つらつら考えた。

このそうめんは、「白髪素麺」、Japanese style Somenと明記してありますが、中国製です。素麺って、中国や韓国、それにベトナムやタイでも一般的に食べられているんですってネ。

食べ方はお国柄が出て、韓国は肉や魚などとコチュジャン炒め、ベトナムは牛肉の炒めものと生野菜をのせたニョクマム和え、中国は坦々麺や汁麺、タイはグリーンカレーをつけたりするのだそうです。

今回買った中国製は、ひやむぎほどにも太いのに袋を開けて気づきました。

韓国製もまた、「揖保の糸」などと比べると太目で、日本製のようにさらっぱらっと口中でほどけるのではなく、心なしかむっちりしています。

コチュジャンや坦々麺のみそに絡みやすいようにできている感じ。

とはいえ、やはりこれもアジア食材店で買った「ミツカン追い鰹つゆ・濃縮2倍」を希釈したつゆにつけても十分おいしいです。

薬味は、台所常備の乾燥エシャロット・・

・・エート、白髪そうめんを茹でながらつらつら考えていたんでした。何につらつらしていたかというと、「白髪」。そうめんはなぜ「白髪」を持ち出すんだか。

「白くて細いからでしょ」
と、おっしゃりたいでしょうが、じゃあ聞きますけど、「白髪(しらが)」と言われて、(おいしそうだな)と思います?

ワタシなど、我が頭の白髪のことはなるたけ隠してすませたい。

カラーリングして、それも、「染めましたーッ」というあからさまな黒々でなく、もっとこう自然な色合いで、
アーラ白髪なんてちっとも目立たないでしょ(ホントは白髪イッパイなんだけどサ)、
という顔を、しゃあしゃあとしていたい。

それだというのに、そうめんに限って「白髪」「白髪」といいつのる。

イカスミを折りこんだ黒髪そうめんなんて、あるんでしょうか・・

・・・と、冗談半分で検索してみたら、なんと、ちゃんとあるそうです。

「黒髪」にしてもねえ・・

ワタシが言いたいのはですね、食べ物に「髪」を持ち出すのはいかがなものか、という点なんですね。

だって、みなさんが台所で作ったひと皿に、ふとした拍子で髪の毛がほんの一本ついうっかり落ちてごらんなさい。

「髪・の・毛・が・入・っ・て・るぅーッ」
と、家族からもう毒でも盛ったかのごとく糾弾されます。

身体の部分を食べ物の名称にするのはしかし、エロチックではありますね。

パスタのトルテリーニの別名は、「ヴィーナスのおへそ」。昔、イタリアのある料理人が、美女が入浴しているのを覗き見してそのおへその美しさに瞠目し、トルテリーニの形を思いついたのだそうな。

映画「アマデウス」に登場する、ザルツブルグの銘菓は、「ヴィーナスの乳首」。マロンクリームをホワイトチョコでコーティングした白い半円の上に、いかにも舌をあてたくなるピンク色の突起がぽっちり・・

・・ということは、そうめんにも
「ヴィーナスの」
と、つけてみたらどうでしょう。

「ヴィーナスの白髪」。

でもやっぱり白髪といわれるとどうしても、所帯やつれがしてきやしませんか。


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小公園の八重桜もすこーしずつほころびはじめました。

前菜は、トマトとミニマカロニとツナのマヨ和えサラダ
主菜は、七面鳥ささ身のムニエル、チキンライス、いんげん塩茹で

立ち呑み日記・卵焼き [追究]

卵焼きは甘い派? しょっぱい派? という記事を見つけ、「エ?」」となりました。卵焼きは甘いに決まってるでしょうが。

しかしそう思いこんでいるのは関東人だけで、地域によって、卵焼きはしょっぱい、ないしは味をとりたててつけないというところもあるというんです。

「巨人・大鵬・卵焼き」の卵焼きは甘いあの味と信じ込んできましたが、別の味を思い描いている人が、それも数多くいたなんて。

味をつけない派は、食べる段に各自が、おろし大根としょうゆなり、ウスターソースなりをかけて食べます。

まさかここで粉砂糖をふりかけることはありますまい(あったりして)。

みなさんのところではどうですか。

ワタシなど、卵焼きといったら砂糖たっぷりにおしょうゆ少々で、甘みのかったあまから以外、考えたことさえありませんでした。

卵焼きは冷めたところを食べるもので、あまからに濃くしとかないと寝ぼけた味になっちゃう(としか考えられない)。

「そらちゃうで」
と、反論なさるのが、関西の方々です。

だしまき卵が主流の関西では、卵焼きといったら塩味なんだそうです。

アッツアツのスクランブルエッグやオムレツならともかく、ヒッエヒエのしょっぱい卵焼きがおいしいとでもいうの・・・

・・・と、糾弾してやろうと意気込みましたが、オムレツサンドを思い浮かべれば一目瞭然、おいしいに決まってます。

むしろしょっぱいからこそお弁当のおかずに最適、パンやご飯がすすんじゃいます。

言われてみれば、ワタシがいつも作っている甘い卵焼きは、おにぎりのおかず、ではないんですね。箸休めといいますか、むしろそれ単体で存在している。

そうやって考えると、甘い卵焼きとしょっぱい卵焼きではお弁当のおかずの品数としても違いが出て来ます。

すなわち、しょっぱいほうはおかず、甘い方は箸休めないしはデザートの部類なので、おかずが一品少なくなっている勘定になる。

ただ今お花見シーズンで、お弁当のおかずをサカナに缶ビールをのむとすると、甘いものはサカナになりづらいキライがありますから、おかず一品多くなるしょっぱい卵焼き入りお弁当を選んだほうがトクです。

でもシメに甘いものを、というムキは、夜桜見物で冷えたところでスタバにでも寄って甘いものたのんで暖まればよろしい。

クックパッドで見ると、甘いほうのレシピ807、しょっぱいほう67、圧倒的に甘いほう優性です。

が、その甘い味つけは、ナントカのひとつおぼえのごとく、いずれも砂糖(そりゃマそうだ)。そのなかで、いちごジャムと塩で味つけるレシピがあり、「ヘーエ」となりました。

どうです、なかなか目新しい箸休めではないですか。

片やしょっぱいほうは、レシピの数では劣るにしても味の種類が豊富。白みそを溶いたり、梅肉をおりこんだり、塩麹とマヨネーズだったり。

どれもおいしそう、味が何通りにも変化してマンネリ知らずです。

心の目をこらして遠―い日を思い出すと、ワタシが中学高校の頃お弁当に入っていたしょっぱい卵は、卵焼きでなくオムレツないしは炒り卵だったように思います。

これらと卵焼きは、やはりまるっきり別物でした。


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パリの植物園の裏口から出ようとしたら、あらまあ一本の桜がひっそりと満開。「日本の」桜というんですが、ソメイヨシノかしら。ノートルダム寺院など八重桜はあともうひと息もふた息もあります。

前菜は、アボカド、レモンで
主菜は、鶏肉ローストの残り、残り物のカレーライス、いんげん塩茹で

立ち呑み日記・ラップサンド [ランチ]

「ラップ食べてみたいなあ」
と、13歳のムスメがマクドナルドの前を通りがかるたびにつぶやいていたところ、ラップ用パンがスーパーにあったので買ってみました。

ラップ、ただ今フランスのマクドナルドで鋭意売出し中なんです。

ホラ、クレープみたいな丸い薄焼きパンでレタスやらの具をロール状に巻いたサンドイッチ、日本ではスターバックスなどでおなじみのようです。

ラップサンドって、世界的に流行ってるみたいです。フランスではスーパーの冷蔵スナックコーナーにも、切り口も鮮やかに置かれています。

ぱくっと食べやすそう、ではありますが、
(いまひとつ食指が動かないなあ・・)
というのが、ワタシの正直なところ。

スーパーの冷蔵スナックコーナーといったら、いかにもまずまずしい三角サンドやら冷凍を解凍した貧弱なスシやらが並んでいるんです。

その末席に並ぶ代物の、どのあたりに期待がもてるというのか。

ラップは、メキシコのブリトーが起源だそうです。ブリトーは、トウモロコシ粉でできたトルティーヤの親戚にして小麦粉の薄焼き。

それが、メキシコ人も多く住み生き馬の目を抜くニューヨークで、見た目も美しくてつまんで食べやすく腹にたまるというので流行り、世界へ伝播していった。

東京ディズニーランドでは焼きそばをくるんだラップが期間限定で売り出されたそうで、これなどとおってもおいしそうです。

が、だからといって正調焼きそばパンを凌駕できる日は来るのか。

ワタシの買ってみたラップ用パン(6枚入り)、袋には食べ方のアドバイスがいろいろ書いてありました。

具はお好みで、マヨネーズなどの調味料も
「たっぷり入れた方がおいしいです」

ブリトー風にするなら、具をのせて下方を少し折りこみ、次いで左右を着物の襟(えり)を合わせるように重ねて、具が落ちないようにする。

ファヒータという温製料理にするなら、皿に広げた上に肉野菜とソースをのせる。

「スシパーティーはいかが」
という提案もあり、これは具をクルクル巻いて太巻き状になったところをひと口大に切り、ばらけないように楊枝をさす。

「それちっともお寿司じゃないじゃないの」
というお声も聞こえて来たようですが、寿司でなくてスシ、それもスシの「感じ」、ですからね。

デワ、ブリトー方式で、冷蔵庫のありあわせからチーズ、残り物の塩茹でいんげん、薄切りトマトとロケットサラダを広げてマヨネーズをかけまわしたところを畳んで、ぱくり・・・

・・・ウーム・・

具はあれとしても肝心の薄焼きパンに風味がまるでない。スーパーの大量生産品ですから当たり前ではありますが。

これなら、レバノン食材店などで売っているピダパンで巻くほうが格段においしいです。

このあたりがラップの伸び悩み点ではありますまいか。すなわち、アメリカ発だけあって土台のパンが大味な工業製品なのが否めない。

今後、ラップは、ピタパンやクレープなど既存の同様品を越えられるのか。

クックパッドにはラップ用パンを焼くレシピがさまざま紹介されているところを見ると、やはり自家製だととおっても美味しいのでありましょう。


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陽が少しずつ長くなってきました。ただ今18時です。

前菜は、トマトとさいの目エマンタールチーズ、ルッコラを添えてバルサミコをかけまわしたサラダ
主菜は、仔羊腿肉・鴨肉・牛挽き肉(すべて残り物)の電子レンジチン、いんげん塩茹で、スパゲッティペストソース




立ち呑み日記・焼きそぼ [ランチ]

12歳のムスコの、成績がただてさえ低空飛行からの急降下で先生から保護者面談に呼び出され、こってり油を搾(しぼ)られた帰り道。

搾られた油を補給しなきゃやっとれん、テナ心境になり、味にほまれ高い中華レストランへ迂回してお昼を食べてから帰ることにしました。

おりしも店頭のガラス窓越しに、あぶらがまわってつやつやした焼鴨と焼き豚が吊るされています。

この店は在パリ日本人の間でつとに知られ、海老入りワンタンスープが名物です。入り口を入ったすぐわきの大鍋で盛大に湯気あげて茹でられている海老入りワンタンは、プリッとしたところへ朱色の辛味ソースをチョンとつけてハフハフやるとたまりません。

今日もそれにしようかなあ、とも思ったんですけど、メニューをめくるうちに、「焼きそぼ」というややあぶなっかしい日本語表記が燦然と光を放っている、ような気がして来ました。

「豚焼きそば、おねがいします」

この店には友人や家族と連れ立って来てはあれこれ分け合って食べていますが、考えてみれば焼きそばひと皿まるまる一人で食べるのは、これが初めてです

「うちの焼きそばは固焼きそばですがよろしいですね」
と、注文をとりに来た中国人の店員さん。

「のぞむところです」

あと季節野菜炒めもたのんじゃおうかなあ、
と、頭によぎる間もなく、店員さんはメニューをさっと取り上げ行ってしまいました。後でちゃんとわかりましたが、一人では焼きそばに加えてもう一品は量が多すぎました。

店内は、ほぼ満席。

ワタシの横は、首から名札下げた円熟女性四人組で、おのおのが炒めもの一品とお茶碗におテンコ盛りの白飯で、自分のとった料理のみを定食風に賞味しています。

せっかく四品あるのだからみんなで分けあえばいいのに、と、アジア人(ワタシなどです)は思いますが、フランス人にその食べ方は思いもよらないんですね。

その遠方の席に、取り皿を置く空間もないほど料理を満艦飾に並べてあちこち箸を動かしているフランス人カップルもまたいましたが、こういう方はおそらく本場中国の滞在経験がおありなのだと思います。

「本ッ当に全部の料理を一度に持って来ちゃっていいんですね」
「ウン、本ッ当にいいヨ」「遠慮しないで」
という、中国人の店員さんとそのフランス人カップルの会話が漏れ聞こえてきました。フランス人は、前菜ついで主菜というふうに二度に分けて食べるのが一般的です。

それにしても中華はやっぱりいろんな料理をあれこれ味わうのが楽しいですよネ・・

・・と、そこへ、いよいよワタシの豚焼きそば登場。モヤシと薄切り豚肉をジャーッと炒めてとろみをつけたのがたーっぷり、お皿からはみだしかけているカリカリ麺の上から熱々としたたれ落ちている。

真ん中をつつくと湯気が一気にたち、今はくったりとなったかた焼きそばが姿を現します。

フーフーして食べると、日本の、商店街の定食屋さんの豚もやし炒めを思い出させるなつかしくも力強い味。

そのおいしいこと、夢中で箸を動かしましたが、やはり中華なのに一品コッキリというのがこころさみしく、向こうの満艦飾に時折目をやり「借景」させていただきました。


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パリ市庁舎の前を通りがかりにパチリ。

前菜は、カボチャポタージュ
主菜は、鴨胸肉ソテー・ぶどうとコニャックのソース(残りものの流用)で 薄切りじゃがいも重ねのグラチネ、いんげん塩茹で


立ち呑み日記・ポドローグ [ワルガキ]

「ポドローグ」に、12歳のムスコを連れて行きました。

何それ?
と、思われた方が大半ではないでしょうか。

ポドローグというのは、足のケアをする療法士です。

以前、ポドローグ養成専門学校の前を通ったことがあり、その名前だけは見知ってはいましたが、ワタシもまたその真相をまるで知りませんでした。

足のケアといったら、足湯で温めて足つぼマッサージなんかしてくれるのかなあ、と、うっすら想像していたんですが・・

まるで違いました。

足のまめのケアなどもやってくれるようですが、足のどこに力が入りすぎているか観察し、矯正用の靴の中敷きを個々に製作するのがポドローグの真骨頂。

フランスは国家資格で、一部健康保険でまかなえます。

日本では、一般社団法人日本フットウエア技術協会というところがスポーツシューフィッターのひとつとして資格を出しているもよう。

適切な訳語がなかったとみえ、フランス語そのまま「ポドローグ」です。

うちのムスコは、たっちが出来るようになってこのかた内股気味で、靴底の内側ばかり極端に斜めに減るんですね。歩く姿も、遠目からでもうちのムスコとわかるドッテコドッテコした足取り。

そのことを、かかりつけのお医者さんに健康診断の折にふと思い出して言ってみたら、
「ポドローグへ行ってごらんなさい」
と、診断書を書いてくれました。

さて、初めて行ったポドローグですが、先生はまずムスコにパンツ一丁になるよう命じました。その脚をじーと見つめた後、今度は歯医者さんにあるような長椅子に座らせ、腿の付け根とすねを見ます。

この寝椅子はまめや外反母趾などをよーく見極めるためにグンとせり上がり、足のうらが先生の鼻先まで来るようになっています。

「成長に異常はありません」

それから、鏡張りの体重計みたいなのにのるよう言われました。これ、体重計でなく、足のどこに負担が余計にかかっているか見る専門器具だそうです。

そして先生は骸骨見本の足首から下だけを手に取ってこちらへ向き、診断が下されました。

足って、知りませんでしたけど指の骨が存外長く、甲のほうとつなげる小さくて四角くばった骨がいくつか並んでるものなんですネ。

ムスコの場合、土踏まずのすぐ上にある四角い骨に必要以上に力がかかり、要は偏平足になりかけている。

これを、本人の足に合わせて中敷きを作って矯正するわけです。形状記憶マットのようなものに足をのせ足型をとると、ここからの手際は熟練の靴屋さんみたいでした。

あれよという間にムスコのオーダーメードの中敷きが出来上がりました。

で、これを底に入れたいつもの運動靴で
「ちょっと歩いてみてごらん」

あらまあ・・
と、オカーサン(ワタシです)はほれぼれしちゃいました。ドッテコドッテコでなく、スッスッと、いきなり「さっそう」という感じになってる。

シメて140ユーロ(約18000円)、ここから健康保険で何割か戻って来ます。

外反母趾なども個々の中敷きで和らぐそうで、ワタシは幸いにも外反母趾ではないんですが、
(自分だけの中敷き、欲しいなあ)
と、指咥えずにいられませんでしたヨ。


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マルシェの魚屋の長ーい行列に並びながらパチリ。めずらしいものを食べたいとは思いましたが、本日はごくフツーに、たらのそぎ身を買いました。

前菜は、ニンジン千切りサラダ
主菜は、鶉(うずら)のブドウとコニャック蒸し、蒸しじゃがいも、いんげん塩茹で

立ち呑み日記・本を売る [ワルガキ]

春めいて来たので重い腰をあげて、山と積まれホコリのたまった『ワンピース』(フランス語版)つごう二十なん巻を売りに行くことにしました。

『ワンピース』、うちの子どもらも例にもれず首ったけでした。新古本と新刊がともにならぶ大型書店へ続きを買いに行くのを待ちかねていたもンです。

日本人のオカーサン(ワタシです)としては日本語で読んでほしいものの、友だちとの貸し借りや、そもそも本人の言葉の理解度の都合上、フランス語翻訳版致し方なしとみとめました。

フランス語に翻訳されたマンガをめぐる、日仏混血児と日本人オカーサンオトーサンの攻防および日本側の劣勢については、かねてから聞き及んでましたからね。

新刊だとマンガ本だというのに7ユーロ(約1000円)もして、新古本は4.6ユーロ(約500円)というなら、安い方に手が伸びるのは当然でありましょう。

あるとき売り場に行くと、同じように子どもに頼まれて来たとおぼしきオトーサンが、やはり安い方の背表紙をぬいていました。

42、3巻あたりだったでしょうか。

「最終巻の新古本、一冊だけ入荷しましたよ」
と、そこへ親切そうに話しかけてきた店員さん。

最終巻の新古本はめったに出ないので、今のうちに買っておくのが得策、とのことでした。

「いや、やめとくよ」
と、そのオトーサン。

オトーサンの11歳のムスコは、それまでは続巻を買って買ってと矢の催促だったのが、今回に限ってオトーサンのほうから
「続きはもう読まないの?」
と尋ねたのだそうな。

「うーん、じゃ、いちおう買っといてもらおうかな」
との返答で、熱中に陰りが出てきた。

最終巻までたどりつくことなく買い取りコーナーのほうへ手元の巻全部持って行くことになりそうだ、と、そのオトーサンは店員さんに語っていました。この大型書店には古本と古DVDの買い取りコーナーがあるんです。

このときには、わが身に同様のことが起こるとは予想だにしていませんでした。

が、うちは20なん巻で挫折、といいますか、
「じゅうぶん堪能した」(子どもら談)。

そこでエコバックにみっしり詰めこんで腕が抜けそうなところをエッチラ運び、買い取りコーナーに人生お初で並んでみたわけです。

列にいるみなさん、長期旅行に出るのかというほど大型の旅行鞄を横に置いておられる。全部本です。

ところが見ていると、番が来ていよいよカウンターに積み上げたところから半分も買い取ってもらえたら御の字、という感じなんですヨ。

額に汗してここまで運んで来たというのに、無情にも半分が旅行鞄に逆戻り。本に汚れがあったら仕方ないとしても、在庫が足りていたり、あと、稀覯本以外の絶版本などもとってもらえないみたいなんです。

不安がつのって来ました。

ついにワタシの番が来て、身分証明書を出し、『ワンピース』を積み上げます。さすが売れ筋、店員さんは本のコードをピッとかざすや、やれうれしや次々と買い取りのほうのカゴへ。

4冊のみ、ただ今在庫が足りているのだそうで
「何か月かおいてまた来てみてください」
とのことで、つごう60ユーロ(約8000円)くださいました。


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雨の合間に立ッ派な入道雲が出たのでパチリ。写真が下手なせいで「立ッ派」がいまひとつ伝わらなくて平にご容赦。

前菜は、アボカド、しぼったライムで
主菜は、オッソブッコ(仔牛の骨肉トマトソース煮)とねじねじマカロニ、モロッコいんげん塩茹で

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