立ち呑み日記・イワシ缶詰 [前菜]

「値段が高いのと中くらいの二種類買ってみた」
と、スーパーにおつかいをたのんだら、オット。

前菜のトマトサラダに合わせるのに
「オイルサーディン買ってきて」
と、たのんだんです。

オトーサンって、缶詰というと割にカンタンに、お財布の紐、ゆるめませんか。同じものでも、高いほうについ手がいっちゃう。

高いほうが
(うんとおいしいんじゃないかな)
と、期待がふくらむんでしょうか。

オカーサンだと決してそんなこと、しません。

値段をじーと見比べ、たいていはスーパーが独自に出している銘柄の、一番安いのを選りに選って、カゴにとります。

だって、しょせん缶詰ですゾ。中身はどれも似たり寄ったりです。

「イヤ断じてちがう」
と、うちのオトーサン(ワタシのオットです)。

値段が中くらいのオイルサーディンはヒマワリ油、高いほうはエクストラバージンオリーブ油、だったそう。これがどう違うのか、食べ比べしてみたいと言います。

そこでサラダボールの、ひと口大に切ったトマトに乾燥エシャロットをまぶしたところへ、二者まじらぬよう、油ごとびゃーっとあける。

世界で捕獲されるイワシの大半がオイルサーディンになっているんだそうですってネ。世界各地で缶詰になるわけですが、作り方は、どれも同じです。

頭と内臓をとり、イワシを、油でとろとろ「煮る」。

この、「油で煮る」ところが肝心で、油の温度が上がると揚げものになってしまうので、とにかく低温で、骨がモロモロになるまでゆーっくり火を通すのだそうです。

手作りしたことのある方のブログによると、高濃度の塩水にしばしつけた後水分をぬぐい、ハーブや鷹の爪などで香りを移した油で煮ること三、四十分。

どうです、うんと熱いうちに食べたい立派な主菜ではないですか。

缶詰もまた、フタを開けた缶ごと火にかけぐつぐつしてきたところへ七味をふる、という、いかにもおいしそうなおつまみを、聞いたことがあります。

が、残念、うちは全面的に電熱器なので、缶をじかにというのはなんだかどうもあぶなっかしくて、かなわぬ夢。

そこで、あいもかわらずトマトサラダのお相手です。

さて、トマトの上で無い頭を突き合わせた二者、一瞬どちらがどちらだかわからなくなりかけましたが、肌の黄色っぽいほうがエクストラバージンオリーブ油、と、目に焼き付けました。

ヒマワリ油の缶のほうが一尾少なく、むっちりが三尾。

デワデワイタダキマース、と、さっそくかぶりついてみると、エクストラバージンのほうが表面がややさらっとしている、ような気がするものの、味に大差なし。

ついでに言わせていただきますと、ワタシがいつも買っている一番安いのとも、そう変わらないです。

いずれにしても、口中で骨までモロモロくずれ、トマト汁の浸みた油をパンにつけて食べるのに、取り合いになりました。


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オソロシイことになりました。

前菜は、胡麻油と乾燥エシャロットとをふった赤カブサラダ
主菜は、骨付き仔牛肉ソテー、カレーライス、インゲン塩茹で


立ち呑み日記・柑橘のヨロコビ [前菜]

前菜に、イスラエルでいただいたグレープフルーツを、食べました。

目の前で捥(も)いでくださったのを、カバンにしのばせて後生大事と持ち帰ったものです。これがまあ、甘酸っぱくて、ほんのり苦くてジューシーで、おいしいこと。

イスラエルでは、グレープフルーツやオレンジなどを三度の食事やおやつに気軽に食べ、またジュースにしぼって、水代わりに飲んでいます。

そのかの地で意外なことを耳にしたんですが・・

日本で人気の高い、イスラエル産のスウィーティー、って、ありますよね。ホラ、うーんと甘くて、全然苦くなくてジューシーでとおっても食べやすい、肌が緑色のグレープフルーツの仲間。

あれを嫌うひとがけっこういるんだそうです。

なぜというに、ジューシーなのはまあいいとして、うーんと甘くて全然苦くないところがとおっても食べにくい、と、いうんですね。

「寝ぼけた中途半端な味」とまで、言う。柑橘類らしい酸味や苦みもひと通りあって欲しい、とこう考えるのだそうです。

考えてみれば、柑橘にもいろいろあるものですネ。

フランスでは、今でこそオレンジといったら年間を通してどこでも買える、安価な果物です。が、ワタシらよりやや上の世代が子どものころは、年に一度のクリスマスに一個だけもらえる大ごちそうだったそう。

日本のお隣り韓国もまた、1980年代、オレンジはとてもオシャレな外国の果物だったそうです。

日本のワタシらが「ふぞろいの林檎たち」にかぶりついているころ、「オレンジ族」が、ソウルの表参道や青山や六本木にあたる繁華街を、豪勢な外車で往来していた。

「オレンジ族」とは金持ちの子弟で高価なオレンジを気軽に買っては、舗道を行くカワイイ女のコにそれと狙いをつけ、「ハイ」と車の窓から気前よく差し出す。

オレンジが受け取られたらナンパ成立です。

ショボい国産車でその真似をしてみるものの、そこまでの器も経済力もない小市民男児は、「金柑(キンカン)族」と鼻先でせせら笑われたそう。

しかしイスラエルの人に言わせるなら、金柑には金柑ならではの渋みや苦みがあるのだし、大いに小市民男児の味方をしてもらえるのでは、ないでしょうか。

橙(だいだい)はどうでしょう。最近は鏡餅の上にはミカンが多くなったらしいですが、ワタシが子どものころは、何があっても橙でした。

これを、鏡開きの日に半分に割り、ギューッと茶碗に絞る。

「これ飲んどけば一年風邪をひかないよ」
と、同居の祖父が、お湯で割って砂糖を足し、のませてくれるんですが、閉口したものでした。うんとにがくてうんと甘く、風邪薬シロップそっくりな味。

とはいえ英国ではとても好まれ、マーマレードのビターオレンジって、橙のことなんですってネ。

さて、前菜のグレープフルーツ、あっという間に食べ終わり、もっとーッ、と、カワのヘリのヘリまで未練がましくチューチューしちゃいました。


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歩きながらパチリ。

前菜は、スモークサーモン
主菜は、七面鳥ささ身のキノコとニンジン入りクリーム和え、なんちゃって七草リゾット、


立ち呑み日記・七草ドリア [前菜]

七草です。

七草粥はフランス人のオトーサンを含めたうちの家族にはチト厳しいかなあ、七草リゾットだったらなんとかイケルかなあ、などと考えていたら、ふと思い出したんですが・・

ドリア、って、そういえばあったナ。

グラタンみたいだけれど、下に白いゴハンが敷きつめてある、あれ。友だちと外食することをおぼえたころ、初めて食べた時は、(うえー)と、思いましたね。

マカロニグラタンに同じと思うとさにあらず、白飯とホワイトソースがどことなくよそよそしい感じ。せめてバターライスだったら、と、スプーンですくいながら思いました。

グラタンはフォークですが、ドリアはスプーンです。

しかしまあ、学校帰りの寄り道なんかで、よく食べたものでした。昼に学食でスパゲッティ食べたし、ツナサラダセットは昨日食べたし、グラタンはおととい食べた。そういうところから、ドリアになるわけです。

また、寄り道しやすい駅ビル内なんかのカジュアルレストランに、ドリアはたいてい、あった。

ところでドリアって、どこの国の料理かと思ったら、なんと日本で発明された洋食なんですってネ。1920年代、横浜「ホテルニューグランド」がオープンした際に、メインダイニングのためにフランスから招聘した料理人サリー・ワイルが、何か喉ごしのいい料理をと客にたのまれ、ささっと作って出したのが、始まりだそう。

この初代ドリア、今も「ホテルニューグランド」で当時と同じものが食べられるんだそうですヨ。

このときのレシピのベースにあったのが、当代フランスで大隆盛を誇っていた料理人エスコフィエによる「トゥールヴィル」と命名された一品。

「トゥールヴィル」は、リゾットにクリームソースの魚介類をのせたチーズ焼きで、ひところは、銀座「アラスカ」「コックドール」など有名西洋料理レストランのメニューに必ずあったものだそうです。

が、滅びた。

なぜというに、エスコフィエ流フランス料理がごってり重たい、古臭いものとして廃れ、ヌーベルキュイジーヌが軽やかに躍進。このときに、きれいさっぱりメニューが書き換えられたもようです。

ただし、東京・大井町の洋食屋「プロヴァンス」にだけは、「トルヴィル」として今も現存しているそう。

「プロヴァンス」は1960年代後半創業で、オーナーが銀座5丁目にあった「コックドール」で修業したのだそうです。

ウーン食べてみたい・・

「トゥールヴィル」のベースであるリゾットは生米を油脂で炒めてから炊いたものなので、白飯を使ったドリアよりはこってりしているようです。

コレステロールを考えたら、ドリアの方が多少なりとも身体に優しいのかナ。

七草リゾットがあまったあかつきには、残り物料理の毎度の手ではありますが、チーズ焼きにして、ドリアの祖先のまがいものに、してみましょうかネ。


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国立物理化学研究所の前を通りがかりにパチリ。

前菜は、トマトとオイルサーディンのサラダ
主菜は、玉ねぎと挽き肉入り和風オムレツ、カリフラワー塩茹で

立ち呑み日記・朝鮮アザミ [前菜]

「前菜、何にしようかなあ」
と、晩ごはんのしたくに立った台所で誰に尋ねることもなくつぶやいたら、
「アーティーチョークがいいナ」
と、さらっと言うオトーサン(ワタシのオットです)。

あのネ、夢や希望のたぐいとしてはうけたまわるけど、買い置きする野菜でなし、いきなりは無理なの。

アーティーチョーク、とこう辞書を引くと、朝鮮アザミ、と、あるんですが、ワタシなど日本では見たことありませんでした。

アザミのつぼみで、厚い葉が折り重なっているところを一枚ずつむしってドレッシングをつけ、歯でしごいて食べすすみます。

サトイモみたいなもっくりした肉が、ほんのちょっぴり。一枚を歯でしごいたら、すぐさまもう一枚。さらに一枚。どんどん一枚。

こうして歯型のついた葉の山をつくるうちに、フサフサの毛がみっしり詰まっているところに行きつきます。

ここを遠慮呵責なく、さながら禿げ頭にのったカツラをメリッと剥がすごとく引き剥がすと、禿げ頭もとい円形の肉が出現します。

今までの努力がむくわれる瞬間。やっとまとまった分量が口に入りご満悦、とまあ、こういう前菜です。手なぐさみのたのしさ、枝豆をプチンまたプチンとやるたのしさに通じます。

概してフランス人は、アーティーチョークに目がないですね。

「好き好き大好き」
と、身を乗り出すフランス人を、身近に少なくとも三人は知っています。

「アーティーチョークはフランスの象徴」
とさえ言い切って、胸を張る。

それが証拠に、パリのイタリア広場だかレピュブリック広場だかに立つ女神の彫像はアーティーチョークを高々と掲げている、と、おしえてもらったことがあります。

あるいは、松明(たいまつ)もアーティーチョークに見間違えるほど偏愛しているのか。

でもまあ、フランス人でなくとも、葉を次々とむしって歯でしごくのは、なかなかたのしいです。日本の居酒屋のつまみにも、ぜひにと奨励したかった・・

・・と、今、過去形で書きましたが、本日、再考をせまられることとなりました。オトーサンの希望を聞き入れ、
久々に朝市で買って来たんです。

ただ今よりたっぷり一時間かけて茹でるんですが、大きいのなんの、うちで一番大きなポトフ鍋に、かつかつで四つしか入りません。

本日は友人が一人晩ごはんに来ることになっているので、もう一つを別の鍋で、半身が水から出たかたちで
ひっくり返しながら火を通しました。

数をいっぺんに茹でるのは、これでなかなか骨です。

居酒屋といえど、もつ煮込み用の大鍋でも十個はいっぺんに茹でられますまい。メニューに加えるのにはどうしたらいいのか。

居酒屋経営者のみなみなさまに課題を残しつつ、とりあえずはおいしくいただきました。


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秋の日のヴィオロンのため息の・・、の、ヴェルレーヌ「秋の歌」がこうなりました。

前菜は、胡麻油と乾燥エシャロットをふった赤カブサラダ
主菜は、スパゲッティ・ミートソース、鶏ローストの残り、インゲン塩茹で


立ち呑み日記・たまご何個 [前菜]

冷蔵庫から卵を取り出しながら、つらつら考えた。ゆで卵は、ひとり普通何個まで食べるものなのか。

一個で十分でしょうが、と、いう声が、聞こえてきたようですが。卵はコレステロールが高いから一日に一個か二個、と、いうのは、もはや常識です。

その常識に、ちょこっと目をつぶっていただきたい。ゆで卵は何個までならおいしく食べられますか。

一個か二個、というのが、やはり普通のお答えでは、ないでしょうか。なんとなれば、ほかにも食べるものがある。ゆで卵ばっかりそうすすめないでよもうッ、と、オコりだす人も出てくるはずです。

ホラ、ホテルの朝食バイキングを思い浮かべていただきたいんですが・・

マカロニサラダ、キュウリと海藻のサラダ、プチトマト、コーンスープのポット、なんかが置いてあるテーブルに、むいたゆで卵ばっかり入った、大きなボールがある。

このボールから、五個いっちゃおうかナ、と、皿に取るひとは、そう多くはいますまい。

遠慮しないでどうぞどうぞ、と、係りの人がいやがおうでも5個はお皿にのっけてくる、なんていうサービスがあったとしら、多くのみなさまは遠巻きにして近寄らず、アジの干物や筑前煮のテーブルのほうへ、しぜーんと近づいていくことでしょう。

あ、年季の入ったオカーサンは、別です。こういうオカーサンは、率先して係りの方から五個いただきますね。

このうち一個はおいしく食べますが、残り四個は、紙にくるんでこっそりバッグにしまい、あとで小腹空かせた時の、おやつにする。

バイキングでそんなことしちゃいけないんだよ、と、まわりのものは見とがめますが、
「あらだって係のひとが勝手にお皿へのせるんだもの」
と、反論しがたい言い訳が、なりたちますからね。

それにしても、ゆで卵をたてつづけに五個は、今日ではもはや、苦行のたぐいではありますまいか。

苦行というよりダイエット、と言い切る人も、いるらしいですが。大学で教鞭をとっている友人がアメリカの大学に招かれて行ったところ、先生たち専用の食堂で、ダイエットのためにゆで卵五個とコカコーラ(大)、以上、という食事をしているひとを、一人ならず見かけたそう。

日本でも、卵ばっかり食べる、不思議なダイエットが、以前に流行りましたよネ。

デンマークだかの国立病院が提唱し、二週間にわたって三食を卵ばっかり食べるという、実にまことしやかで、どう考えても理不尽な方法。

しかし当時、知り合いは、この方法で本当に痩せました。

ワタシらの親世代が若い頃などは、卵はごちそうだったので、ゆで卵のばっかり食べには、アコガレたそうです。

1950年代、そのスマートさで人気を博したジャズ評論家で司会者の小島正雄という方は、
「今朝はぼく五個食べてきました」
なんて、ラジオ番組でいつも語り、当時の若者は、いつかは自分も、と、夢に描いたものだそう。

この時代は、ゆで卵でなく、うで卵、と言っていました。


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ジューンブライド、ですネ。

前菜は、イクラをのせた生クリームつきブリニス(甘くないパンケーキ)、ラディッシュ
主菜は、残り肉、レンズ豆の煮込み、ゆで卵入りサラダ、

立ち呑み日記・枝豆ぷちん [前菜]

アジア食材店の冷凍コーナーで、格安の枝豆を見つけました。450グラムも入って、なんと1.5ユーロ(約180円)。

イソイソと手に取り、ついでに、サッポロビール500ml缶1.8ユーロ(約200円)ナリもつごう二本とってホクホク帰宅し、急ぎ晩ごはんのしたくを始めます。

日本で枝豆の味をおぼえたワルガキ二匹も快哉の雄叫びをあげ、待ちきれないとばかり、湯気があがっているとろへいよいよ手がのびました。

・・・ウーム・・・

いえね、莢(さや)にまぶされた塩気も、唇に持って行ってぷちんとはじく感触も、ぜんぶ「枝豆」、なんですヨ。

しかし、なんと言いますか・・

麻雀を、みなさんなさるかどうか、ワタシは子どものころお正月におしえてもらって子どもルールで家族で遊んだものですが、大人になってから、一人足りないから、と、無理やり誘われて、加わったことがあるんです。

何十年ぶりかで牌にさわり、カンがもどったのか、たちまちにリーチをかけ、勇躍上がりました。

「・・・ウーム・・・」
と、その時我が牌を見た三人が、本日の枝豆を食べたような声を出した。
「ヤクになってないじゃないの・・」

まわりくどくなりましたが、この枝豆、そういう風味なんです。

すなわち、形状といい、唇にぷちんという感触といい、枝豆の体裁は為しながら、さながらヤクなしの子ども麻雀のごとく、本来のうまみが、まるっきり、ない。

これでも塩気には気をつけて茹でたんですがねえ・・

学生時代に、仲間の一人がカウンターバーでバイトしていて、彼の茹でる枝豆はうまい、と、いまだに語り草です。

プロ仕込みのそれは、大相撲の立ちあいのごとく、茹で湯にどっさり塩を投入する。

こうすることで、豆自体に塩味がつき、かつ、スイカに塩する要領で、素材の甘みが引き出せるのだそうです。

「ためしてガッテン」でも放映されたそうですが、4パーセントの塩を使うといいそう。1リットルの水に対して、40グラム、大さじ2杯もです。

このうち、最初のひとつかみで枝豆をモミモミしてしばらく置き、塩を洗い流さないよう、ぐらぐらしたお湯に残りの塩といっしょに投入する。

このとき、枝豆の前後を切っておくと味がしみやすく、よりおいしくなるそう。

以上を全部、忠実に実行した、わけではないんですが、それにしても枝豆独特の、むせかえるようなうまみが、針の先ほども、なかった。

確かに、枝豆ぷちんのしぐさは、たのしいものでは、あります。が、やはりしぐさだけでは、いかんともし難い。

おいしいものはすぐなくなる、と、いうのが世の常でありましょうが、この枝豆、ずいぶんと残り、ただ今冷蔵庫でめんめんと冷やされております。


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「くたびれた」と日本語学校の帰り、ややフテクサレました。

前菜は、トマトサラダ
主菜は、枝豆入りビーフカレーライス、グリーンサラダ

立ち呑み日記・フォア・グラ [前菜]

閉店間際の肉屋にかけこんだら、ご主人が、長方形の型に入ってほかほかしたものを両手に提げて、奥から出てきました。

「フォア・グラの自家製テリーヌ、出来立てだよ」

ヘーエ今の季節にねえ、と、ご主人とテリーヌを交互につい、まじまじ見ちゃいましたヨ。ご主人は、つい先日、店を持って以来初めて、ご夫婦で春のバカンスを丸々一週間とり、南の島で静養してきたところ。

戻ってきたなと思ったら、以前にもまして精力的になり、南の島談義の声も力強く、キノコのビン詰など、肉以外のちょっとした商品の種類が増えたようでした。

フォア・グラのテリーヌはごちそうですから、毎年、クリスマスから大晦日の冬の宴会シーズンに、冷蔵ケースに並ぶものです。

それを、春爛漫に暖かくなった今の季節に打って出ようというんですから、バカンスがもたらした意気込みとやる気、いかばかりか。

日本の肉屋でいうなら、本業の肉の傍らで揚げているコロッケに加えて、普段ならおせち料理シーズンに作成する自家製焼き豚を出してみました、テナ感じでしようか。

丸のままのフォア・グラをあたためてつぶし、甘いソーテルヌの白とポルト酒とで練って型に入れ一晩冷やして固める、と、いうような工程で調理されるらしいです。

最近はしかしフォア・グラは安くなり、スーパーでいくらでも手に入りますから、年に一度の大ごちそう、と、いう風潮でも、ないんですが。

日本で言うなら、そうですね、あん肝、みたいな位置でしょうか。

最近は缶詰でも居酒屋でも、気軽に食べられるようになったものの、なじみの魚屋さんの自家製となると、なんとなあく珍重したくなる、そんな感じです。

フォア・グラのテリーヌが、みごと冷え固まる翌日の宵、ちょうど日本から友人親子が遊びに来るので、渡りに舟とばかり、5きれ、予約しました。おっと、値段聞くの忘れた、高かったら困るナ・・

「5きれで10ユーロ強、ってとこかな」

1人前2ユーロ(約200円)ですから、うやうやしく珍重の時代は、やはり遠くなりました。

フォア・グラは、フランスでは、甘―い白ワインと合わせることになっています。濃厚と濃厚を相乗させましょう、という組み合わせで、まったりが持続して、い・か・に・も・ごちそうだーッ、という風味が、口中に残ります。

しかし、もし選ばせていただけるなら、ワタシは、軽く焙(あぶ)ったフランスパンのカワにのせ、塩、それもいいほうの塩をパラッ、黒胡椒をガリガリガリガリ、っとやって、ンッ、と、噛みつくのが、好き。大好き。こちらは赤ワインによく合います。

さて翌日の宵、友人親子と、久方の再会に乾杯とあいなりました。

甘い白と、ボルドーの赤の両方開けて、濃厚なところを前菜にしましたが、生れて初めて食べたという、友人の息子さんの見目麗しい青年は、正直なところ、やや敬遠・・という感想だそうです。


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快晴の日曜日、公園の遊具スペースに、完全に出遅れました。

前菜は、バジリコをふったトマトサラダ
主菜は、牛肉とニンジンの赤ワイン煮、蒸しじゃがいも、グリーンサラダ 

立ち呑み日記・貧乏人の前菜 [前菜]

スーパーの野菜売り場で、ポロねぎの太く白いところだけ切りそろえた5~6本の袋入りが、特売になっていました。

「貧乏人のアスパラ」。

ホワイトアスパラみたいにくったり茹で、ドレッシングをかけて前菜にするんですが、値段が安いところから、そんなふうに呼ばれたり、するんです。ホワイトアスパラは、季節モノで、たいへんにお高い。そこへいくと、ポロねぎは、一年中あって、お安い。

そういや長いこと食べてなかったナ、と、袋入りに、手が伸びました。

いつも行くマルシェの八百屋でも、顔見知りのオカーサンが、しょっちゅうポロねぎを束で買っています。こんなに買ってどうするの、と、いうぐらい、胸に抱えてお帰りですが、ご家族みんなが、お好きなんでしょうね。

じっさい、くったり煮抜いたポロねぎは、ねぎの出汁をまとったところにドレッシングとよくまじり、歯ざわりがざくざくして、とても美味しいです。

とはいえ、一本まんまで何本も買うと、青いとこばっかりの残りが出る。

「切りますか」
と、よくしたもので、八百屋のお兄さんは、それを見越して、切り捨ててくれようとさえします。

エエエエエッ、と、その申し出が当初は信じられませんでしたヨ。だって、スープなら、青いとここそ、ダシがよく出るわけですぞ。

だからといって、青いとこばっかり、冷蔵庫にどっさりあっても、持て余しちゃいます。「貧乏人のアスパラ」を、今まで敬遠していたのは、そこだったんです。

つくるのはカンタンです。塩を入れた水から茹でて、串が、すっと通るまでになったら引き上げる。以上。

以前、料理好きの友人からおしえてもらったレシピでは、エシャロットをたっぷり刻んで散らして、オリーブオイルをひたひたにかけておき、お酢をパパっと散らすんですが、これに加えて、うんと細かくとんとんしたニンニクとパセリも、自己流で加えました。

ざくりと繊維を断ち切るようにナイフを入れ、つゆがたれるところをほおばると、安い白ワインとよく合って、なかなかです。

「貧乏人の」などと、卑下しなくてもいいのに。あえてアスパラになろうとしなくとも、ポロねぎはポロねぎでいいのに。

だいたい、ホワイトアスパラの茹で汁は、灰汁(あく)が出て飲めたもんじゃないですが、ポロねぎのほうは、れっきとしたねぎスープ、ですからね。

「貧乏人の」と、フランス人は、どうあっても階級制度を持ち出したいんでしょうか。

こういう料理は、ほかにもあって、ナスをくったりするまで焼き、タマネギとパセリと油と塩コショウを加えてミキサーでがーっとペースト状に混ぜた前菜は、「貧乏人のキャビア」、です。


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ツとシの区別がむずかしいのはわかりますがねえ・・

前菜は、ニンジン千切りサラダ
主菜は、残り肉のスパゲッティー・ミートソース、ブロッコリー塩茹で


立ち呑み日記・数の子で一献 [前菜]

日本から送られてきた数の子を、いよいよ塩抜きしました。

マ、「いよいよ」と、いうほどのこともないんですが、年末年始に家を留守にしていたので、七草も過ぎた今になっちゃったんです。

みなさんも三が日に、数の子で一献、なさいましたか。

ぷちぷちぽちぽちぷち、と、噛めば噛むほど、つぶがパラパラに細かくなっていき、舌で探って、あ、まだあった(ぷち)、あ、こっちも(ぽち)、と、噛むたのしさ。

うっすらと苦味があり、後味が、やや生ぐさいというのか、とにもかくにも口中を清酒で洗わねば、と、すぐさま盃に手が伸びる、大人のお味。

それはそれは高価である、と、忘れがたく、頭にすりこまれてもいます。

ワタシらが子どものころ、ただてさえ高価な数の子を、ある商社が買い占め、あまりにも値段をつり上げたせいで消費者が敬遠したあげく、この会社が倒産してしまう、と、いう社会現象が、巻き起こりましたからね。

数の子なんてたのまれたって買ってやらないわよ、買占めて倒産だなんて、大人ってバッカみたい、
と、三学期が始まった学校で、知った顔して、さんッざんこきおろしたもンです。

たしかに、花がつををまぶしたお正月の数の子は、子どもの舌には、そうそう魅力的でなかった、かも、しれない。

ほかにもおせちはいろいろありますしね。

あらそう、だったら、津軽漬けもしくは松前漬けも今後いっさい食べないのネ、と、意地の悪いところをついてくる大人と出会わなかったのが、幸いだったかもしれません。

津軽漬けもしくは松前漬けは、大ぶりな数の子たっぷりなほうが格段においしいし、白いごはんもまた、どんどんすすみます。

アナタ数の子のところはいらなかったのよネ、と、賢(さか)しい大人に、おいしいトコを全部、かっさらわれるところでした。

さて、日本からの小包みに入っていた塩数の子の箱を手にとって、そういえば、と、気づいたんですが。そういえば、数の子の塩抜きって、これまでの人生で、一度もやったことないナ。

年末に帰省するときは、実家の母がすべてとり行っています。初心者に出来るんだろうか、と、一抹の不安を感じながら、箱の絵入り説明書きをよーくよーく読み、ボールに水を張って塩をまぜました。

数の子投入。まず三時間、次いで、二時間ごとに三回から五回、食塩水をかえる。

こまめに味見するのがコツです、と、いうんですが、これを真に受けて、こまめにどんどん味見しようものなら、出来上がったときにはすっかりなくなっている、なんてことに、なりかねません。

それでも、つい手が伸びて、まめまめしく、やりました。

あんがい簡単に出来上がり、賞味期限にやや難アリの花がつををまぶして、前菜にするつもりなんですが、あいにく日本酒を切らせているので、安い白ワインで、一献いきたいと思います。

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本日の料理の筆頭はじゃがいもソテーと目玉焼きののったサラダ。
サラダというと軽い一品に感じさせますネ。

前菜は、数の子、チコリと青リンゴとブルーチーズのサラダ
主菜は、舌平目ムニエル、インゲン塩茹で、刻みパセリをふりかけた蒸しじゃがいも、グリーンサラダ

立ち呑み日記・カマボコわが愛 [前菜]

日本の実家から、小包が届きました。

お歳暮のおすそ分け、とのことで、カマボコ各種です。イソイソと手に取ってみれば、オヤオヤ賞味期限が、あと数日に迫っていた。

と、とたんに、「天国と地獄」が頭の中で鳴り響き始めました。とにかくこれを消費せにゃならぬ。

このカマボコは、富山県ので、親しくしている方の故郷の名産です。富山県のカマボコは、他県とは製法が異なり、食紅で染めて固めに焼きこんだ薄いカマボコを、白いところへナルトのように赤く巻き込んだ、「赤巻(あかまき)」というのが、一般的なんだそうです。

小包に入っていたのも、それでした。

歯ざわりも、東京地方で食べなれた小田原カマボコの、歯にはじくようなぷりりんとした強い弾力とは、また少し違います。ぷりりんはぷりりんでも、もう少しやさしいぷりりん。

さて、どうやって食べるか。

切ってお皿にのせるだけでしょうが、と、おっしゃりたいでしょうが、それだとフランス人のオトーサン(ワタシのオットです)は、拒否、なんです。

このままで食べてもおいしくない、とさえ言い放つ。

食卓でそれを聞きつけるや、ワルカギ二匹も
「おいしくない」「おいしくない」
と、まだ口に入れてもいないくせに迎合するのは、必至。

ならオカーサンが一人で食べますッ、と、こうなるのが目に見えているんですね。

オトーサンは、さいの目に包丁を入れて、トマトとバジリコの葉とまぜてサラダにすると、オイシイオイシイもっとちょうだい、と、おかわりさえします。でも、そんな食べ方をしたら、せっかくの富山の名産が、あまりにもったいない。

ハテどうやって食べたらいいか。

全国かまぼこ連合会、というところのホームページを見たら、洋風料理が幾品か紹介されていました。カマパッチョ、という、薄切りにしたカマボコをカルパッチョ風にしたものや、笹かまぼこを土台にしたピザ、などなど。

どれもみんなおいしそうです。

しかしそれらは、カマボコが気軽に手に入る日本だからこその、目先をかえた食べ方ではありますまいか。こちらめったに食べられないっていうのに、そんなぜいたくなこと、しちゃっていいんでしょうか。

だめです、と、心の中で何者が、鳴り響く「天国と地獄」を切り裂くように、宣言しました。やはり、包丁を入れただけのをワインのつまみにしたい。

とはいえ、一人で丸々一本をひたすらに食べるというのもあれなので、トマトサラダにも、しぶしぶ半分入れました。

さいの目に包丁を入れてサラダにまぜこむ瞬間は、ああもったいない・・と、断腸の思いでしたが、食べてみると、これがまたたいへんによろしくて、相当なお大尽をしている気分になりました。


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英霊廟パンテオンの前のクリスマスツリー。子どもはここで鬼ごっ
こをするのが好きですが、本日はあいにく小雨もやい。

前菜は、カマボコ入りトマトサラダ、
主菜は、スパゲッティ・ミートソース、インゲン塩茹で

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