立ち呑み日記・ベジタリアン [晩ごはん]

「あの子、ベジタリアンだからよろしくね」
と、食通の親戚から電話がありました。

外国に住む遠縁にあたる女の子が、といってももう三十路に手が届く年齢ですが、恋人とともにパリに遊びに来て、食通のアパートを足がかりに観光することになりました。

そこで晩ごはんにみんなでうちに集まることになったんですが、彼女がベジタリアンに宗旨替えしたとは、そういえば以前耳にはさんだことがありました。

なんでまたと思わないこともないですけど、哲学というか、主義ですもんネ。

彼女の恋人は普通に肉魚食だそうで、二人は同棲しているんですが一方がステーキにナイフを入れている傍らで、もう一方が豆料理あたりをぱくつくのだそう。

一方だけがベジタリアンでは食生活がむずかしいかというと、そんなことはなさそうです。

ホラ、シンガーソングライターのイルカ、あの方も結婚した年にベジタリアンを公言したそうですが、ともに住んでいる夫ぎみとご子息は肉も魚も普通に食べているそうです。

ベジタリアンといったらやっぱり豆が主菜かしら・・
と、電話口で独りごちたら、食通はやや慌てて
「ボクらは普通にフォアグラののった牛フィレ肉ステーキとかでいいんだよ」

前に彼女がパリに遊びに来た時にベジタリアンレストランにつき合わされ、食後にひもじさかかえて帰路に着くはめになったのがよっぽどこたえたもよう。

ベジタリアンレストランはしかしワタシも入ったことありますが、ひもじいなんてとォんでもない、セイタンのハンバーグ風など味もとてもよくオナカイッパイのイッパイになりましたから、行った店が悪かったのでありましょう。

セイタンというのは目のつんだお麩といった感じのグルテンで、味つけ次第でいかようにもおいしく食べられます。

このときはデザートに三角コンニャクのラズベリーソースがけが出ました。

コンニャクといったら田楽やしょうゆ煮しか考えたことがなかったので意外でしたが、あの独特のにおいを煮て消してしてしまえば無味無臭ですから、なるほどこういう甘味もアリだと感心したものです。

くずきりだって甘味と三杯酢の両方イケますもんね。

さて、ベジタリアンと食通の両方を満足させるご馳走といったら何がいいのか。

食通は毎度自らのお持たせで、粒大イクラと生クリームやらレモンのコンフィ(砂糖漬け)入りヒヨコ豆ペーストとそれをつける新鮮セロリやらのいずれも極上品を、前菜のかわりばえしないトマトサラダなどといっしょに賞味します。

今回はイクラ系はなく、ヒヨコ豆ペースト系になるもよう。

そこで主菜ですが、肉料理派とベジタリアン派がお皿できっぱり袂(たもと)を分かったお食事会というのもちょっとあれです。

肉がベジタリアンのお皿を浸食するのは困りますが、その逆ならかまわないのではないでしょうか。

クックパッドで高野豆腐のカツというのを見つけたんでが、これなんかどうでしょう。スープをしみこませた高野豆腐を軽くしぼりコロモをつけてフライにする。

お肉派はこれをつけ合わせにしたらなかなか豪勢になりそうです。


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9歳のムスコのノートです。再帰動詞、と、いうんですが、(自分が自分の身体を)洗う等の動詞には英語のmeにあたる間接目的語が必ずつく。自分が自分を、というのがフランス語を習い始めのころのワタシは理解に時間がかかったもンです。

前菜は、ニンジン千切りサラダ
主菜は、牛挽き肉ステーキ、じゃがいもソテー、ブロッコリー塩茹で

立ち呑み日記・驚愕 [晩ごはん]

ど、ど、どうしてーッ、
と、どうしたって声をあげずにいられませんでした。

いえね、晩ごはんに来客あり、クスクスをつくったんです。

大鍋で野菜たーっぷりのブイヨンを煮て、本来ならば専用せいろを上にのせて湯気でクスクス粒をふやかすものですが、あいにく持たないので別鍋で。

「モロッコじゃ野菜を見栄えよく大きく切るが、うちらアルジェリアはひと口大」
と、八百屋で今宵はクスクスと口走ったら、アルジェリア人のお兄さんが微に入り細に入り作り方を説明してくれました。

アルジェリア式ではつぶしたトマトも入れ、ズッキーニは皮をむいて輪切りにするそう(モロッコではそうしない)。

これらを参考に、羊の首肉をつかって2時間かけてとろとろ煮ました。

香辛料もたーっぷり。例のワキガ臭のクミンも遠慮せずざくざく加えます。(昨日の立ち呑み日記をご高覧ください)

別鍋でヒヨコ豆の缶詰を温め、また別の小鍋にスープ少々とりわけ干しブドウを浸します。ヒヨコマメと干しブドウは食べる時におのおのの皿へパラリ。

われながら美味しくできたんですヨ。

が、鍋に八部も残ったので、ヒヨコマメと干しブドウをともに投入しておき、翌日お昼に表面に固まっている脂をすくいとったんです。スープがあっさりしますからね。

今晩は残り物を温めるだけだからラクだナ、と、晩ごはんぎりぎりの時間に台所に立ちました。で、鍋を温める前にかきまわそうと蓋を開けたところで冒頭の叫び。

薄気味悪いオレンジ色の泡がいちめんに覆い、火も入れてないのにぷちぷちぶかぶか妖怪沼のごとく吹き上がっている。鼻を近づけると、(うっ)とくるおぞましい腐敗臭。

たった小半日ですゾ。たったこれだけの時間でどうしてここまでになってしまったのか。

これまでだってポトフの、カレーの、野菜スープの前の日に作った残りを翌日もちゃんと食べて来ているんです。

なぜ、なぜ、こんなことに。たしかに昨日、今日のパリは、小春日和のぽかぽか陽気では、ありました。

「ちゃんとした生活、それは、ものを腐らせない生活だ」
と、くしくもつい先ごろ、ナンシー関のエッセイで読んだところ。

ナンシー関さまも上京して一人暮らしを始めたころ、『驚愕』と大仰に言っても誇張でないほど驚愕したのが、ふと気づくと食べ物が腐っていることだとおっしゃいます。

前夜に作り、翌朝もまた食べようと思っていた豆腐の味噌汁が、朝起きてみるとガス台の上で傷んでいる。

実家でも残り物の鍋はいつだってガス台の上にあり、翌日も、その翌日だってちゃんとおいしく食べたというのに。

ナンシー関さまのご実家は青森で、東京とでは夏の暑さが比較にならないからではと考察なさいます。

「東京というところはものが腐るところだから用心しなければ」

パリもまたものが腐るところなんだか。

思うんですけど、腐敗はじわじわすすむのではなくて、ある時を分水嶺に一気に「ダメ」になりますね。

無念筆舌に尽くし難し。大鍋まるまるの中身を、おたまですくってポリ袋に捨てました(号泣)。


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あともう少しで陽が暮れます。

前菜は、トマトとグリンピースのサラダ
主菜は、鶏ロースト、じゃがいもロースト、モロッコいんげん塩茹で

立ち呑み日記・熟練 [晩ごはん]

晩ごはんにお招きしたロシア人ご夫婦はじめ友人たちと、仔羊やらキノコソテーやらをぱくぱくやりながらおしえてもらったんですが・・

ロシア人は誰もが森で、食べられるキノコとそうでないキノコが一目で分るものだそうです。それはもう、田舎暮らしだろうが都会のサラリーマンだろうが同じ。

「こないだなんかエリンギを大量に採ったわよ」
と、食卓をはさんで熱をこめて語りながらフォークを動かしているご夫婦もまた、モスクワ郊外のマンション暮らしです。

それにしても、猿も木から落ちるといいますが、毒キノコと間違えないんでしょうか。

「そういうハッキリしないキノコは唇にちょっとつけてみればいいのよ」
と、ご夫婦のマダム。

毒キノコだと電気が通ったようにビリッとしたり、苦みがあったりするのですぐ分かると言います。

いやでもオソロシイ・・
そんなことして猛毒にヤラレないんでしょうか。

おりしも、滋賀県など関西地方でカエンダケなる猛毒キノコが急速に増殖している、というオンラインニュースを読んだばかり。

カエンダケは燃えるような真紅で人間の指のような形状をしており、触っただけで皮膚がただれ、食べようものなら嘔吐、腹痛、下痢にとどまらず、呼吸困難、言語障害、多臓器不全をひきおこし、わずか3グラムの摂取で死に至るそうです。

本来は山奥でひっそり赤々と猛毒をはなっていたのが、近年、キクイムシの大量発生でブナやナラが集団的に枯れる「ナラ枯れ」がおき、これを温床として里山まで進出するようになったのだそう。

「見るからに猛毒とわかるキノコに近づくわけないでしょうが」
と、ご夫婦のご主人は肩をすくめます。

つまり、熟練者とドシロートの差、ということでありましょう。

キノコ狩りの熟練者が(これどうかな?)と吟味するのと、キノコのキの字も知らないドシロートがためつすがめつするのとでは雲泥の差がある、ト。

ドシロートが毒キノコに接吻するのとわけが違うんですね。

「ゴルフだって同じだわよ」
と、同席していた、ゴルフが趣味の別の友人が声を出しました。

ゴルフ場は全部で18のホールがあって各ホールそれぞれ打数が決められ、4人ひと組でまわるものだそうです。

その中に池があったり傾斜があったりするわけですが、何度も何度も池に落っことすやら、いくらやっても空振りばかりやら、なんていうド初心者は、
「そもそもグリーンに出てはいけないのよ」

「ボクも熟練に関しては一家言あるね」
と、先ほどから鹿爪らしく皿の仔羊にナイフを入れていたまた別のフランス人の友人も顔をあげました。

このひとは元々ヨガの先生で、あるときから瞑想だの宇宙の神秘だの言い出し、独学で「森羅万象の真理を極めた」んだそうな。

「長年の修業のおかげで手をかざしただけで食べ物に力があるか感じられるまでになっているのさ」

ことに魚屋で手をかざして吟味し、新鮮かどうか判断してから買うのだそう。

まあそれも熟練と言えないことはないでしょうけど、ワタシなどなにも手をかざさなくともひと目見ただけで、魚が新鮮かどうかなどイッパツで判断できますぞ。


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早いものですネ、こないだ年が明けたと思ったらもう八月が終わりました。秋から冬になって行きます。

前菜は、トマトサラダ
主菜は、仔羊腿肉ロースト、じゃがいもと香り茸のソテー、いんげん塩茹で(昨日の残りデス)


立ち呑み日記・大阪の味 [晩ごはん]

(なんでまた)
と、仰天なさっているのがお声の背後からくみとれたので、
(な、なんでまた)
と、こちらも少々動揺しました(少々、ですヨ)。

大阪のユニヴァーサルジャパンへパッケージツアーで行ったんです。(前回の立ち呑み日記をご高覧ください)

閉園は午後8時なので、晩ごはんの心配をしないとなりません。なにしろ初めて行く場所、周辺にどんな店があるのかないのか、見当もつきません。

ディズニーランド・パリなどは、園の外に夢の続きよろしく電光ピカピカで、アメリカンスタイルのレストランがひしめいています。

が、いつ行こうがどこも満席もいいところ。

スペインなどでは、パリを素通りしてディズニーワールドに直行し二日間、といったバスツアーが人気だそうで、そういう、園に隣接したホテルに宿泊する人が大勢繰り出しているためです。

年に一、二度足を運ぶ日帰り組からすると、お昼は園内で割高のハンバーガーやピザと相場が決まってますから、夜も同様では子どもはあれとしても大人は閉口です。

そこでディズニーランド・パリにいく時は、夜はパリに戻ってから食べることにしています。

8時に出てもパリ中心に9時には戻って来られ、21時といったらフランスでは普段の晩ごはんの時間ですからね。

その頭があったので、USJに隣接しかつ駅から徒歩1分の距離にあるホテルに宿が決まり、そのホームページに館内レストランのバイキングを見つけると、ホテルのことでそうお安くはないですが、すかさず予約の電話をしたんです。

すると、
「ハイ? バイキングのご予約でございますね(なんでまた)」
と、こんな感じ。

チェックインして荷物を預け、レセプションで今宵のバイキングの場所を訊ねた時もそうでした。

「手前どもにレストランはひとつしかございませんで・・」
と、心の底から申し訳なさそうにおっしゃる。

(な、なんでまた)という疑問は、その直後USJへ向かうとすぐさま氷解しました。ゲートまで、感じのよさそうな食べ物屋がずらーっと並んでいる。たこやき博物館、なんてのまでありました。

大阪出身の友人に聞いたところによると、大阪人は「安くて」「おいしい」、この二点がそろわない食べ物屋には「めっちゃいいや~ん」とはならないんだそうです。

「髙くて」「おいしい」のは当然だからハナにもひっかけない。「高くても」「おいしい」ものを評価する東京人と大いに異なります。

そういうところからかんがみると、ホテルの方々のジレンマがわかって来ます。安くておいしいほうをすすめてくださりたいところながら仕事柄そうもいかない。

終日遊んでホテルへの戻り際、食べ物屋ばかりのビルをのぞいてみると、なかなか圧巻でしたヨ。

焼き肉なり回転寿司なり、勝手知ったる地元勢の支持を受ける店は30分待ち。片や見るからに観光客向けの店はがらがらです。

われわれのバイキングは、とおってもよかったです。空いてたし、お値段だけのことはありました。

ことにデザートにはチョコレートファウンテンがあり、自分で作るソフトクリームやワタアメまでもあり、本誌記者大満足でありました。


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帰りの新幹線でパチリ。新幹線は座席の前が広くていいですネ。シートもぐーんと倒せます。新幹線でパリまで戻りたい・・

前菜は、メロン、トマトサラダ
主菜は、さわらの味噌漬け、さつま揚げ、モロッコいんげん塩茹で、焼きそば


立ち呑み日記・夜食と晩餐 [晩ごはん]

この6月6日はノルマンディー上陸作戦70周記念で、往年の連合国のトップがパリに集まりました。

それに先駆け、前夜、ロシアのプーチン大統領とアメリカのオバマ大統領とフランスのオランド大統領が会食とあいなったんですが、ウクライナ問題で米露相容れず、二者同席をよしとしなかった。

そこでなんとまあオランド大統領はまず夜7時からオバマ大統領とレストランで晩餐、次いで9時からプーチン大統領と大統領官邸エリゼ宮で夜食、と、立て続けに2食食べることとなったそうな。

レストランは三ッ星シェフ、ギー・サヴォアのセカンド店、新鮮な素材に強火をさっと通すのみのあっさりした調理法で、前菜にオマール海老のサラダ、主菜にノルマンディー産スズキのグリルといいますから、
(マ、二食立て続けといってもそう辛くもなさそうだナ)
と、外野(ワタシです)は暢気にテレビニュースを眺めるのみです。

エリゼ宮の夜食はどんなだったんだか。

夜9時といえばフランスのシモジモの生活者にとっては普通に晩ごはんの時間帯で、夜食はもっと遅く11時前後から食べ始めるイメージがありますが。

観劇で、幕間に小さなサンドイッチをつまむぐらいにしておいて胃袋をなだめ、舞台がハネてから劇場周辺のブラッセリーで生牡蠣と白ワイン・・なあんていうのが、ワタシのもっとも愛好するところの極上の夜食です。

晩ごはんと夜食では、どちらが「格上」なんでしょうネ。

時分どきに晩ごはんをしっかり食べた後、夜半に小腹が空いてつまむわけですから晩ごはんが主、夜食が従、とも考えられます。

が、観劇後の生牡蠣のように、夜食が主となる場合も、ままある。

米露に格差をつけるわけにはいきませんから、オバマ大統領とは肩の凝らないレストランで親密さを再認識し、片やプーチン大統領とは絢爛豪華なエリゼ宮でにぎにぎしくいくわけです。

「夜も更けて来たことだしさあさ一献いきましょう」
と、夜食のほうでは上等のウオッカもふるまわれたのではないでしょうか。

上等のウオッカ、のんでみたいナ。でも、プーチン大統領オランドと大統領に挟まれてではのんだ気がしないかもナ。

それにしても「夜食」って、いかにもおいしそうな響きがありせんか。どうかすると「晩ごはん」よりおいしそうなくらい。

連合国と敵対した東の国の民にとって「夜食」のキーワードといえば、
受験生、簡単レシピ、食べると太る、
これに尽きましょう。

受験生の夜食と言ったらやはりカップめんや、オカーサンが作ってくれる具入りかけうどんなどでしょうか・・

・・と思って画像検索してみたら、意外や意外、ごーってり積み上げた唐揚げやら巨大ピザやら、なんだかもう、深夜にホントにこれだけ食べるの?! といった様相でぴっくりしました。

「夜食テロ」って、いうんだそうですってネ。

夜半、腹が空いて来たなあ・・と、パソコン画面に向かう時分をねらっていかにもおいしそうな画像を次々と貼り付け、
(うむむむ食べたい食べたい食べたい・・)
と、身もだえさせる。

でもこれ、画像で堪能するのみなんですから、健康にはむしろ最適の夜食なんじゃないでしょうか。


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やっと夏らしくなりました。この天気続くかしら。

前菜は、グリーンアスパラ、マヨヨーグルトソース
主菜は、ウズラのグリル、じゃがいもピューレ、いんげん塩茹で、グリーンサラダ


立ち呑み日記・バターロール [晩ごはん]

金曜日の晩ごはんで、ハラをむしっては口に運びながら、つらつら考えた。バターロール、そういや長いこと食べてないナ。

ハラというのはユダヤの安息日の始まりである金曜の夜のお祈りで食べるお供物パンです。

キリスト教では葡萄酒とパンはキリストの血肉ですが、ユダヤ教では神の恵みである葡萄と神への捧げものであるパン、と、いうふうに考えるものだそうです。

ハラは三つ編みにして焼いてあり、バゲットやパン・ド・カンパーニュなどカワのかたいフランスのパンとは一線を画した柔らかさ。

三つ編み型バターロール、テナ感じで、そしたら急に本家のほうが食べたくなっちゃったんですよねえ・・

バターロールはパリのパン屋でついぞ見かけることはありません。ハラもまたユダヤ人街以外ではお目にかかれませんが。

バターロールって、食パンよりずっと心ウキウキしませんか?

ひところは喫茶店のランチセットで、
パンまたはライス、
なんてときにパンにするとたいていバターロールでした。

今でこそデパ地下にさまざまなパンが席巻してますが、昔はバターロールこそがパンの主役でした(と決めつける)。

そうそう、ワタシが小学校高学年のころ、昭和50年代最初頭ですが、
「ちゃんとした洋食のマナーを身につけなければ」
というので、ちゃんとした洋食のレストランへ家族そろってくり出したことがありました。

目の前にずらっと並んだフォークとナイフは必ず外側からとる、なんてことをオトーサン(ワタシのオトーサンです)が得々と一説ぶつなか、コンソメスープから始まりました。

洋食はコンソメスープから始めるものである、と、当時のアラフォー世代は信仰にも近い形で思い込んでいたんですね。

そこへ小皿でパンがやって来たんですが、これが自明の理のごとく、バターロール。こういう店では万にひとつの例外もなく、バターが親指大に丸められて銀の器で出てきますね。

バターロールに銀器の丸いバターは実によく似合います。

ほかほかと温かいバターロールをひと口大にちぎり丸いバターをぬりつけて口にほうりこむといくらでもはいります。

バターロールはしかし本来はバターをつけなくてもすむよう、バターを折りこんであるものなんだそうです。

だから、「バター」ロール。

「ロール」というのは、アメリカで小さな丸パンをさし、それより大きいものを「ブレッド」と呼ぶのだそうな。ホラ、シナモンロールとかコーヒーロールとか、ああいう丸いのがロールパンです。

ヨーロッパからの移民がパンの製法をもたらしてプレーンの「ロール」がまずあらわれ、何事にも簡便さを追究するアメリカ的発想から、朝などバターをぬるひと手間を省こうとバターを折りこんでコクを出したのがバターロール、なんだそうです・・

・・以上のことはウィキペディア日本語版に教えてもらったんですが、驚くかな、「ロールパン」の項目にフランス語版がないんですヨ。

パンといったらバゲットとクロワッサンでしょうがッ、という確固とした自信と大いなる驕(おご)りがそうさせている、ような、気が、しないでもないです。


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接近し過ぎのような気も。でも十分な隙間があいているとパリっ子は批判の目を向けるんです。「詰めていけばもう一台ぐらい停まれるのになんという空間の無駄遣いッ」とかって言う。

前菜は、スモークサーモン
主菜は、鴨肉のコンフィ(脂煮)、フライドポテト、キャベツのサラダ

立ち呑み日記・バゲットの鼻 [晩ごはん]

「えーまたボクなのォ」
と、晩ごはんでいつものようにバゲットを切り分けて分配すると、9歳のムスコ。

パンを小さく切り置くと残った時パサパサになるので、うちではパンかごなしで大きめの一切れをあらかじめ配ることにしています。

すると、必ず誰かが先端からの部分にあたる。

「えーまた」
と、ならないよう、オカーサン(ワタシです)が家族順繰りにあんばいしているんですが、記憶というのは自分に都合のいいように出来てますナ。

「ボクにばっかり端っこが来る」
と、ムスコ。そんなはずは断じてないんですが。

バゲットの端っこはソンなんでしょうか、あるいはトクなんでしょうか。小麦粉の密集地帯ですから、むしろトクの部類だと思うんですが。

「でも固い」
と、嫌う人は言いますね。

ワタシなども端っこをガリッとやって奥歯を三回も割ってます(涙)。

「バゲットってそこまで固かったっけ?」
というお声が聞こえてきたようですが、フランスのバゲットは1993年にバラデュール首相のもと、いわゆるフランスパンと平行して「バゲット・トラディション」なるものが奨励され、以降、昔ながらのバゲットとの二本立てになっているんです。

ややこしいですが新しい方が「トラディション」、バゲットの公定価格1ユーロ(約150円)より気持ち高く、外側がバン・ド・カンパーニュのようにバリンとかたいのが特徴。

固い外側のお蔭で翌朝もパサパサにならないのでうちはいつもトラディションないしはトラディション風バゲットを買います。

すると、端っこがことさらに固い。

お腹がすいているところである程度リズミカルに食べ物を胃袋におくりこみたい育ちざかりは、このことさらの固さがもどかしいみたいなんですね。

端っこが残ったとしてもパン粉にしたりスープやサラダに落とすクルトンにしたりと使い道があるので困りはしないんですが、できればえり好みしないで食べてもらいたい。

「ジャン=ピエールはこれが大好きだった・・」
と、友人宅の会食で顔を合わせるたびにバゲットの端っこをつまみ上げては朗読口調になる知り合いがいました。

その食事の席でのめんめんたる語り、フランス映画のごとし。

バゲットの鼻、と、二人の間で呼び称し、彼が好むことから彼女も好きになりバゲットを買うとまず両端を切りとって一つずつ食べる。

ところがあろうことか彼氏に別の恋人が出現し、愛の巣から去って行ってしまった。

「バゲットの鼻は君とはもう分け合わない」
と、別れの際に宣告したものだそうです。その夜、バゲットの端っこ二つとも食べながらむせび泣いたという彼女。

それからしばらくして彼女にはなんと日本人男性の恋人ができ、友人宅の会食にそろってやって来ました。

この日本人男性はフランス語初心者ながらバゲットの鼻の逸話はご存知でした。

「ボクは食パンの耳はキライです」
と、日本語でおっしゃり自分のジョークにガハハハと大笑いなさるんですがこれをフランス語に訳して欲しいとたのまれ大いに閉口しました。(こういう言葉遊びの訳が一番むずかしいんですよねえ・・)


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今宵はこれにかぶりつきます。皮かぶってます。モンベリヤール、という、フランシュ・コンテ地方の町の名産ソーセージです。

前菜は、トマトとオイルサーディンのサラダ
主菜は、フォーフィレ(牛)ステーキ、バジリコ風味マカロニ、いんげん塩茹で、グリーンサラダ

立ち呑み日記・桜吹雪 [晩ごはん]

納豆ごはんをお昼に食べながら、つらつら考えた。桜でんぶ、って、そういやあったナ。

小さいころ大好きでした。魚屋の壁の釘におそ松くんふりかけやキュウリのキューちゃんと並んで目の覚めるような真っピンク入りの袋が、下がっていたものです。

着色料なんかは健康志向の今とは比べ物にならないほど、どきつかったと思います。

「買って買って買って」
と、ひとさわぎすると、うまくいくことも、あった。わしっと噛みしめると甘―くてしょっぱーくて、でもやっぱりうーんと甘い。

幼稚園の周囲の子のお弁当にも、白飯の上にしょっちゅう見受けられました。

とはいえワタシはこれがサブイボたつほどニガテでしたね。白飯の上にふりかけた桜でんぶ。うーんと甘―いのがふつうの白飯と混じり合った味がニガテなんです。

ホラ、お茶碗の温(ぬく)飯にジャムをのっけて食べると想像していただきたいんですが・・

ジェットコースターで足がさらわれたようにゾクリとしませんか。桜でんぶののった白飯がまさにそんな感じ。太巻きやちらし寿司などの酢飯なら大好きなんですが。

酢飯といったら特別の時にしか食卓に上りませんから、桜でんぶ単体で口に入れキシキシ噛みしめるのが大好きでした。

映画『となりのととろ』でも、さつきがメイにつくってあげるお弁当によく見ると桜でんぶが入ってるんですヨ。さつきちゃんもワタシと仲間です。

梅干しがのったなりの白いご飯を一本の目刺しで区切り、おかず入れの方に緑色のうぐいす豆とたーっぷりの桜でんぶが詰めてある。

桜でんぶは色あしらいというだけでなく立派な一品おかずだったんですね。うちもまたお弁当だけでなく、晩ごはんでも小皿で食卓にのぼったもンでした。

今日ではキャラ弁の必要不可欠な食材のもよう。マイメロディーのウサギの耳のピンクや、ピンクパンサーなんかも桜でんぶのおかげでそれっぽくなります。

それにしても真っピンクでさらさらしてあんなに可憐な食べ物だっていうのに、「デンブ」などという名称はいかがなものか。

「デンブ」と言われると、ぼったり肥満してドンくさく、もっさりして一度腰を下ろしたらテコでも動かない臀部、テナ印象。

でんぶとは「田麩」と書くのだそうです。肉や魚のそぼろ全般をこう呼ぶらしいんですが、なぜ田んぼのお麩なんだか。

語源にいわく言い伝えがあるんでしょうが、もうちょっとこう、外見に見合った華やかな名称にしてあげられなかったんでしょうか。

桜吹雪、なんてどうでしょう。食紅で染めてない白いのがただの、吹雪。どうです、昭和の時代のお弁当がいきなり平成仕様になるではないですか。

新生なった桜でんぶもとい「桜吹雪」を世に浸透させるため、ぜひとも坂本冬実さまにCMにご登場願い、「夜桜お七」のサビのところをひらひらした例のしぐさで歌っていただきたい所存であります(キャラ弁にふりかけてる感じで)。


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よく晴れた日曜でした。

前菜は、トマトとオイルサーディンのサラダ
主菜は、鶏ロースト、じゃがいもロースト、モロッコいんげん塩茹で

立ち呑み日記・新春カレー [晩ごはん]

♪おせちもいいけどカレーもね、
と、朝、昼、夜とおせちを広げるとどうしたって、キャンデーズのかわいい声が耳元でよみがえってくるのは否めません。

♪おせちに飽きたらカレーもね、
と、西城秀樹も歌っておられました。

ワタシらが現役でこれらを聞いた子ども時代はこれらを真に受け、お正月といったらなんとしてもカレーを食べたい、いや食べるべきとさえ思ったもンでした。

「新春かくし芸大会」にかぶりつきつつスプーンをつかってみたい。

ことに、ランちゃん・スーちゃん・ミキちゃんが声をそろえてすすめてくれるククレカレーをポストお節料理として迎えたかったです。

これ、当時みごと実現できたコって、いたんでしょうか。ワタシなど夢で終わりました。

なんとなれば、家族の人数分のレトルトカレーとは割高で「買う意味がない」との判断がオカーサン(ワタシのオカーサンです)から下された。

「だったらルーで作ったほうがうんと経済的」
と、自分がオカーサンになってみればよーくわかります。

だからといってお三が日に♪リーンゴとハチミツ・・のほうが採用されるかというと、これもまたそうはいきませんでした。

なぜ、と、子どもの目で見ればナットクいきませんが、大人の目で見たら一目瞭然。

お正月なんだもの、カレーなんかより鍋とかおいしいもの食べなきゃ。

以前はしかし、お三が日といったらどこもかしこも松飾りのついたシャッターが下りたなりでしんと静まり返っていましたから、年末のうちに大鍋いっぱいのカレーやシチューを作り置きして新年のご馳走とした家庭も、あったのではないでしょうか。

今日、スーパーは元日からふつうに営業しています。ワタシなども元旦そうそう、パンとバターが切れているのに気づき、急ぎ買いに走りました。

日本人としてあるまじき行為、と、ややうしろめたく店内に入ったんですが、「っらっさいませ」と、平素とかわらぬ歓迎を受け、大いにホッとしました。

そうなると作り置きや買い置きの必要はまったくなくなります。足りないものが出ればさっと買いに走ればよろしい。このあたりのこと、キャンデーズ、西城秀樹の両陣営はどうお考えなんでしょうか。

みなさんのお宅はどうなさるか、うちは冷蔵庫に残り物がたまるとカレーになります。日本が誇るカレールウの威力は抜群で、どんな残り物もちゃあんとカレーになっちゃう。

「おいしい」カレーになっちゃう、と、正確を期すべきかもしれません。

そこで両陣営へ提案なんですが・・

これから松が明けるなか、どの家庭でもお節の残りがかなッらず、出る。これらをカレーに煮込んじゃうわけです。

「きんとんは?」
というお声が漏れ聞こえてきたようですが、きんとんはホレ、チャツネのかわりになります。

それぞれの具にしっかり味がついてますから、このカレー、まずいわけがない。

♪おせちが余ったらカレーにね、というCMを、両陣営ぜひとも制作していただきたいです。

スミマセンヌ。写真がうまく入りませぬ。

前菜は、スモークサーモン、
主菜は、串揚げ、カレードリア

立ち呑み日記・バイキング [晩ごはん]

ただ今学期休み中で、「フチュロスコープ」というテーマパークのホテル宿泊プランにワルガキ二匹を連れて行ったんですが(昨日の立ち呑み日記をご高覧ください)、申込みの画面に、ディナー特典割引き! と、出てきました。

「パイレーツ」というホテル内のレストランでコース料理もしくは、「カレイドスコープ」でのバイキング。「パイレーツ」というだけあってスタッフが海賊の扮装だそうですが、バイキングよりややお高い。

「食べたいものを好きなだけとっていいのとお店の人が海賊のかっこしてるだけのと、どっちがいい?」

二匹は一も二もなくバイキングを選びました。

しかしここに落とし穴があったことに、この時点では気づきませんでした。

今でこそ各所で食べ放題バイキング華やかですが、ワタシらが子どもの頃は、学期休みの目玉中の目玉といっていい一大イベントでしたよネ。

東京圏では、第一ホテルの「世界のバイキング」、なんといってもこれです。

会場に入るとまあ、満艦飾。お皿をとって勇躍繰り出していくんですが、
「普通のものはとっちゃだめ」
と、意外にも家族の大人たちからクギをさされるんです。

「いつも食べられるものでオナカイッパイにしたらつまりませんッ」

ワタシなどマカロニグラタンをとろうとしたら
「うちでも食べられますッ」
と、叱られました。

では何をとるべきかというと、白帽子のコックさんが目の前で切り分けているローストビーフ。

その銀の小卓の前にはワタシらきょうだいと同じ、ラブピースのTシャツの女の子や半ズボンからふとももがぷりぷり出ている男の子らが列をなしていて、その最後尾につきます・・

・・テナ時代を経てオカーサンオトーサンとなり、みなさんが家族を連れてバイキングに行く場合、
「好きなものをおとりなさい」
と、お子様方にはおおらかに接しておられるのでは、ないでしょうか。

こちらのオカーサン(ワタシです)も無論、スモークサーモンだのテリーヌだのを二匹に強要するつもりはなく、それらはこちらの皿へどんどん積み上げ、飲み放題のワインのつまみにするつもりでした。

ところがです。

ホテルに着いて、夜のおたのしみの時間と場所を確認すると、バイキングはホテル内レストランでは「ない」というんです。

「ほらここ」
と、レセプションの方に示された箇所をよくよく見ると、あらまほんとだ、「カレイドスコープ」なるレストランはテーマパークのなか。

しかもその時間が、18時半から20時半まで。日本ならば普通に晩ごはんの時間でありましようが、フランスでは宵の口の食前酒の時間です。

なんとなれば21時からショーがあるから。

丸一日を歩き回りやれやれと腰を落ち着け、のーんびりたらふく飲んであとは寝るだけ、という状況を期待していたのに、これではやるかたなしです。

とほほの心境をかかえ、つめたくもやや薄いロゼワインを、それでもクイッとやりました。が、ホテルへの循環ハスに乗りこまねばならぬ。

二匹は味無しスパゲッティとフライドポテトをおテンコ盛りでご満悦。この二品はどのテーブルの子どもたちも大いばりでおテンコ盛りにしているようでした。


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カルーセル麻紀、なんてつい思い浮かびましたが。男性用は女性用の入り口の横、という意味らしいです。

前菜は、野菜ポタージュ
主菜は、カレーライス、グリーンサラダ

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