立ち呑み日記・日本文学 [ワルガキ]

12歳のムスメが、いよいよ歯の矯正リングを付けることになりました。

今回初めて知ったんですけど、歯の矯正って歯のひとつひとつに金具をじかに接着固定してするものなんですネ。

で、金具に半円形になった針金をはめ渡す。すると時間がたつうちに歯は次第に動き、2~3年後には半円に沿った美しい並びになる、というわけです。

「私もバカンスで日本に行ったことあるのよ」
と、矯正歯科の若く溌剌とした女性の先生は、治療台に見るからに緊張して横たわるムスメに明るく話しかけながらお始めになります。

「京都も東京も素敵でハマっちゃって。日本いいワァ」
と、ムスメの横でやはり息をつめるなりの日本人のオカーサン(ワタシです)に向かって歯並びのいい口許でニッカリ。しゃべりながらも手は着々と動き、一つ、また一つと金具が接着されていきます。

「私、読書が趣味で日本文学もけっこう読でるの。読んだことある?」

んああ、と、口開けたままかすかに頭を横に振るムスメ。ムスメはフランス語になっている冒険小説は大好きでかじりつくほうですが、日本語の本となるとおぼつかないことこの上なく、『ぐりとぐら』で止まっています。

「イノウエ、知ってます?」
と、先生はこちらへ目を向けました。「『猟銃』、すばらしい小説でした」

井上靖のこの短編は昨今の日本ブーム以前から訳されていて、今まで何人もの日本通から
「読んだ、素晴らしかった」
と、熱をこめて話しかけられています。

先生は村上春樹も『1Q84』三部はじめ翻訳本はほぼ全部読了しているものの、
「好みかって聞かれたら、ちょっと違うかな」

もっと昔の日本が描写してあるような小説が、雰囲気が味わえて好きなのだそうです。

「『眠れる美女』、最高だったワァ」
と、一瞬手を止めてうっとりするやムスメに向かって
「『森の』は入らない『眠れる美女』よ」

男が、寝床でぐっすり眠っているうら若き美女の横に入ってともに眠るだけなんて
「西欧の作家にはぜったい思いつかないと思う」

この若い美女ってある意味娼婦なんだけど身体は許さず眠ってるだけなの、
と、先生は事情のよくわからないムスメに説明してくださるんですが、小説の内容が12歳向けとは言い難く、横でややヒヤヒヤします。

でも、ノーベル賞作家川端康成の作品ですからね。

「カワバタといったら『伊豆の踊子』も読んだわ」
と、先生はまあホント、日本文学に精通しておられ驚くばかりです。

「最後に主人公の青年が、泣きながらスシ食べるの」

スシっていうか、海苔巻きですよネ。

二十歳の一高生で孤児根性のしみついた「私」が伊豆を旅し、出会った貧しい旅芸人の一行との交流から心を和ませるようになり、東京へ帰る船中で同室となった少年がくれようとする海苔巻きを素直な気持ちで受け取る。

「あら勘違い、スシじゃなくてマキ?」
と先生。

昨今のスシブームで、マキ(巻き寿司)なんて言葉も浸透しているんです。

「そうするとアボカド入りのフトマキかしら」

先生は干瓢(かんぴょう)巻きの存在をご存知なく、説明に少々てこずりました。


P1000053.JPG
通りがかりにパチリ。奥はマドレーヌ寺院です。

前菜は、トマトサラダ
主菜は、シュークルート(牛肉および豚肉のフランクフルト、キャベツの酢漬け)、モロッコいんげん塩茹で、じゃが
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