立ち呑み日記・青春の花火 [女子]
子育てが一段落した旧友が単身パリに遊びに来て、彼女がぜひとも一度行ってみたいというビストロに連れ立ったんですね。
「青春の花火」
なんてことを、フォアグラのビール風味ゼリー寄せやらにナイフを入れながら彼女が言い出したので、うひゃーとたまげました。
このビストロは、当代あぶらののりきった三ッ星スターシェフによるセカンドメゾン。旧友は駆け出し社会人のころ、なんと若き日のこの大シェフと「ひと季節の恋」を打ち上げたのだそうな。
大シェフは当時ニキビの跡も残る19歳で、日本で開催された食の祭典に師匠すじにあたる大料理長の一番下っ端の「コックさん」として一団にしがみつくようにくっついて来た。
美人で語学が堪能な彼女は、別の一団の通訳としてさっそうと仕事をこなしていました。その姿にあからさまな憧憬をあらわしたのが、かの19歳のコックさん。
熱烈な、しかしまだ世慣れないところから稚拙さが見え隠れする口説き文句を受け、彼女もまた働き盛りの恋し盛りですから、「うふふ」と鷹揚に微笑んで道なりに進んだもよう。
「フランス男ってやさしいのね」
と、南仏産赤ワインをひと口喉に滑らせ、旧友。
二人で投宿した翌朝、青年は朝食バイキングで彼女を王女のごとく着席させると、カフェオレを淹れ、トーストを焼き、好みを細かく訊ねてハムやスクランブルエッグを皿にいかにも料理人らしいきわ立った盛り付けで持って来てくれたそうです。
その後一団は帰仏し恋も沙汰やみとなりましたが、仕事で海外をとびまわっている彼女にフランス出張がは入った折に、ふと思い立って連絡をとってみた。
若きコックさんは19歳からひとつふたつ誕生日を重ね、あいかわらず精力的に頑張っていました。
「あッ、あのときの」
と、ワタシも膝を打ちました。
ワタシが語学留学していたころ、彼女が仕事でパリにやって来たことがあるんですが、
「今から元カレと再会」
と、テヘヘと照れ笑いしながら言うので、あらお楽しみねと別れたものです。この時、多忙な厨房の仕事をさいて車を出し、ロワールの古城を案内してくれたそうです。
それから間もなく彼女は良き伴侶に恵まれ、仕事、家事、子育てと例のごとくめまぐるしい日々。
この間、かつての下っ端さんはぐんぐん頭角をあらわし、また、ポール・ボキューズはじめ多くの大シェフたちの活躍により全世界で料理人の社会的ステータスが目を見張るほど上がりました。
旧友は青春の花火のことなどすっかり忘れていた5年前、高校生になった一人娘をまじえ家族三人で欧州旅行をすることになり、ふと思い出してその名を何気なく検索してみたら腰を抜かしたと言います。
3つ星を掲げ、パリの有名ホテルの総料理長としてメインダイニングを仕切っていた(当時)。
「なら5年前に家族そろって会いに行けばよかったのに」
と、暢気に言ったら旧友はフォークを置いて、
「雁首そろえてのこのこ行けると思う?」
先方にとっても青春の花火。
われわれ世代ももう半世紀、家族同伴の邂逅があっても悪くない気もするんですが、でもやっぱり思い出は思い出のままのほうがいいのかもしれませんネ。
バスを待ちながらパチリ。
前菜は、トマトサラダ
主菜は、牛挽き肉ステーキ、じゃがいもピューレ、いんげん塩茹で
「青春の花火」
なんてことを、フォアグラのビール風味ゼリー寄せやらにナイフを入れながら彼女が言い出したので、うひゃーとたまげました。
このビストロは、当代あぶらののりきった三ッ星スターシェフによるセカンドメゾン。旧友は駆け出し社会人のころ、なんと若き日のこの大シェフと「ひと季節の恋」を打ち上げたのだそうな。
大シェフは当時ニキビの跡も残る19歳で、日本で開催された食の祭典に師匠すじにあたる大料理長の一番下っ端の「コックさん」として一団にしがみつくようにくっついて来た。
美人で語学が堪能な彼女は、別の一団の通訳としてさっそうと仕事をこなしていました。その姿にあからさまな憧憬をあらわしたのが、かの19歳のコックさん。
熱烈な、しかしまだ世慣れないところから稚拙さが見え隠れする口説き文句を受け、彼女もまた働き盛りの恋し盛りですから、「うふふ」と鷹揚に微笑んで道なりに進んだもよう。
「フランス男ってやさしいのね」
と、南仏産赤ワインをひと口喉に滑らせ、旧友。
二人で投宿した翌朝、青年は朝食バイキングで彼女を王女のごとく着席させると、カフェオレを淹れ、トーストを焼き、好みを細かく訊ねてハムやスクランブルエッグを皿にいかにも料理人らしいきわ立った盛り付けで持って来てくれたそうです。
その後一団は帰仏し恋も沙汰やみとなりましたが、仕事で海外をとびまわっている彼女にフランス出張がは入った折に、ふと思い立って連絡をとってみた。
若きコックさんは19歳からひとつふたつ誕生日を重ね、あいかわらず精力的に頑張っていました。
「あッ、あのときの」
と、ワタシも膝を打ちました。
ワタシが語学留学していたころ、彼女が仕事でパリにやって来たことがあるんですが、
「今から元カレと再会」
と、テヘヘと照れ笑いしながら言うので、あらお楽しみねと別れたものです。この時、多忙な厨房の仕事をさいて車を出し、ロワールの古城を案内してくれたそうです。
それから間もなく彼女は良き伴侶に恵まれ、仕事、家事、子育てと例のごとくめまぐるしい日々。
この間、かつての下っ端さんはぐんぐん頭角をあらわし、また、ポール・ボキューズはじめ多くの大シェフたちの活躍により全世界で料理人の社会的ステータスが目を見張るほど上がりました。
旧友は青春の花火のことなどすっかり忘れていた5年前、高校生になった一人娘をまじえ家族三人で欧州旅行をすることになり、ふと思い出してその名を何気なく検索してみたら腰を抜かしたと言います。
3つ星を掲げ、パリの有名ホテルの総料理長としてメインダイニングを仕切っていた(当時)。
「なら5年前に家族そろって会いに行けばよかったのに」
と、暢気に言ったら旧友はフォークを置いて、
「雁首そろえてのこのこ行けると思う?」
先方にとっても青春の花火。
われわれ世代ももう半世紀、家族同伴の邂逅があっても悪くない気もするんですが、でもやっぱり思い出は思い出のままのほうがいいのかもしれませんネ。
バスを待ちながらパチリ。
前菜は、トマトサラダ
主菜は、牛挽き肉ステーキ、じゃがいもピューレ、いんげん塩茹で
2014-10-12 03:24
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コメント(2)
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いやー、エレガントな恋バナに、独身男はほっこりしております。
邂逅の欲求を思い出で封印できるのがオトナなんですよ、きっと。
花火に例えた小粋なおはなしに感化され、
こちらも負けじと、老いらくの花火を打ち上げてみましょうかね(笑)
by 式守錦太夫 (2014-10-14 23:34)
老いらくなんてとんでもない。式守さん、これからですぞ。
by ぐちぐち (2014-10-15 17:14)