立ち呑み日記・輪切りが一番 [前菜]

アジア食材店のあるほうへ信号を渡っていると、店頭ワゴンにむっちり太い大根が一本だけ売れ残っているのが見えました。

コレワコレワ、と、磁石のごとく吸いつけられます。

「大根は輪切りが一番うまいんだよッ」
と、どうしたわけか天から聞こえる水前寺清子のお声。

東海林さだおのエッセイ『ショージくん・・』シリーズの1970年代後半から1980年代初頭に書かれたそれに、水前寺清子リサイタルに行くの巻が、あったんです。

演歌歌手のリサイタルは、第一部が股旅物などの時代劇、第二部が歌謡ショーという構成。

第一部の人情時代劇で、三度笠の水前寺清子が貧乏長屋のめんめんに先のセリフを決めると、客席の高齢者からどっと大爆笑が巻き起こったそうな。

この場面、今だったら爆笑どころか
「やっぱり野菜はオルガニックものね」
と、客席で共感して静かにウンウンうなずき合うことでしょう。

それに去年など、生大根ダイエットなるものが流行ったみたいです。生の大根を毎日6センチ食べるだけ、というダイエット法。

大根の消化酵素は火を通すとなくなってしまうため必ず生、それも大根おろしだとより効果的で、肥満をひきおこす物質を体外に排出してくれるのだそう。

でもそれだけで痩せられるというならワタシなんてとっくの昔にスッレンダーのナイスバッディ―になってますぞ。

寒風がたってくるとこちらの八百屋にカワの真っ黒い大根が並び始めます。このカワをむき輪切りにして前菜にすると、たいへんヨロシイんです。

日本のみずみずしい大根と異なり、目がつんでごりごりしているところへ塩をぱらっとふって噛み砕く。すると、ところによっては心臓がバクバクするほど辛いんですね。

この辛みを抑えるのに、バターを塗ります。

ひとによっては、バゲットの一片にバターをたーっぷり塗ったとこころへ輪切りをのせてかぶりつくんですが、これがまたこっくりした赤ワインによく合うんですヨ。大根6センチなんてたちまちお腹の中です・・

・・おっと、ダイエットというならバターとワインが少々よけいだった、かも、しれませんナ。

「ところでさっきの人情時代劇でどうして大爆笑になったの?」
という声が、お若い方を中心に聞こえてきたようですが。
「大根の輪切りがなんでそんなに可笑しいの?」

『長屋の花見』という落語でも、貧乏長屋の八っつあんや熊さんが、ご馳走もないところで上野へ花見に行こうとお酒のつもりでお茶っ気、かまぼこのつもりで大根の半月切りを準備しますが、ただ切っただけの生の大根はそれほどに貧しい食べ物のイメージだったわけです。

高度成長から経済の絶頂に向かっていた当時、われらが大スター・チーターさまの口から輪切りの大根が一番などと聞くなんて・・と、戦中戦後の苦しい日々をがんばった世代は大笑いしたんですね・・

・・テナことあれこれ考えながら、信号をアジア食材店の店頭ワゴンに向かって突進していたら、ああああッ、なんということッ。

わが大根をしかと胸に抱えとり、レジに向かっているひとがいる。

すごすご、そのまままわれ右しました。


P1010322.JPG
クラシックカーの大会でもあるんでしょうか。

前菜は、ニンジン千切りサラダ
主菜は、トマト肉詰めオーブン焼き、インゲン塩茹で、スパゲッティーバジリコソース(昼の残り)

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