立ち呑み日記・あんたのせい [おとしごろ]

―その抗議はもっともだが、あんたは僕の病気なんだから仕方ないよ」
ピエールが答えながら、セヴリーヌの頭髪(かみのけ)に唇をおし当てた。(『昼顔』(ケッセル著・堀口大學訳・新潮文庫)・・・

・・この本、学生時代に読了したと思いこんでましたが、ワルガキの日本語学校を待つ間にページをめくっていたら、冒頭からわずか数ページのこの箇所で当時読書失速し、つんどくになり果てたことをありありと思い出しました。

先の夏の一時帰国の折に同名の昼ドラが大人気と聞き及んでいたところ、実家の元ワタシの部屋でこの文庫本を発掘したのも何かの縁とスーツケースにつっこんで来たんです。

ケッセル『昼顔』は20世紀前半のフランス文学で、医者を夫に持つ貞淑な妻セヴリーヌが「昼顔」という源氏名を持ち昼下がりの売春宿でめくるめく悦びに身を焦がす・・と、実に刺激的な内容です。

が、二十歳そこそこのワタシはあえなく頓挫。

なぜというに、「あんた」のせいです。ブルジョワ階級のピエールとセヴリーヌ夫妻におよそ似つかわしくない「あんた」にみるみる感情移入できなくなりました。

当時はサガンやボーボワールなどが流行ってましたが、こういうフランスの翻訳小説には、
「あなたのこと、あんたって呼んでいい?」
テナ発言がちょくちょく出てくるので、「あんた」はないでしょうがと鼻白む学生はワタシの周辺でもけっこういたものです。

フランス語の二人称は丁寧語・尊敬語のvousと、タメぐちもしくは見下した言い方のtuがあるところからこうなるんですが。

関西では親しい間柄では気軽に「あんた」と呼びかけると聞きますが。

今インターネットで検索してみるとしかし、
「あんた呼ばわりはうれしくない」
という発言の方が多く見受けられるように思いました。

tuの訳に、学生時代のフランス語文法の先生は「きみ」を推奨なさっておられたものでしたが。

それもまた、どなた様かのブログによると、二人称は時代によって変遷するもので、こんにち「きみ」と呼びかけられると見下されているように感じる、とのこと。

ことに男性から女性では間違いなく嫌われるそうで、このあたり80年代に青春時代をおくったワタシらとは隔たりがあるような気がします。当時の東京の学生の間で「きみ」は男子学生が女子学生に呼びかけるごく普通の二人称でした。

「あんた呼ばわり」「きみ呼ばわり」はでも、歌謡曲となると状況が異なりますね。

♪あんたあの子のなんなのさ、
これなどあなたやおまえでは「感じ」が出ない。

♪あんた・・
と聞こえてくるとワタシなどすぐさま頭の中で、バンダナ巻いた世良公則がとびはねるまでになってます。

ちあきなおみ「ねぇあんた」、千昌夫「あんた」、宮路おさむ「あんたの女」。

「あんた」には昭和の香りがプンプンしてきませんか?

そこいくと「きみ」は平成J-POPです。

Miwa「君に出会えたら」、Flowerpool「君に届け」、Supercell「君の知らない物語」。

そういうわけで昭和の香りも懐かしい『昼顔』ですが、当時の文庫本って活字が小さくて目がシバシバして、読むのになかなか難儀しておりまする(涙)。


P1020678.JPG
小春日和の続くパリですが秋は確実に深まってますね。

前菜は、トマトサラダ
主菜は、白身魚のフライ、じゃがいもソテー、いんげん塩茹で


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