立ち呑み日記・アペロの宵 [食前酒]

灼(や)ける陽がようやく翳り始める午後8時過ぎ。

スペイン国境に近い友人フランソワーズ宅で、夏休みの居候、と、しゃれこんでいたんですが、一日で一番うれしいのは、なんといってもこの時間。

たっぷりしたお昼ごはんのあと、日陰で本など読みながらとろとろヒルネし、のっそり起きて子どもらのダイヤモンドゲームにつきあい、ネコなどじゃらしているうちに、ふと、庭全体が影になっているなあ、と、気づくわけです。

おりしも、夕方から近所の川へ釣りに出かけていたフランソワーズのつれあいが、仲間とともに帰って来る。

つれあいとお仲間によると、
「釣れてもよし、釣れなくてもよし」

釣りざおの先に、モンシロチョウやらトンボやらがとまっているのをポケーとながめ、内輪ウケに終始するバカバナシに興じ、天下国家を論じ、タバコを、パイプを、ふかす。

漁業権を支払っていないので、万が一の万が一、マスなどの大物がかかっちゃった場合はすかさず逃がし、クチボソみたいな小魚だけ、かかったときは持ち帰る。

この8月の頭に、100歳2か月で大往生となったフランソワーズのお母様は、毎年漁業権を払い、95歳まで、自分で車を運転して、急流でマスの大物を釣っていました。

われわれ家族が夏の居候となる直前に永のお別れとなりましたが、旅立ちの服装は、いつもの釣りに行くときと同じ迷彩柄のキャップを目深にかぶせ、カーキ色のパンツにポケットつきシャツを、一人娘のフランソワーズが選んだそうです。

「遠くへ行くといったらこの格好より思い浮かばないもの」
と、グラスの氷を指でまぜながら、フランソワーズ。

テラスで食前酒を、と、みんななんとなく席に着いたところです。

アペロ、と、アペリティフのことを、フランス語の略語でいうんですが、夕刻の外気の中で、のーんべんだらりと過ごすアペロほど夏休みらしい時間は、ほかにないほどです。

飲み物はまず、フランソワーズなど、60年代に青春をおくったメンメンなら、一も二もなく
「クーバ・リブレ(『解放キューバ』)」

ラム酒のコカコーラ割りで、当時はツイストやらゴーゴーやらを踊りながら、時にナンパし、ナンパされつつ、
粋がって杯をあけたものだそう。

とはいえこればっかりだとのみ口甘く、飽きてくるので、フランスの南地方と言えば、リカールやペルノーなど、アニスのお酒、やっぱり、これに尽きます。

水を注ぐと白濁し、のみ口すっきり、ただし、飲みすぎると、頭グラグラのただならないことになりますがネ。マ、なんでものみすぎればそうなります。

子どもらにはリンゴジュースなどあてがい、デワデワ、と、オカーサン(ワタシです)もまた居候として勝手知ったる友人の台所から出来るだけ長いコップをさがしだし、カルピスをつくる要領で、白い飲み物を自分のために、たっぷりつくる。

おつまみのポテトチップやオリーブの実をぽちりとつまみ、ぐびりとのみ、日暮れ時の微風を受け、どうでもいいハナシに興じる。

アー、フランスの夏だなあ・とまあ、そんなこんなの十日間を過ごしておりました。


PIC_0086.JPG
フランソワーズ好みの白い飲み物は「カザニス」、すっきりしたのみ口です。

前菜は、トマトサラダ、揚げ春巻き
主菜は、牛肉と玉ねぎの中華炒め、鴨のつけ焼き、広東風炒飯、ブロッコリーの炒めもの


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コメント 2

式守錦太夫

お帰りなさーい、そうですか、スペイン国境近くに行っておられたのですね。
日の陰った夕刻の、うらやましい時間から宵の口は、
文章でしっかりと情景が思い浮かびました。
アペロ、いい言葉を覚えました、今度使ってみます。
アニス系の水割り、白濁したその呑み方は私も大好きです。
でも私の場合は〆の一杯なんですけどね!
by 式守錦太夫 (2012-08-25 01:17) 

ぐちぐち

ただいまー。
〆の一杯にアニスとは! おそらくうんと濃くして飲まれることでしょう。日本の風土にはそちらのほうがあうのかも。
by ぐちぐち (2012-08-25 01:31) 

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