立ち呑み日記・小松菜 [主菜]

「コマツナ」
と、いつも行くマルシェに最近出店始めた農家直営屋台をのぞきこんだら葉モノを指さして言うので、ヘーエとなりました。

「小松菜?」
と、おうむ返しに、とはいえフランス語風に唇を大きく動かして一文字ずつハッキリ発音するのではない純然たる日本語の、わが生まれ育った東京近郊風アクセントで聞いてみれば、
「ウィ、コマツナ」

小松菜なんて久しぶり。だいいちパリの街角で出合うなど、四半世紀住んでますが初めてです。

小松菜、関東一円の方なら昔ッからおなじみですよネ。お正月のお雑煮にも必要不可欠です。東京江戸川区小松川で栽培が始まったところから、小松菜。

ただ、あまりに身近過ぎて、その存在やありがたみをつい軽んじちゃうキライがあるんですよねえ・・

「ほうれん草のおひたし」と「小松菜のおひたし」、
とこう並べるとわかりますが、ほうれん草のほうがより国民的存在感がある(ような気がする)。

クックパッドをひもとくと、ほうれん草のおひたしは2000レシピ、小松菜のほうはその半分の1000レシピ、やはり水をあけられています。

ほうれん草のほうが鉄分多いですしね。でもカルシウムは小松菜のほうが多いです。

「小松菜をせっせと食べましょう」
日本の妊娠出産本にも書かれてました。

(そういや小松菜食べたいナ)
と、ワタシも妊娠中、日本から取り寄せたところを読みながら、おひたしやお雑煮のおつゆにチラリと思いを馳せました。

「チラリと」というのがミソで、あまりにも昔からの馴染みなのでチト軽視し、強くは求めなかった。

食べると美味しいんですヨ。小松菜にはほうれん草の土っぽさとは違う、青っぽい風味があります。

何十年来パリに住んでいる知り合いの高齢日本婦人が開腹手術を東京で受けるため一時帰国して入院した折、病院食が万事和風だったのが
「めずらしかったワァ」
と、パリに戻ってからも興奮さめやらずだったことを思い出しました。

入院初日のすぐの食事におひたしが、それもパリの自宅で茹でるほうれん草と見た目は同じながら風味も食感も違い、でも明らかに遠い昔になじんだ記憶のある青菜というので、
「これ何かしら、おいしゅうございますわね」
と、隣りのベッドで身を起こしている、自分と同年輩のご婦人にウキウキ話しかけた。

「小松菜がそんなにおめずらしいんですの?」
と、お隣りからぎょっとした声が返って来たそうな。

かように、海外生活の中で小松菜は普段忘れ去られているんですね。

しかし今日は、小松菜がその存在を示威してきたんです。これはぜひとも手に入れなければ。

日本で見かけるのとやや異なり、葉が深緑色でぶ厚いのはイル・ド・フランスの土のせいなのか、はたまた小松菜をよく知らぬ農家の方の育て過ぎか。

「カラシナと混ぜます?」
と、聞かれたのにもびっくりしました。

日本でからし菜と小松菜の混合料理などそうないと思うんですが、パリではいずれ馴染み薄ということで抱き合わせで売ることにしたそうです。

デワデワ懐かしい小松菜。

ナムルにしましたらもう、もう、とおってもヨロシく、あっという間になくなりました。


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はっ。またしても写真とり忘れた。大急ぎで窓からパチリ。奥の光はノートルダム寺院です。

前菜は、アボカド・レモンで
主菜は、輪切りにんじんのたっぷり入った牛肉の赤ワイン煮、千切りじゃがいものお焼き、マーシュサラダ


立ち呑み日記・取っ手と信頼 [困った!]

ガラガラドッシャーンッ、と、そりゃァもう耳をつんざく惨事でしたヨ。

今出来上がったばかりで湯気モウモウの仔牛肉とジロール(香り茸)とじゃがいものクリームソテーをフライパンごとテーブルへ運ぼうとした矢先、あろうことか取り外しできる取っ手がゆるんで床いちめんにびっちゃりいっちゃった。

ショックとはこのこと、しかも今宵はムスメのお誕生日の晩餐、ムスメのリクエストで仔牛肉とジロール(香り茸)というご馳走だったんです(号泣)。

一家全員の晩ごはんをみすみす消滅させていいわけもなく、床の上であッつあつの湯気たてているところから肉と茸とじゃがいもをおたまですくいだして水道でジャージャー洗い、フライパンにもどして改めてクリームで味つけし直しました。

にっくきは、取っ手。

予兆はでもずいぶん前からあったんですよねえ・・

パチンと嵌(は)めても、以前と比べて明らかにガタついている。

うちの鍋とフライパンはいつ買ったんだったか、10年前ではきかないのは確かです。21世紀になるずっと以前のことで、取っ手はとっくの昔に寿命を迎えていたんですね。

それをだましだまし使っていたほうが悪かった。なにしろ鍋とフライパン本体も、テフロン加工が完全に剥げ切るまでになっています。

今回はこのままやり過ごすわけにもいかず、新しい取っ手をデパートへ買いに行くこととあいなりました。たかが取っ手、ひとつ16ユーロ(約2000円)もします。

テファール社コーナーを見回すと、実に気軽な感じに取っ手がぶらさがってました。10年間保証! という自信に満ちた惹句。

10年の長きにわたって壊れないとはすごいなあ、
とは思いますけど、10年なんてアッという間にたッちゃうもンです。だからこそわが身に巻き起こった「惨事」。

しばし考えた末、取っ手3つをかごにとります。うちは火が4口ありますしね。

で、家に帰り、すぐさま晩ごはんのしたくを始めたわけですが、ああいう「惨事」ってちょっとしたトラウマになりますナ。

全幅なる信頼というものを、もはや持てなくなる。

たっぷりの塩湯がぐらぐらしている鍋へヘタをとったいんげんふたつかみばかり放ち、さっとゆがいたところでシンクの金笊(ざる)にこぼすわけですが、このとき
(またしても取っ手がはずれちゃう、かも、しれない)
と、疑心暗鬼に陥(おちい)っちゃう。

幼少期の心の傷がもとで他人の存在を認められないなどから信頼する心を取り戻すための心理的療法として、後ろに倒れ込んだところを背後から誰かにしっかり抱きとめてもらう、という方法があると聞いたことがありますが。信頼感無しに後頭部から背後へ倒れ込むなどできるものではないですからね。

ワタシも、その療法を受けたほうがいいのか。

「てゆーかふつうの取っ手固定式鍋フライパン使えばいいんじゃないの?」
というお声がみなさまの中から聞こえて来たようですが、今の取っ手可動式鍋フライパンに換える以前、両手なべを持った途端にあろうことか片側が壊れ、やはりあッつあつをぶちまけているんです。

いずれにしても取っ手への信頼モンダイは深刻でございまする。


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はっ。今日写真撮り忘れちゃったと窓辺の植木鉢を大急ぎでパチリ。晩ごはんにお招きしたオットの古い友人ご夫妻からいただきました。

前菜は、アボカド、レモンで
主菜は、仔牛肉(芯の柔らかい部分)とブロッコリー・カリフラワーのクリームソテー、じゃがいもピューレ、グリーンサラダ


立ち呑み日記・ジム通い [女子]

スポーツジムに登録してマシンを使ったフィットネスを
「やってみたい、やってみたい、やってみたい」
と、14歳のムスメ。

なかよし女子三人組でジム通いするつもりだから、ついては健康診断書が必要だからかりつけのお医者さんを
「一刻も早く予約して」
と、やたらエバって命令してきます。

ちょっと待ったーッ、
と、はやるムスメを戒(いまし)めましたね。

「スポーツジムはタダではありませんよ」

第一どこにあるのか、こういうことに疎いオカーサン(ワタシです)には見当もつきません。パリの高級住宅地16区には「KEN CLUB」という有名な高級スポーツクラブがありますが。

「KEN CLUB」では各界の有名人が社交に華を咲かせつつ体力増進に励んでいるそうです。

「としよりの有名人なんか興味なし」
と、にべもないムスメ。「ユーチューバーなら会ってもいいけど」

ムスメがインターネットで見つけたという全国展開のジムはうちから地下鉄でふた駅なので、
「地下鉄の定期券も買って」

ならその玄関先まで走って行って即座に往復したらジム代わり、地下鉄定期券だって必要無いじゃないの。

「マシンでの筋肉づくりがカッコいいのッ」
と、ムスメは食い下がります。

気持ちはまあ、わからないでもないです。

アメリカ製テレビドラマなどではよくスポーツクラブが舞台になり、スレンダー美女がマシンでそれはもうカッコよくやってますからね。

だからといって14歳の子どもにジム通いなど必要でしょうか。

名案が浮かびました。大きな公園には、フィットネスの機械と同じような遊具があるんです。そこまで走って行って遊具で十二分に身体を動かし、再びジョギングで帰って来る。

どうです、週3回もやったら相当な筋力増進、しかも無料です。

「そんなのモチベーションが上がりやしない」
と、反抗期のトゲトゲした声をあげるムスメ。
「月たった15ユーロ(約1800円)なんだしいいじゃないよ」

たった15ユーロ(約1800円)、ですとッ。年間にすればふくれあがり、なにより物価高の折、15ユーロぽっきりで済むはずなどないです。

ホラ、携帯電話だって、スマホ1台なんとたったの何百円円! なんて謳(うた)っている契約にはたいてい何年にもわたるシバリがあるものです。

ムスメが示したホームページをよく読んでみると案の定、まず当然ながら入会費が要る。その上で、12か月分一括払いかつ平日午前中および午後14時から17時までの時間帯のみ使用というなら、確かに15ユーロです。

ただし
と、ここに小さい字で注。

不動産賃料高騰により、パリ市内の支店の場合5ユーロ(約800円)増しになります。

学校が退けてから行ける時間帯だと、12か月一括払いで月額25ユーロの300ユーロ(約5万円)、月々支払いでは27ユーロかける12か月で計324ユーロ。

他社と比較してみたらでもここが一番安いようでした。

とはいえ、わがムスメのこと、当初はめずらしがっても飽きて早々に足が遠のくのは自明の理、2か月もつかもあやしい。

三人組のオカーサンがたも我が子をそうふんだようでお財布が開かれる気配はなく、このハナシは沙汰やみとなりました。


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19時、晩ごはん用のパンを買いに出てパチリ。すっかり冬の空気のニオイになりました。

前菜は、鶏出汁野菜ポタージュ
主菜は、骨をはずした鶏ローストとじゃがいもロースト(以上前夜の残り)に刻み玉ねぎをたっぷり入れた赤ワイン煮、いんげん塩茹で



立ち呑み日記・イチゴ盗っ人 [困った!]

「美術でひッどい点数もらっちゃった」
と、学校から泣きの涙で帰って来た14歳のムスメ。

どれどれと見てみると、
(ありゃマそりゃそうでしょうねえ・・)
と、心底納得できるまでの幼稚園児の絵です。

とんがり帽子の魔法使いが杖を振り上げ、その前に置かれている指輪から光線が十文字に長く伸びている・・
トまあそんな感じの代物が描かれています。

低評価は絵の巧拙というより、
「授業で学習した絵画の技法があいまい」
で、
「絵の中における関連性と物語性が的確に表現されていない」
から、だそう。

テーマにちゃんとのっとってもう一枚家で仕上げて来たあかつきには採点し直す、
と、先生は請け負ってくださったそうな。

「でも何描けばいいかわかんないし」
と、ムスメは絶望的に泣きぬれます。

困ったわねえ・・と、ムスメに尋ねたところによると、絵画の技法というのはドラクロワの「民衆を導く自由の女神」を見ながら学んだそうです。

ホラ、乳房も露わに片手のフランス国旗を掲げた女神が死屍累々を踏み越え民衆を率いていくあの有名な作品。

中央の女神にまず目が行くと、その両脇から後方へ続く民衆へと視線は自然に移り、再び女神から上方に掲げられている国旗へと視線がまわる・・というような「流れ」が、絵の中にできている。「流れ」は、遠近法や陰影、関連物が一線上に並んでいる、などから出来上がるもののようです。

関連性と物語性は、ラトゥール「いかさま師」で。

ホラ、卓を囲んでトランプの真っ最中で、よこしまなマダムの視線の先には背中に札を隠し持った若者・・というように、ひと目で状況の物語性がわかる名作。

以上をふまえ、見る者の視線を動かしつつ関連性と物語性に富んだ絵といったら、どんななんだか・・

・・と頭悩ます間もなく、オカーサン(ワタシです)はぱっと思いつきましたね。

「パリの舗道でキスしているカップルの女性のほうが片目開けて通りがかりの容姿のいい男へ目移りのウインクしてる、ってのはどうかしら」

「そういう不道徳なのは学校に提出できない」
と、泣いていたはずのムスメは冷静沈着な声を出しました。

「なぜそんなシーンを思いついたんだい?」
と、騒ぎを聞きつけてやって来たフランス人のオトーサン(ワタシのオットです)もいつになく深刻な顔で詰問してきます。

ンなこと、思いついちゃったものは仕方ないじゃないの。

それにパリの街並みを描くのは複雑というので、もう少し知恵を絞ることにしました。ムスメはおやつをもぐもぐしながら、日常のありふれた光景から考えているもよう。

けっきょく、自分らきょうだいの小競り合いをヒントに、二人の子どもがおやつのケーキをぱくついている食卓で、一人が「あっ」と中空を指さしたのにもう一人が気をとられた隙にケーキの上のイチゴをかすめとる、という構図に決めたようでした。

モデルをたのまれたオカーサンは、「あっ」と上方を指さしもう片手のフォークを横の皿に伸ばしたなりで静止、次いで「へ?」とオマヌケな口半開きでフォークにぎったままつられて上方に目をやったなりで静止、の、一人二役をやらされました。


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秋休みに南仏の親戚の家に行ったときになにの看板??!! と、驚いたんですが、かつてのような自然を取り戻すため、東欧から熊を持って来て野生に放したんだそうです。出会いたくないナ。

前菜は、鶏出汁野菜ポタージュ
主菜は、あんこうのホッペタの唐揚げ、さいの目のにんじんと根セロリ入りソース味炊き込みご飯、いんげん塩茹で



立ち呑み日記・目玉焼き [ランチ]

「オカーサン、パンちょうだい、パン」
と、早お昼の食卓で身を乗り出さんばかりの、14歳のムスメ。

ムスメの皿には、黄身だけになった目玉焼きがあります。

白身をブロックくずしのように食べ進み、ほぼ生のままぷっくりした黄身をくずさないよう細心の注意を払ってさらに黄身下までナイフをそっとさしこみ丹念にこそいで食べた後の、黄色い盛り上がり。

目玉焼きに目がないムスメは毎度こうやって大好物のクライマックスを迎えるんです。ぷっくら黄身の上層にさっとナイフをいれ、黄色いドロリンをまず皿にこぼす。

いちどなど、(さあいよいよ)という間隙(かんげき)をついてオトウトがちょっかいだし、ぷっつくらへ横からナイフをすべらせたのでさあ大変、誇張でなく刃傷沙汰になりそうな激しさできょうだいげんかとなりました。

12歳のムスコは目玉焼きを平凡に、白身と黄身適宜に食べすすみます。

さてムスメは黄色いドロリンが皿に広がったところで、表面に黄身が少々残ったなりの白身の「台」をまず賞味するんですね。

下面が油でカリカリに焼けた、もっともおいしい個所。

しかるのちにいよいよ、さきほど身を乗り出して所望したパンを千切っては黄色いソースを、皿がぴかぴかになるまでぬぐっていきます。そのシヤワセそうなことといったら。

パンは、バゲットです。

卵料理の中で目玉焼きに限って、食べ方をああだこうだすると思いません?

ホラ、映画『家族ゲーム』で、伊丹十三演じる父親の日々のたのしみという、目玉焼きの半熟の黄身にじかに口つけてチューチュー吸うシーンがありました。

「目玉焼きの正しい食べ方」というエッセイが、後に映画監督になっていくこの大俳優の著作『女たちよ!』のなかに収められているもよう。

「アメリカでは目玉焼きの黄身を一種のソースととらえ白身とまずぐちゃぐちゃに混ぜてから食べる」
という文章を、出展は失念しましたが読んだことあるんですが、(まさかァ)と、その時は気にも留めませんでしたね。

ところが後にアメリカ旅行し、朝ごはんにホテル近くのショッピングモールにあるファミリーレストランに入って瞠目しました。

アメリカ人の親子連れが目玉焼き付きブレックファストセットをとり、半熟を選んだ父と小学生くらいの息子が当然のごとく半熟目玉焼きをぐちゃぐちゃにしていた。

ビビンバを丹念にまぜまぜする韓国もまた目玉焼きのこの食べ方が採用されていてしかるべきのような気もします。

糸井重里「ほぼ日刊イトイ新聞」の南伸坊との対談でも目玉焼きの食べ方に言及していましたが、
「白身を黄身に浸して食べる」
というのを奨励なさってました。

目玉焼きひとつにもお国柄って出るもンですネ。

目玉焼きに何かける? っテのも永遠の話題です。

先の南伸坊さまは、
「しょうゆ、ないしはソース」

ワタシは、子どものころは食パントーストを合いの手に塩で食べるのが大・大・大好きでした。それにハムエッグ(こちらは塩かけず)、好きだったナァ・・

今、バゲットを合いの手にしてますと、バゲット自体に塩があるせいか、目玉焼きはプレーンが一番ヨロシイようです。


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小春日和の週末です。セーヌ河岸のこのあたりは夏前まで車専用道でしたが感じのいい散歩道になりました。

前菜は、鶏出汁スープ(昨日のプロポという雌鶏一羽入りポトフ風の残りです)
主菜は、プロポの残り肉(雌鶏の出汁の出来った肉)と同じく煮たじゃがいものトマトソースがけチーズ焼き、いんげん塩茹で



立ち呑み日記・一風堂 [ランチ]

アー美味しかったナー・・
と、何度も思い返すまいことか。

今年の春にラーメン「一風堂」がパリにもついに上陸し、店頭にのびる行列へ長らく横目をつかっていたんですが、このたび時分どきやや過ぎてふと通りがかった折に、ついに入店かなったんです。

(一風堂って「すみれSeptember Love」?)
と、ワタシなどすぐさま連想しちゃいますが、土屋昌巳とは無関係だそう。博多のラーメン屋さんで、ロンドンやニューヨークで大評判、とは、かねてより聞き及んでおりました。

胸ときめかせて店内にすべりこむと予想に違わず、「日本食慣れ」雰囲気濃厚の地元民で満席です。

ワタシが語学留学生だった1980年代後半、東京銀行の真ん前に暖簾をあげる「よっちゃん」というラーメン屋が評判でしたが、客の大半は日本人で、たまさかに見かけるフランス人はといえばどんぶりに向かうやフォークとナイフを取り上げ、ちゃっ、ちゃっ、と、麺を食べやすいよう切っていたものでした・・

・・それも今は昔、東銀も「よっちゃん」も消滅し、ことに今年はテロのあおりで日本人観光客は激減(去年の半分以下だそう)、代わってジャパンフェスティバルが年追うごとに隆盛し、日本通フランス人は日本人以上に日本文化を体得するまでになっています。

現に、ワタシの背後から続いて入って来た女性二人組など、テーブルに案内されコートを脱ぐ間も惜しんで立ったまま、
「シロマル、タマゴ、メン・カタ、アン・カエダマ」
と、流れるがごとく注文しているのでたまげました。

白丸は一風堂の正調とんこつラーメンで、タマゴのトッピングに麺固めの替え玉1(アン)、ト。

どうです、日本人ながらいまひとつラーメン慣れしてないオバサン(ワタシです)にここまでよどみなく注文できるでしょうか。

メニューを吟味に吟味を重ね、
「鶏醤油おねがいします、(麺のかたさは?)エートエート、ふつうで」
(店長らしき日本人男性が注文を取りに来てくださいました)

東京のベッドタウンで育ったワタシはラーメンといったらまず醤油味。ただ、あとで知ったところによると、一風堂はとんこつラーメンが真骨頂で、「鶏醤油」はパリ店独自のメニューなのだそうな。

宗教上豚肉を禁忌とするパリっ子は少なくないですからね。同様に、菜食主義者のことも考慮した野菜ときのこ出汁の麺もメニューにあるようでした。

待つこと数分、ついにワタシの前へ湯気モウモウのどんぶりがやって来ました!

スープをひと口フーフーしながらのむと、やさしくすっきりした醤油風味。

ラーメンの麺のかたさを選ぶとはこれまで考えたこともなかったですが、ツウはかためを選ぶものなんでしょうかネ、周囲の誰もが「カタ」と打てば響くように指定しています。

「カタ」と言ってみればよかったかナ、でもスープをはじくまでのかたさだったら困るナ・・

・・と、思いめぐらせながらズルズルやっているとたちまちに底が見えてきました。

焼き餃子もまた注文したんですが、オチョボ口のひと口サイズが6個で6ユーロ、美味しかったですが1個1ユーロ(約125円)はチト高く感じました。


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地下鉄から上りながらパチリ。

前菜は、野菜ポタージュ
主菜は、鶏ローストとじゃがいもローストの残りの赤ワイン炊き、いんげん塩茹で、グリーンサラダ



立ち呑み日記・映画マラソン [ワルガキ]

お昼、映画館の出口前で14歳のムスメを待っていると、魔法学校の生徒風に身を包んだ少年少女が、一人また一人と黒いローブひるがえして弾丸のごとく飛び出して来ます。

その感じはもう映画館でなく本物の魔法学校。

急いでいるのは、ほんの1時間の昼休みにファストフードの行列を避けるためでありましょう。

「飲食物持ち込み厳禁で、入り口の荷物検査で没収されるンだってよ」
と、ムスメも梅干しオニギリのお弁当をあきらめたぐらいです。

中で買わせようというわけね、と、鼻白みましたが、このテの映画祭では盛り上がりが過ぎての飲食物投げ合いから椅子じゅうたんが使用不能に陥るのを懸念してではないでしょうか。

ただ今、グラン・レックスという大型映画館で映画「ハリー・ポッター」全8作を2日がかりで上映する「ハリー・ポッター・マラソン」2日目で、第5作『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』まで来たところです。

午前11時上映開始、途中昼夕1時間の食事休憩があり23時半まで、という2日間。

11時に着いても3階席のはずれしか残ってない、という情報を仕入れたムスメを半信半疑で早朝の7時(!)に映画館へおくりとどけてみれば、なんとまあ魔法使いたちの行列がすでに長く伸びていました。

8月後半に宣伝告知が出て、チケット売り出しの二日目にして完売だったそうな。

そのころは夏休みの一時帰省で日本だったのでハリー・ポッター大好きなムスメは完全に出遅れ、身をよじってくやしがりながらインターネットを駆使してチケット転売者を探していたようでした。

「詐欺にひっかかったらどうしますッ」
と、心配しましたが、幸い身元確かな譲渡主を見つけ、級友に立ち会ってもらい正価で交換してきました。

「ハリー・ポッター・マラソン」は、ふつうの映画鑑賞ではなく、画面のシーンに声を張り上げたり、ともに歌ったりして楽しみます。

「こんなに観客が騒ぐ映画鑑賞ってはじめて」
とは初日終えたムスメの感想で、かくいう当人の声もガラガラです。

悪役登場には場内ゆるがすブーイング。ラブラブシーンではひやかしの盛んなピーピー。

浅草の映画館だったか、クレイジーキャッツや若大将のシリーズのオールナイト上映で、画面とともに歌ったり踊ったりするイベントが開かれていたものでしたが。

パリでは、「ロッキー・ホラー・ショー」という映画が毎週末に同様の盛り上で知られ、今年で30周年だそうです。

こういう映画のたのしみ方もいいですよネ。

観衆の大半はハリー・ポッターとともに成長した二十代前半で、14歳のムスメは下っ端の部類、とはいえ親に連れられた小学生もいたようです。

で、なぜその昼休みにオカーサン(ワタシです)が来たかといいますと、ムスメの片目のコンタクト(使い捨て)が上映直前に
「痛くてはずしたら失くしちゃった、一生のお願い持って来て」
と、懇願されたから。

代えを持って行かないほうが悪いでしょッ、
と、電話口でオコったものの、マ、仕方ない・・

・・と、待つうちに、ホグワーツ魔法学校スリザリン寮生の(扮装した)ムスメが他の生徒に混じって出て来ました。


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晴れてうれしいなあ・・と、パチリ。でもここのところすぐ曇って雨が降ります。

前菜は、トマトサラダ
主菜は、牛(フォーフィレ)ステーキ、いんげん塩茹で、残り肉とともにじゃがいものニンニン風味赤ワイン煮、グリーンサラダ




立ち呑み日記・輸入菓子 [おやつ]

「オカーサン、あれ、食べてみたかったんだ!」
と、アメリカ直輸入食料品店の前を通りがかったら、今あたかも店から出て来た青年の手元をこっそり指さす、14歳のムスメ。

青年は、その生真面目そうな風貌とはやや相容れない感じの子供向けイラストつき箱菓子をひとつ、つかんでいます。

フランスでは最近、お店で買ったものを提げるビニール袋をくれなくなりましたからね。

アメリカのスーパーならどこにでもあるようなどおってことない箱菓子ですが、フランスには入って来ていない商品です。

青年はなんでまたこれと狙って専門店までわざわざ買いに来たんだか。おやつの箱菓子なら近場のスーパーでいくらだって気軽に買えるのに。アメリカ直輸入となれば普及品の箱菓子とて値段がつり上がってしまうのは自明・・

・・と他人の買い物に首つっこむ間もなく、ムスメが店内へずんかずんか入って行ったので慌てて続きます。

ムスメはこういう外国のお菓子の存在をYoutubeで知ったらしいんですね。Youyubeには、見慣れないお菓子を食べてみて感想を言うシロウト動画のカテゴリーがあるんですヨ。

そのなかで、この箱菓子がひときわおいしそうだったそう。「Poptartsポップターツ」という名称で、フランス語読みなら「ポップタルト」。

タルトというぐらいでクッキーみたいな四角い土台にいかにも甘そうな白いクリームがべっとり塗られた写真が箱にあります。白いクリームには、これまたいかにもアメリカ風極彩色のチョコチップがパラパラパラッ。

これ、アメリカでは一般的な朝食で、給食にもひんぱんに出るのだそうな。

おねがい買っておねがい・・
と、ムスメに揉み手擦り手でかきくどかれ、仕方ない、お財布を開きました。輸入品だけあって8ユーロ(約1000円)もして、レジで少なからずの後悔がつきまといました。

さて、ムスメもまた箱むきだしで抱え、家路を急ぎます。

家に着くなり箱はいったんオカーサン(ワタシです)の手に渡り、エート・・と、目からうんと離して「食べ方」を読もうとこれつとめます。

なにしろ全面的にふだん慣れない英語。

やっとこさ2行ばかり読み進んだあたりで、待ちきれなくなったムスメがiPADをタッタカターと叩き、
「トースト、ないしは皿にとり電子レンジで3秒加熱、だってサ」

箱はずっしり持ち重みがして、中に小分け袋が四つ。そのひとつを開けるとクリームごってりの大判クラッカーみたいなのが二枚入ってました。

正直なところを申しますと、香料もあれで口に合わなそうな気配濃厚・・

とはいえそんなことはつゆとも口に出さず、電子レンジでチン。

♪イングリッシュマン・イン・ニューヨーク・・
と、英語の授業で習いたてを口ずさみながら、11歳のムスコも興味津々手を伸ばします。

・・・・・
と、モグモグしながら、いつもうるさい二匹がともにウンともスンとも言いませんでした。

(こりゃ残りはお菓子戸棚のこやしになるナ)
と、すぐさま判断がつきましたね。

ワタシとて残りを片付けるのはできれば遠慮したい。

でもなにしろ輸入菓子、高くついてますからねえ・・


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輸入菓子を買った帰り道にパチリ。まもなく日が暮れます。

前菜は、ニンジン千切りサラダ
主菜は、牛挽き肉ステーキ、じゃがいものニンニクソテー、いんげん塩茹で、グリーンサラダ


立ち呑み日記・月のうさぎ [食前酒]

ウサギをロゼワインで煮込みながら、つらつら考えた。「月のうさぎ」という合唱曲、あったナ。

合唱組曲「月と良寛」の中の一曲で、ワタシの中学高校生時代、学内コーラスコンクールというと、毎年どこかしらのクラスが歌っていたものです。

今調べてみたら、「さっちゃん」「犬のおまわりさん」「おなかのへるうた」などを作曲した大中恩(おおなかめぐみ)の1960年の作品で、昭和40~50年代によく歌われていたもよう。

歌詞は有名な仏教説話、同じ内容が今昔物語にも採集されているそうです。

むかしむかし・・
キツネとサルとウサギが、野山で楽しく暮らしておりました。

あるとき・・
お腹が空いて死にそうなおじいさんと山中で出会います。

キツネとサルとウサギは・・
おじいさんを助けるのに、それぞれ食べ物探しに出かけました。

キツネとサルは、持ち前の知恵と腕力でおじいさんを喜ばせるような食べ物をたんと提げて戻って来ます。

けれどもウサギは・・
身体も小さく力もなく、何も収穫できずしょんぼり戻って来ると焚火の前のおじいさんへ無力を詫び、せめて自分を食べてくれ、焚火に飛び込みます。

おじいさんは神様の姿にかえり・・
うさぎの優しい心を慈み、むくろとなったウサギを胸に抱き、月の世界へと旅立って行きました・・

自己犠牲を美化するとは封建的でヤなこった、
と、反抗期のワタシは歌を口ずさみながらも冷ややかに思ったものでした。

が、大人になり台所で香気あふれかえるウサギの鍋をかきまわしつつ口ずさんでみれば、この説話は必ずしも鹿爪らしい美徳のみを物語っているわけでないと気づかされるんですね。

裏メッセージが、ちゃあんとある。

すなわち、ウサギは
「食べられる(食べていい)」
と、お釈迦様のお墨付きをもらっている。

殺生というので肉食は日本では長らく禁忌でしたが、その実、村の生活ではたまさかに野ウサギをしめウサギ汁にしてきたわけです。

ホラ、上野の西郷さん、あれは愛犬連れてウサギ狩りに繰り出す姿だそうですゾ。西郷どんはペット用としてウサギ狩りしたわけでは断じてありますまい。

明治の文明開化のころ、牛豚馬の肉は、エイヤっと垣根を飛び越えるほどの勇気と興味をもって、当時の日本人は口にしました。

飛び越える垣根なく、村の日常の目立たないところで食べ続けられてきたウサギ肉は、戦後の繁栄とともに忘れ去られてしまった。

あるいは安ソーセージ用のほんの混ぜ肉として、できればその存在を知らしめたくないような低地位までに落ちぶれてしまった。

美味しいのになあ・・

「あんなにかわいいのに」
と、言われちゃうと、やはりなかなかむずかしいです。

ヒヨコだってかわいいのに、こちらは食べるのと愛でるのと両立できたのはどういうマーケティングだったんだか。

日清チキンラーメンにはかわいいヒヨコの絵があしらわれ、博多の名物屋台には焼き鳥屋「ピヨちゃん」という老舗があったと聞き及んでいます。

そこいくと、ウサギ肉専門レストラン「ミッフィー」と言われた日には、やはり食べづらいことこの上ないです。


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秋晴れの午後、歯医者の帰りの通りがかりにパチリ。カルーゼル凱旋門といって、19世紀初頭にナポレオンをたたえて建立されました。前方はルーヴル美術館。風がありけっこうホコリっぽかったです。

前菜は、トマトサラダ
主菜は、ウサギの南仏野菜入りロゼワイン煮込み、白飯、グリーンサラダ


立ち呑み日記・ニンニクつぶし [困った!]

みなさんチの台所に、ニンニクつぶし器、あります?

うちはあります。二代目です。この二代目がしかし、すこぶるよろしくない。

二代目になってかれこれ十年以上にもなるんですが、使うたびに毎ッ度、(もうイヤッ)となるんですよねえ・・。ふゥんッ、と、全身全霊の力をこめなきゃならない。それはもう頭の血管がきれるかというほど。

初代は、万事よろしかったんです。

屋外マルシェの、台所用品専門屋台あたりで適当に買ったもので、アルミの簡素な格安普及品。ずっしり持ち重みする高級品と対極のペナペナですが、ニンニク入れてぎゅっとにぎれば瞬時につぶれました。

穴には詰まりましたけどネ。でも指でチャッチャカチャーとこそげばすむことです。

そうやって常用していましたが、別れは突然やって来ました。ワタシの濫用、自業自得です。固い、銀杏みたいなヘーゼルナッツをいい気になって割ったんですね。

アルミのペナペナだとは百も承知なものの、ふたつ、みっつ割ったらあんばいよかったので、よっつ、いつつといった。

「これはにんにく専用で木の実割り器ではないでしょ?」
と、傍のオットに注意されたものの、
「なんのこれしき」
と、ガサツを通していたら、あらら。

むっつ、ななつめで、ペナペナの底が抜けちゃった。

予想出来ていた結末です。仕方ない、いい機会だから上等のに買い直そう、と、地下鉄でデパートに赴きました。

友人の食卓で、実に素敵なのを見たんです。

その日は、主菜のつけ合わせにスパゲッティーが出たんですが、パスタは塩茹でのまままで味つけはなし。おろしチーズのボウル、塩胡椒、それに小皿のニンニクとニンニクつぶし器がまわり、各自お皿で好きに味つけする趣向でした。

フランス人ってパスタのこの食べ方、けっこう好むんですヨ、こういうところにもやはり個人主義がにじみ出るンんでしょうかネ。

このときのニンニクつぶし器には瞠目でした。

ニンニクは潰(つぶ)れるのではなく穴からトコロテンよろしく細長く出て来る。飛び散ることも、指でこそげる必要もなく、卓上使いにうってつけ。イタリア製とのことでした。

ワタシは、これと同じものが欲しかったんです。ところが、デパートをはしごしたっていうのに、ついに見つかりませんでした。

仕方なく、持ち重みだけは似通っていた別のを手に取りました。逆Tの字の押す部分が可動で、よりうまくつぶれるに違いないとふんだんですね。しかるべき値段もしました。

が、この可動式があだとなり、むしろ力がうまくこめられない。

もうイヤーッ、と、毎度絶叫しながら(心の中で)ニンニクつぶさないとならない人生って、どうよ。

「ならなんで買い直さないの?」
と、みなさま不思議にお思いでありましょう。

当人のワタシとて同じです。が、いまだ実現ならず。

なぜというに、ニンニクをつぶすのは料理中のほんの一瞬、つぶし終わるとニンニクつぶし器のことなどすっかり忘れちゃう。

こういう道具はちゃんと壊れてくれないと買い直すのはむずかしいです。


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買い物の途中、小公園でちょっとひと息。

前菜は、りんごとはちみつ、トマトサラダ
主菜は、鶏ロースト、じゃがいもロースト、いんげん塩茹で、グリーンサラダ
今宵はユダヤ教の新年、リンゴとはちみつで、とろーりとけてる甘(うま)き一年になるよう祝います。ユダヤ暦5777年だそうです。


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