立ち呑み日記・「富士屋本店」 [食前酒]

「富士屋本店」で、学生時代の仲間たちの集まりの0次会をすることになりました。

肝煎(きもいり)は1年後輩のサオリちゃん。万事手際が良くお酒ののみっぷりもいいサオリちゃんがお気に入りのオシャレな立ち呑み屋だそう。

「行きます行きまーす」
と、ワタシもふたつ返事で名乗り上げ、タキくん、キョウコちゃん、それに肝煎サオリちゃんが0次会から参加です。

肝煎サオリちゃんからの行き方の説明はこうです。

渋谷の西口バス乗り場から左斜め方向に歩道橋を渡り、Key 楽器を左に見て坂を桜丘方面に少し上ります。狭いカウンターのお寿司やさんを通り過ぎてすぐ左側、小さい看板のみが見えてお店は左ややマイナス方向にあります・・

「富士屋本店は大好きだけどすごくディープな店だよ」
と、しかし早々にタキくん、および0次会は欠席のカンダくんからもメールが届きました。
「女性向けではないかも」

富士屋本店といえばオヤジ天下で女性は身の置き所なく感じるかも、と、こう言うんです。なにより、コの字のカウンターがあるのみで立錐の余地ないなか身を斜めにして呑み食べするので、全員横並びになる。

身の置き所はあれとしても、「家族ゲーム」でもあるまいし四名横並びでは会話がはずみづらいですが、サオリちゃんお気に入りというし、なに、なんとかなりましょう。タキくんと駅前で待ち合わせると、勝手知ったる感じに連れて行ってくれました。

続いてキョウコちゃんが到着。

キョウコちゃんは道に迷い、通りがかりのサラリーマンに
「富士屋本・・」
と言いかけただけで、すぐさま地下のこの店を示してくれたそうな。

コの字カウンターはすでにいっぱいで、新たなお客さんが入って来るたびに、
「詰めてくださーい」
と、身を寄せて満員通勤電車状態です。

このなかで、アルミの灰皿を会計皿代わりに千円札なりを置いておき、飲み物やおつまみをたのむとすぐさまそこから精算されていきます。

われわれも、瓶ビールに枝豆、もろきゅう、ハムカツなどをとりました。ことにハムカツは懐かしい味で、とおってもよかっです・・

・・とここで肝煎サオリちゃんからメール。
「到着遅れてるんですか?」

イイエ、もう店でホッピーあけてるわよ、と、返信すると、サオリちゃんから
「エ? 富士屋本店はワインバーですよ」

電話でやりとりするうちに状況がわかって来ました。「富士屋本店」は渋谷のこの界隈に何軒もあったんです。

肝煎サオリちゃんが常連の「富士屋本店」はワインの立ち呑みで、サオリちゃんはホッピーのほうには通じていないようでした。

それでもおっとりがたなでここまで迎えに来てくれました。

「ワタシが送った行き方の説明をちゃんと読まないからです」
と、肝煎サオリちゃんのくさすこと。

「でも渋谷で富士屋本店といったらあの店だよふつう」
と、一歩も譲らないタキくん。

サオリちゃんおすすめの「富士屋本店」へ改めて向かうと、途中にショットバーの「富士屋本店」までもありました。

「富士屋本店」の関係者のみなみなさま、今後、できますれば番号でいいので区別していただけませんでしょうか。


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浅草花やしきに行きました。

前菜は、笹かまぼことトマトのサラダ、さつま揚げ、山葵漬け、
主菜は、樺太ししゃも、いんげん塩茹で、ポテトサラダ、揚げだし豆腐


立ち呑み日記・飲む順番 [食前酒]

晩ごはんにお客様があったのでシャンパンを開けました。

今宵は食通の親戚もまじえて大人だけで総勢6名。一本、安からず高からずの買い置きを冷やしておき、まず食通の親戚のお持たせを開けます。

食通の親戚はなにしろ食通ですから、シャンパンもそんじょそこらの代物ではないんですね。

シャンパンのシャトーと直接やり取りして注文販売でまとめ買いしたという、「ブラン・ド・ブラン」、
≪シャルドネ―種100パーセントにのみ許された称号です・・≫
とまあ雑誌のグラビア記事なんかのキャッチコピー風に言うと、そんな感じの上等品です。

これがおいしいこと、するするっとノドをすべり落ち、たちまちに一本開きました。そこでもう安からず高からずを冷蔵庫からとり出し、並んだ空のグラスに泡をかげんしつつ注いでいきます。

デワデワあらためて、カンパーイ・・

・・ン? と、テーブルを囲む一同の顔がそろってゆがみましたね。ワタシもまた、そうなりました。安からず高からずは上等品より明らかに味が劣った。

「こっちから先に開けてれば十分美味しかったと思うワ」
と、お客様のお一人から忌憚(きたん)なき感想。

ここが悩みどころなんですよねえ・・。みなさんならどうします?

並々ならぬ甘露と分かっている一本をまず開けてしょっぱなにガツンと印象づけ、堪能するか(すると二本目でズッコける)。

はたまたしょっぱなは助走と心得え、第二弾にいよいよ大物をとり出すか。

味のグラデーションからいうと確かに後者をとるべき、とは、思うんですが、実際問題として第二弾を開けるころには会話が盛り上がり始め、手元の飲み物よりはむしろ話題の方にひきこまれていて、しょっぱなほどひと口に注意を払らなくなっているんですね。

そすると大スターは第一弾ということに、どうしてもなる。お持たせでもありますしね。

ワインは薄い風味から濃い風味のものに続くよう抜栓するべきである、とは、よく聞きますが。じっさい、何種類ものワインをそうやって次々に開けて行ったこともあります。

が、確かに次々とおいしくはなっていくんですが、ボルドーあたりの一番上等にさしかかるころには相当にまわりはじめ、味がいまひとつわからなくなってくるんですよねえ・・

「そこまで呑まなきゃいいんじゃないの?」
と、言われたらグウの音も出ませんけど、ホラ、グラスに一杯ずつつがれちゃう都合上しかたないんです。

「最初からグラス半分にしとけばいいんじゃないの?」
と言われたら、そりゃマ、返す言葉はありませぬ。

安からず高からずのシャンパンは上等のそれの余韻を口の中に残してのむと、欠点ばかりが目立ちました。ほんの一瞬甘ったるく、アルコール分がきわだってノドをすべった瞬間ややクラッとする。

食通の持参なる上等品はといえばノドをするする通りながら悪酔いとは金輪際無縁ですッ、テナ感じのキレのよさ。

同等価値のシャンパンを見つくろえばいいのでしょうけど、食通の親戚はなにしろ筋金入りの食通、これに対抗するのは舌もお財布もなまなかなことでは無理というものです。


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♪マッハゴーゴーゴォ~・・という歌が思い浮かびましたが、流星号ってこんな車でしたっけ?

前菜は、アボカド、レモンで
主菜は、牛肉ステーキ、レンズ豆の煮込み、焼いたパプリカとブロッコリーのオリーブオイルがけ、グリーンサラダ

立ち呑み日記・血のマリー [食前酒]

「ブラディーマリーを、またしても」
と、海外出張の多い友人がフェイスブックに、空港のラウンジで一杯やっている写真を載せています。

「これ、普段は飲みたいと思わないのに飛行機となるとどうしてなんだか」
と、友人。

ウン、ブラディーマリーって実は僕もそう、あら私もよ、と、その後に同意のコメントがずららっと連なっています。

ワタシもまた身を乗り出しましたね。

ワタシもまた、国際線の飛行機に身を落ち着け、ワゴンサービスが来ると決まって
「ウォッカと、それからトマトジュース、くださーい」

フランス人はトマトジュースにセロリ塩というセロリの香りのついた塩を入れるのを好むのでエールフランスならその小袋が要るか訊かれ、日本の航空会社では氷と輪切りレモンをどうするか訊かれます。

いずれも、つけてもらうこともあれば、そうでないことも、ある。ウォッカが濃からず薄からずのトマトジュース割りを自分で配合して、デワデワひと口・・

・・クイッとひと口喉を通るときは普通にトマトジュースながらあと口に明らかなるアルコール分が感じられ、かといってシャンパンのようには一気にフワッとは酔いません。

酔うどころかむしろ覚醒していくぐらい。それでいて目の下あたりからすとんといい気持ちになってきて、このあと配られるお食事が終わったらグッスリ眠れそうな感じ。

そんなにヨロシイ食前酒ならなぜ家庭でもやらないのかと思うんですが、これがまるっきり食指が伸びないんですヨ。なぜ、ひとは飛行機に乗るときに限ってブラディーマリーを飲むのか。

決めつけじゃないの? と、疑ってかかる方もおられると思いますが、とォんでもない。

『ほろ酔い文学事典』(重金敦之著・朝日新書)によると村上春樹もまた飛行機に乗るときまってブラディーマリーをたのみ、かといって好きかというとそうでもなく飛行機以外ではまずたのまないそうです。

どうです、大作家のお墨付きですゾ。

大作家いわく、せっかくの海外旅行なのだからありきたりでなく
「祝祭的なものが必要とされるはずだ」(『空の上のブラディ・メアリ』)

そうかしら、と、はばかりながら大作家に口を挟(はさ)ませていただきます。

祝祭的な飲み物というよりむしろ、覚醒しつつ心地よくなる酔い心地が、つねにやや緊張をともなって長時間乗ることとなる飛行機と相性がいいのでは、ト、かように推察するところであります。

祝祭つながりでいうと、若きヘミングウェイのパリでの日々を綴った小説『移動祝祭日』によると、滞在中はブラディーマリーを愛飲したそうです。

なぜというにウォッカのトマトジュース割りなら酒くさくならないから妻に飲酒がばれない。

ヘミングウェイが足しげく通った「ハリーズ・ニューヨーク・バー」というオペラ座界隈にある老舗バーこそがブラディーマリー発祥の地だそうです。

うちのワルガキらの日本語学校の近くでもあるし、立ち寄って飲んでみるかナ、とは、ブラディーマリーに限ってはどうッしてもならないんですよねえ・・

どうせなら、やはりこのバー発祥というサイドカーを、注文しちゃうと思います。


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小路を曲がったところでパチリ。

前菜は、トマトとゆで卵のサラダ
主菜は、白身魚のフライ、じゃがいもソテー、いんげん塩茹で、新にんにくを利かせたグリーンサラダ


立ち呑み日記・ロゼット詐欺 [食前酒]

サラミってどうしてこんなに美味しいんだか、
と、食前酒の合いの手に出した残りを冷蔵庫に片付けながら、つまみ食いに一枚口につっこむ。

前菜のトマトサラダを今から持って行くんですが、ボールのサラダを冷蔵庫から出すついでにもう一枚、またもう一枚と口にほうり込みつつ、さらにしみじみ考えましたね。

サラミってどうしてこんなに美味しいんだか。

今お卑(いや)し口につまんでいるのはロゼットという直径5センチくらいのサラミです。ロゼットはもともとリヨンの名産だったそうですが、今ではフランス各地でつくられているようです。

直径5センチの薄切りを舌に載せると燻(いぶ)しの芳香が鼻を抜け、口中で畳んで奥歯で噛みしめるや塩と脂のきいたうまみがジュワー・・

スーパーでも真空パックの薄切りが並んでますが、肉屋でスライスしてもらうほうが格段にヨロシイです。

そこで心急(せ)いていつもの肉屋へ行ったんですが、肉屋のご主人はただ今夫婦そろって一週間の春バカンス中。

老熟のピンチヒッターが包丁をふるっておられました。ご主人の知り合いで、引退した元肉屋さんです。

肉屋さんって包丁づかいがおのおの微妙に違うものですネ。肉の切り身の厚みがほんッの0.何ミリか異なるだけなんですが。

「ロゼットは普通の薄切りと超薄切りとどちらにします?」
と、老熟のピンチヒッターさんに、訊かれました。

肉屋のご主人がスライサーでやるときには厚さ(薄さ)の好みは客に訊ねません。また、こちらもご主人の厚さ(薄さ)に慣れちゃっている。

「普通の薄さで」
と、老熟の肉屋さんにおねがいしました。

すると、思いのほか厚みのあるのが来たんですね。

いつもと異なる厚み、これがヨロシかったんですヨ。同じロゼットではないみたい。が、今宵は晩ごはんにお客様をお招きした都合上、さしおいて一家の主婦がパカパカ片付けるわけにはいかない。

おいしい、おいしいを連発してお客様も食前酒のおともに食べてくださいましたが、多めに買った分がお皿に残ったわけです。

ところでみなさん、カルパス、って、ご存知ですか?

日本のどのコンビニでも見かける安くておいしいおつまみで、スーパーの駄菓子コーナーなどにもあるあれです。

豚肉ないしは牛肉で作られているのがサラミで鶏肉など他の肉も混ぜているのがカルパス、あるいはサラミより水分量が多くしっとりしているのがカルパス、など定義には諸説あるみたいです。

カルパスって、いつから言われるようになったんでしょうネ。

サラミをさすロシア語の「カルバサ」から来た和製外国語らしいんですが、いつ、誰によってカルパスとなったんだか。

サラミといえば、インターネット上の寸借詐欺を、大量の薄切りになぞらえて、サラミ詐欺、と、呼ぶんだそうです。

多くの人々のクレジットカードからほんのささやかな小銭を失敬する。盗られた側は端数のことで気がつかない。

言い得てるなあ・・と、薄くてカンタンに食べられるところであれよという間に空っぽになった皿をシンクに置き、神妙にワキバラをつまみました(いちおう反省はしました)。


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桜満開のピークが過ぎつつあります。写真手前の船のレリーフはパリ市の紋章。「たゆたえども沈まず」というのがスローガンです。

前菜は、トマトのサラダ、カレーサモサ
主菜は、シュークルート(ビーフソーセージ、キャベツの酢漬け)、ニンニクパセリ入りじゃがいものピューレ



立ち呑み日記・熱燗の肴 [食前酒]

鰊(にしん)の塩漬けで熱燗をのみながら、つらつら考えた。

お醤油やお味噌の手を借りないで日本酒の肴(さかな)になり得るフランスの食べ物って、ほかにあるかナ。

「ほかに」というのは、鰊の塩漬けがどうしてどうして、熱燗によく合うんですヨ。しょっぱくてあぶらが多くてなまぐさーいところを熱い清酒がきゅーっと洗い流していく。

お腹の真ん中からぽかぽかしてきます。

鰊の塩漬けは、フランスでは茹でたじゃがいもにのせて刻みパセリとクリームないしは油たらたらやって前菜にします。

それもまた白ワインに合ってヨロシイ。が、本日は日本から持ってきた日本酒パックが開いている。ここのところ寒さが少―し緩んだとはいえまだまだ寒く、熱燗がことのほかオイシイです。

パリは都会ですから日本食品店があり、魚屋で生魚も割に簡単に手に入るので、マ、日本と寸分たがわずとはいきませんけどちゃんとした和食を食べようと思ったらそう困難なく調達することが出来ます。

そこを、かつての在留邦人にならってあるものでなんとかしよう、というわけです。

1980年代中ごろまではフラン(ユーロ以前のフランスの貨幣単位)も高く日本食材店は値が張り、大企業の
駐在員家族は別として、手近の素材で工夫したものでした。

発酵食材のシュークルート(酢漬けキャベツ)にお醤油をかけてお漬物に見立てる、テナことです。漬物は、固くなったバゲットをビールで発酵させて上手に漬けている先達もいたものです。

今はキッコーマンの卓上しょうゆがスーパーによっては並んでいるぐらいですが以前は高価で、お小皿の残りを集めて濾(こ)して大切に使ったもののようです。

デワデワ、お醤油もお味噌もなしで熱燗の肴をあつらえてみましょうか。

プータルグという本格カラスミがあるんですが、これなど文句なし。南仏マルティーグという町の特産で、薄切りをバタートーストにのせて食前酒のつまみや前菜にします。

が、たいへんにお値段の張る高級品。

庶民的なところでサンマルスランという生チーズはどうでしょうか。白菜のオシンコ風味なんです。さいの目にしてカツブシふってゆずのカワなどのせたら、素敵なおつまみになりそう・・

・・おっとっと、和の物は禁じ手でした。サンマルスランだけで、熱いところをきゅーッ。

バスク地方の羊チーズ・エトルキーは納豆の風味ですからこの二品のさいの目で十分熱いところがすすみます。

プロヴァンス産の浅漬けオリーブの実はカリカリ梅みたいで、こちらは箸休めにぴったり。同じ南仏のアンショワイヤードという、黒オリーブとアンチョビのペーストも、イケるんじゃないかナ。

これを舐め味噌の要領で、しょっぱいところを箸の先にポッチリとって舐め、またしてもきゅーッ。

この場合、フォークでなく、なにとぞお箸をつかわせていただきたい所存であります。でないと熱燗の「感じ」が、やはりどうッしても出ない。

かつての在留邦人も、割り箸を洗って何度も使っていたわけですしね(これは語学留学生時代ワタシもしました)。

どうしたわけか写真が入りませぬ。ごめいわくをおかけいたします。

前菜は、アボカド、レモンで
主菜は、七面鳥のささ身のカツ、レンズ豆煮込み、モロッコいんげん塩茹で

立ち呑み日記・宅配スシ [食前酒]

9歳になったムスコのお誕生会で、宅配のスシ(寿司、ではありませぬぞ)をとりました。これは子ども用でなく大人用です。

こちらの子どものお誕生会はたいてい午後3時ごろから6時ごろまでで、指定の時間に親御さんが迎えに来ます。

このときにちょっと一杯やりませんか、と、声をかけてみたんです。食前酒の時間ですしね。子どもらも手をのばすことを考え百個入りセットを奮発しました。

寿司おけではなく、デコレーションケーキのような化粧箱で来たんですが、フタに手をかけるや酢飯と具材がまじりあった、なつかしくも食欲をそそるにおいがフワンとたちます。

注目が集まる中フタをぱっとを開けた瞬間の「アー!」というみんなの歓声・・

それにかぶさるように、日本人オカーサン(ワタシです)の「アーア」とつい口をついちゃった落胆の声・・

スシは寿司にあらずと頭ではわかってはいるものの、一分の期待をどうーッしても、かけちゃうんですね。なにしろ目をつぶってにおいだけだとお寿司そのものですからね。

さて気を取り直して、みなさんに付属品の割りばしやおしょうゆを配りましょうか。おしょうゆはフタつきお小皿になっていて、フタを引きはがせばそのまま使えます。しかもたっぷりある。

フランス人の中にはおしょうゆがしょっぱすぎて好まない人がいるので、テリヤキソースという焼き鳥のたれ風も同数ついています・・・と思ったら今回はそれだけでなく「スパイシーマヨ」というのもついてました。

みなさん食べ慣れていると見えて、手際よく三つのたれを開けて自分の前に並べておられます。

つまり、つけるのはひとつと決めるのではなく、時におしょうゆ、時にテリヤキソース、また時にスパイシーマヨと、いろいろな味をたのしむわけです。もはやスシは寿司の遠い親戚とさえも言えなくなってきました。

ワタシとしては、寿司の立役者であるべき海苔がないがしろにされているのが実に実に心苦しかったです。

よーく見ると、巻き寿司のなかに入っているんですヨ。ただ、海苔が内側に来るよう巻いてある。代わりに薄焼き卵やサーモンやアボカドの薄切ドで巻いて、黄色、オレンジ、緑がふんだんにちりばめられた満艦飾。

黒が前面に出ると、パーティーの色味としては地味すぎますからね。

つまんでみると、あらマ、悪くない。口の中で酢飯がほどけ、キュウリとクリームチーズやらエビフライとアボカドやらとしっくり混ざります。

お米入りサラダであるニース風サラダのひと口版、テナ感じでしょうか。

「それをスシと名乗るとはけしからぬッ」
と、思われた方もおられましょうが、日本の回転寿司も今や目新しい具材がいろいろあるみたいですヨ。「スシロー」で言うなら、ミートボール、牛塩カルビ、焼き豚ねぎまみれ、生ハム、等々。

家庭の手巻き寿司の具もまたいろいろのようで、クックパッドによると、ツナマヨレタス、から揚げ、魚肉ソーセージ等々。

そういうお寿司も気軽でいいですが、鮮魚のきりっとしたにぎりもたまには食べたいもンですねえ・・(うっとり遠い目)。


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子どもはこっちです。ケーキは少々焦がしちゃったので粉砂糖でカムフラージュ。

前菜は、トマトとコーンのサラダ
主菜は、仔羊腿肉ソテー、じゃがいもピューレ、いんげん塩茹で、グリーンサラダ


立ち呑み日記・とりあえず生 [食前酒]

友人たちとのたのしいたのしい宴を目前にひかえた、午後6時。

約束の時間より早く着いたので、予約が入っている居酒屋の隣りのタリーズコーヒーに入りました。

タリーズコーヒーに入るのは、初めてです。

都内のどこでも、以前ならぐるっと目をやれば、「オアシス」なんて店名で個人経営の喫茶店が一軒や二軒、すぐさま見つかったものですが、絶滅してしまいましたネ。

♪紅茶のおいしい喫茶店~・・は、昭和時代の遺物になってしまいました。

そこで大手チェーンのカフェとあいなるわけで、アメリカでタリーズコーヒーは好敵手スターバックスに隣接開店する作戦で発展してきたので、タリーズコーヒーに行きたければ
「まずスターバックスをさがせ」
などと言われているそうです。

さて何をたのみましょうか。ナントカのひとつおぼえのアイスカフェラテかなあ、と、メニューを目で追いながら、あれ、と思ったんですが・・

Sって、smallのSではなく、short、なんですネ。MにあたるのはTだそうで、ハテこれは何の略なのか。

「お決まりですか」
と、にこやかに応対してくださる店員さんにおしえを乞おうか迷いましたが、背後に行列もできていることだし、まあやめときます。

あとで知りましたが、TallのT、だそうです。

これから、とりあえず生から始まるたのししいたのしい宴なのでお腹ドブドブにするのはしのびなく、アイスカフェラテのショートを、「おねがいします」・・

・・と、注文したそばからカフェイン抜きホットコーヒーがあることがわかり、急きょ変更してそのショートをたのみます。

「かしこまりました」

当店のマグカップに淹れてよろしかったでしょうか、とも訊かれたので、よろしかった旨しかと伝えます。

コーヒーは、♪紅茶の美味しい喫茶店~でよく見なれた、円筒型のガラスポットで出て来ました。昭和の時代は紅茶の茶葉を上からグーッと押しつけて淹れたものですが、同様のしくみでコーヒーが入っています。

うまい具合にテラスに席がとれ、やれやれ。本日東京地方はひッどい雷の集中豪雨で、夕刻の今も天気は安定しません。

目の前を、仕事帰りの善男善女の傘が駅に向かってゾロゾロ通って行きます。

ひとしきり通り過ぎて、界隈で働くひとの全員がもう帰ったのかナ、と、思うころにまた傘の集団がまとまってゾロゾロ、ゾロゾロ。

「ぼくはもうひと仕事してから帰ります」
という青年の声が、隣りのテーブルから聞こえて来ました。

「きみひとり暮らし?」
と、その向かいの席で、上司とおぼしきアラフィーの男性。
「すぐ家に帰らないための理由探してない?」

そういう日々がワタシにもあったなあ、あのころはバブルだったから、もうひと仕事どころかふた仕事もあって、終電後のタクシーの領収書切り放題だったなあ・・

「あれずいぶん早く着いたね」
と、そこへ友人の一人が通りかかったので、宴の開始時間にはまだ少々早いんですが先に店に入って、とりあえず生を二人で先にはじめてみんなの到着を待つことにしました。

写真が間に合いませんでした。ごめんなさい。あとで入れます。

前菜は、メロン、トマトサラダ
主菜は、ちらし寿司、オクラの煮びたし

立ち呑み日記・ピスタチオ [食前酒]

戸棚にしまい忘れていたピスタチオをぽつり、またぽつりとつまみ食いしながら、つらつら考えた。初めてピスタチオを食べたのって、いつだったかナ。

気がつけば、あった。しかもお酒の席に限定して、あった。

灰皿に殻が山盛りになっている、なんていう光景は、簡単に思い出せます。禁煙の昨今、この光景はもはや見られないものでありましょう。

殻を剥き忘れてぱくっといって、歯が折れそうになったことも、ままありました。ピスタチオはそれだけでおつまみに出てくるのではなく、「ミックスナッツ」に混じっているからなんですね。

つかんだものをロクに確認もしないでぱくっといくと、そういうことになります。それだけでなく、殻を剥いて食べるものと実のところ知らなかった、とも、言えます。

このころが、われわれとピスタチオの関係の始まりだったのでは、ないでしょうか。

どなた様かのブログで拝読したんですが、バブル期のトレンディ―ドラマで、西麻布あたりのバーで浅野ゆう子あたりが三上博史あたりと待ち合わせ、カクテルのつまみに
「ピスタチオ」
と、手慣れたふうにカッコよくたのむシーンが、あったそうです。

トレンディードラマに登場してしかるべきコジャレ感が、あったわけです。この点が、殻つきピーナツやアーモンドやカシューナッツと、一線を画するところです。

殻つきピーナツは南京豆ですからオバーチャンにも剥いてもらったし、アーモンドは「一粒で二度おいしい」し、カシューナッツは、たまさかに家族で中華料理の円卓を囲むと、鶏肉と炒めたのが、必ず出てきた。

そういう、家族の思い出の中に、ピスタチオは顔を出さないんですね。酒場で出会った仲。家庭に持ち込むわけにはいかない、恋。

この恋はどういう進展で現在に至るんでしょうか。間違いなく家庭に持ち込まれ、円満な関係を築くまでになっているわけですが。

1999年、三菱自動車工業から、低燃費の乗用車「ピスタチオ」が販売(2000年に販売停止)。「ピスタチオ」を店名にしたレストランやペットショップなども日本各地にいろいろあり、言葉の持つオシャレ感はいまだ健在といえましょう。

今ふと思い出したんですが、考えてみれば1990年代、日本からパリに遊びに来た友人と街歩きしてアイスクリームでも舐めようということになり表示のフレーバーを順次訳していってピスタチオが出てくると、
「え、なに?」
と、よく聞き返されたものでした。

おつまみのピスタチオが甘いアイスとは。クドいのではとワタシも長いこと敬遠でした。

日本で緑色のお菓子といったら、抹茶かメロン風味ですが、フランスでは間違いなくピスタチオ風味です・・

・・とまあそんなどうでもいいことを考えながら手と口が自動的に動き、おおイカンイカン、気づけば大量の殻が山をなしてました。


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いまだクリスマス飾りが残っているレストラン発見。そろそろはずしてもいいんじゃ、ないでしようか。

前菜は、メロン
主菜は、ゆで卵とじゃがいもとニンジンと玉ねぎの赤ワイン煮、グリーンサラダ

立ち呑み日記・上燗 [食前酒]

パリにひどい寒さがぶり返してきた昨日今日。

骨まで凍み入りながら所用で歩いていたら、矢も楯もたまらず、アレのことしか、考えられなくなりました。ほやほや湯気がたったところをとくとくとくとく・・

熱燗、のみたい。のみたいったら、のみたいッ。

が、日本から持ち帰った紙パックのお酒は、とっくのとっくの昔に全部のんじゃってます。

戸棚の奥にあるのは、後生大事ととってある大吟醸と、何かのお祝い事にとしまいこんだ、金粉入り一升瓶の「大関」、以上。

大吟醸をお燗につけるのは、どうでしょうか。かといって、ただ寒いというだけで自分に金箔をおごるというのもいかがなものか。

そうなると、アジア食材店で常時ホコリをかぶっている紙パックを買って来てとなりますが、いつからあそこにあるのかわからないあれを日本の倍近い値段で買うのも、二の足をふみます。

熱燗、のみたい。のみたいったら、のみたいッ。

考えに考えぬいた末、金箔のほうを開封しちゃおう、と、決心を固めました。とはいえ、そんなお大尽していいのか。

(いいわけない)と、地の声が心の奥底で叫び、(のみたいときがのみごろ)と、天の声が言う。

そこで天と地の折衷で、一升瓶をできるだけそおーっと移動させて金箔を舞い上がらせず、底の方でゆらゆらしているうちに上ずみだけとってお燗することにしました。

ほこりをかぶった一升瓶を、そおーっとそおーっとひっぱり出してみれば、2004年製造、の、文字。

(10年近く前のものなんだし、やっぱり開封してしかるべき)
と、天の声が背中を押してくれます。

とくとくとくとく・・と、口つき耐熱容器にそそぐと、あらまあ、鼈甲(べっこう)色になってる。これを電子レンジでチンするわけですが、ひとくちにお燗といっても、細かい違いがあるものですネ。

日向(ひなた)燗 33度
人肌 37度
ぬる燗 40度
上燗 45度
熱燗 50度
とびきり燗 55度

「とびきり燗より熱いヤマグチ燗で」
と、今生きていたら百歳をかるく越える同居の祖父は、晩酌の燗酒を孫(ワタシです)に電子レンジで準備させ、煮え立つほどに熱―いのを好みました。

草創期の電子レンジだったせいか、一合徳利を2分半も、温めました。

今、うちの電子レンジでそんなことした日には、煮えたぎって全部こぼれちゃいます。

そこでまあ、熱燗もいいけど、台所の立ち呑みですし、上燗といきましょうか。一分弱でいいナ。その間、徳利にお湯を注いで温め、オチョコなんかも、出しておく。

チン! の音を待ちかね、徳利に注ぎ入れ、デワデワ、と、キューッといきました(台所の立ち呑みですがネ)。


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エルビス・フレスリーの専門店がありました。

前菜は、カブと青リンゴのかつおだし入りサラダ
主菜は、鴨腿肉のコンフィ(脂煮)、レンズマメの煮込み、インゲン塩茹で

立ち呑み日記・あまじょっぱ [食前酒]

日本のおみやげに、「ロイズ・ポテトチップチョコレート」というのを、いただきました。

「ロイズ」は北海道のチョコレート専門店で、成田空港の搭乗口に近い免税店にも、東京銘菓「東京ばな奈」と双璧で大きな棚のある、有名どころです。

デパートで開かれる全国の物産展のなかで北海道展は群を抜いて人気があるそうで、そのなかでも「ロイズ」の銘菓の数々は、かの歴史ある「白い恋人」に、肩を並べる勢い。

このポテトチップチョコレートは、北海道産じゃがいものポテトチップに、チョココーティングがしてあります。

しょっぱいポテトチップになぜにチョコ、と、最初はいぶかりましたが、これが、おいしいの、なんの。あまじょっぱの妙です・・

・・と思ったら、
「あまじょっぱい、というのはどこかの方言でしょうか」
という質問が投げかけられているのを、『読売新聞オンライン発言小町』で見つけました。

味噌田楽の味噌を、あまじょっぱい、と、言ったら、甘辛い、と、本来言うべきだと夫に笑われたんですが・・

ワタシが思いまするに、砂糖醤油のような渾然一体に混じりあったのが、甘辛い。あまじょっぱ、は、渾然不一体、では、ないでしょうか。

砂糖と塩が、口中ではじめて出合う感じのおいしさ。ホラ、お汁粉についてくる紫蘇の実を口に入れた瞬間なんかが、それです。

甘くておいしーい、と、うっとりしたところで急にしょっぱさが加わって、ジェットコースターで足がフワン、と浮いたような感覚にとらわれ、おいしさが倍増されているのに気づく。

紫蘇の実の一撃は、もンのすごくあと引きます。そこであわててお汁粉をもうひと口、次いで、紫蘇の実をさらにもうひとつ。

がしかし、概してお汁粉の紫蘇の実というのはほんのちょっぴりしか盛られて来ないんですね。

おねがいもっとーッ、と、肺腑えぐられる思いで空のお小皿をむなしく見つめつつ、残りのお汁粉を平らげることになります。

そこへいくと、「ロイズ」のポテトチップチョコレートは、大箱の中に小分けの三袋、たっぷりあった。「オリジナル(ミルクチョコ)」「ビターマイルド」「フロマージュブラン(ホワイトチョコ)の、三種類です。

ますは、以前食べたことのある「オリジナル」を開け、大きいところを選(え)って、ぱくり。

チョココーティングした厚めのポテトチップがぽってりした歯触りで、あらまあ濃厚なチョコだこと・・と、思う間もなく、塩の粒が舌に当たるほどにしょっぱくて、おいしい。

食前酒のつまみにちょっひと口、の、つもりだったんですが、やめられなくなりました。そして、ゴハン前だというのに、見る見るオナカイッパイになった。

幸い今宵は肉料理でなく、多少なりとも軽めの、魚の塩焼きです。

焼き魚に合わせるワインも、ボルドーの白などやや甘みの勝ったものにすると魚本来の塩味が引き立つ、と、近所の酒屋さんでおしえてもらったことが、あります。


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玉三郎がパリに来る!

前菜は、アボカド、レモンと塩で
主菜は、鴨の中華てり焼き(テイクアウト)、カリフラワー塩茹で、根野菜入り炊き込みご飯


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