立ち呑み日記・散歩で食べたい [おでかけ]

「散歩に行かない?」
と、ただ今学期休み中でパソコン画面から離れないワルガキ二匹に半ばあきらめ境地で聞いてみると、案の定、「行かない」(即答)。

中学生ともなると、親と散歩などちっとも楽しくないんですね。

マ、そりゃそうダ。そこで久しぶりに、一人で街歩きに出ることにしました。

さてどこ行こう。

バスチーユという界隈の風景がなぜか頭に浮かんだので、ひとまずそこを目指します。

バスチーユには近代建築の新オペラ座がそびえますが、その北側は上野のアメ横風商店街にして夜の繁華街。

昼間見ると地味―な店構えながら、その実オッシャレ最先端のバーがひしめいています。

バスチーユは人気スポットでテナント料がうなぎのぼりになったところから、オッシャレなバーはバスチーユ北東の、かつてはうんと庶民的だった界隈へ進出し、今やむしろそちらのほうがよりオッシャレになっています。

東京でいうなら、谷中や根津といったところでしょうか。

そしてバスチーユ北東のその界隈こそが、昨年多くの犠牲者をだしたテロの標的にされたところです。やはり爪痕は深く、バスチーユに着くなり重装備の警官や兵士を多く見かけました。このあたりはユダヤ教会やユダヤ商店の多いところでもあるんです。

心なしか北東に向かうのを避けて北上します。オッシャレな店と庶民的な店が雑駁に続く商店街のとっつきは、ペール・ラシェーズ墓地の塀。

この墓地は墓石の形も個性的で、ジム・モリソンやイヴ・モンタンなど著名人も多く葬られた人気観光ポイントではあるんですが、本日はお墓めぐりの心境にあらず。

長く伸びる墓地の塀に沿って粛々と歩いてもつまらないので、早めに小路を東へ折れてみます。道行く人がずっしりした買い物カートをひいているのは土曜日の午後だからでしょうか。

土曜日はユダヤ教の安息日なので、残念ながらユダヤ商店はシャッターが下りています。代わりに、というのも変ですけど、アラブ商店は大盛況。ことにハラルというイスラム式食べ方のレストランなど時分どきをとっくに過ぎているというのに立錐の隙もないほどです。

ワタシも何か食べてみたいナ。

でも、お昼に白飯を炊いてお代わりまでしちゃったのでお腹はイッパイなんです。

『散歩の途中何か食べたくなって』という池波正太郎の名随筆もあることだし、でもやっぱりここはひとつ散歩の途中何か食べたい、とはいってもお腹イッパイ・・

懊悩しながら歩き続けると、ベルヴィルに着きました。

この界隈は、今来たアラブ・ユダヤ商店街を横軸とすると、縦軸は中華街です。温州という粉もの文化地域出身の中国人が多く、安価な汁麺屋さんが軒を連ねています。

しかし、まったくくやしいことにお腹イッパイ。

小腹よ空けと念じながら足を速めるうちにいつしか中華街は遠のき、これでは家に着いちゃうと焦るうちについにお腹がグーと鳴ったので、最初に目についた人気(ひとけ)のないホットドッグ屋にとびつきました。

これが、パンぱッさぱさソーセージひッやひやでガックシのお味。つべこべ考えず汁麺屋に入ればよかったと心から後悔しましたね。


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このあと通りがかりにポンピドー文化センターという、マチスやマグリットなど近代美術の美術館にも寄っちゃいました。その階上から日が暮れる前に大急ぎでパチリ。

前菜は、フムス(ヒヨコ豆のペースト)とセロリ、花がつおをかけたさいの目フェタチーズ(羊のチーズ)、トマトサラダ
主菜は、ポトフ


立ち呑み日記・アメリカへ [おでかけ]

「ニューヨークへ行きたいか―ッ」
という福留アナウンサーの挑発的な呼びかけが、何度聞こえてきたことか(脳内で)。

何それ?
という声がお若い方々からわいて来たようなので説明しますと、「アメリカ縦断ウルトラクイズ」という番組が、ワタシらの若いころ大人気だったんですね。

クイズに正解していけばアメリカ縦断の旅が続けられ、間違えるとその場で日本帰国。

番組の成功の裏にはスタッフと旅行会社の綿密な連携がありチケット手配や入国の書類作成に並々ならぬ手腕が発揮され、そのお蔭で参加者はクイズ回答に集中でき、一喜一憂の表情がありありと映し出されのだそうです。

(旅行会社ってすごいなあ・・)
と、パソコン画面をにらみながら何度もため息つくまいことか。

いえね、ただ今、今度の5月の学期休みに、ワルガキ二匹の長年の夢だったアメリカはフロリダのユニヴァーサルスタジオを訪れるべく、準備している真っ最中なんです。

フロリダのそこには、大阪のUFJより規模の大きい「ハリー・ポッター」のアトラクションがあるんですヨ。

でも、本当に行けるのか。

なにしろアメリカといったら車なしにはどうにもならないというのに、ワタシは年季入りのペーパードライバーで、運転は無理。

でも、調べていくうちに、ユニヴァーサルスタジオのあたりは車なしでも「ダイジョブ」というのがわかって来ました。

この一帯はディズニーを中心としたテーマパーク銀座で、バスやタクシーで十分移動できるのだそうです。

そういう点をかんがみてホテルを調べ、航空券と組で買うと安いという知恵も仕入れ、テーマパークの入園チケットにいたるまでプリントアウトまでこぎつけました。

(旅行会社ってすごいなあ・・)
とは、この時点ではちっとも思いませんでした。むしろ
(独力でできたワタシってすごいなあ・・)
と、鼻ピクピク。

で、一件落着とばかりねそべって旅行ガイドブックをぱらぱらやっていたら「エ」となったんです。

そしてガバッと起きた。

アメリカ入国って、フランスのようにパスポートさえあればいいわけじゃないんですってね。知りませんでした。

2009年からこっち、日本人やフランス人などは観光旅行の場合、ESTAという事前登録をインターネットでして、その料金をクレジットカードで払っておかなければならない。

今日たまッたまガイドブックを開かなければ、ワタシら親子は空港まで行きながら指咥えてすごすご引き返すハメになるところでした。

アメリカ政府のESTA登録画面をにらみ、もう、もンのすごく緊張しましたね。旅行会社が代理で申請してくれたら大船に乗った気分でいられるのに・・

「質問の回答によっては入国できない場合があります」
とのことで、不調法な回答をしでかしたらどうしよう・・

「逮捕歴がありますか」
「アメリカに不正入国したことがありますか」
などが質問で、いずれも「いいえ」でした。

「楽しいご旅行を。米国訪問を歓迎します」
と、最後に画面に浮き上がった時のホッとするまいことか。

「ニューヨークに行きたいか―ッ」
にもちゃんと答えられますぞ。

「ニューヨークを経由してフロリダへ行きまーす」

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ただ今2月の学期休み(通称スキー休み)中なんですが、11歳のムスコの国語(フランス語)に詩の暗唱の宿題が出ました。毎日2行ずつ、カントクしなけりゃいけない親もメンドくさいです・・

前菜は、野菜ポタージュ
主菜は、平目の焼酎蒸し・グレープフルーツとケッパーとバルサミコ酢のソース、じゃがいもピューレ、いんげん塩茹で

立ち呑み日記・パリの我が家へ [おでかけ]

「ひどい天気だねえ」
と、ド・ゴール空港からパリへ向かうタクシーで、、運転手さん。

11時間半のフライトの果て、フランスの現在時間19時は昨日までの午前3時で、目がシバシバすることこの上なし、とっぷり暮れた窓へ目を凝らしに凝らすと、外はしとしと雨のもよう。

パリの年末年始は春のような毎日だったのが、いきなり気温が下降し陰気な雨となったそうです。

東京地方も例年になく暖かでした。

「日本は大気汚染がひどいってホント?」
と、運転手さんに聞かれたんですが、どうなんでしょうか。

東京とパリはどっこいどっこいのような気もしますが、福島原発も収束からほど遠いと聞き及びますし、日本の空気は世界的に評判悪いんでしょうか。

「だってホラ、首都に茶色い濃霧が発生して鼻先が見えないって言うじゃない」

・・・それ、北京のことじゃないかしら。

「ありゃ、ペキンは日本じゃなかった?」

運転手さんは、北アフリカはモロッコの出身だそうで、ワタシらにしてみればモロッコとチュニジアとアルジェリアの違いは分かりづらいですもんネ。

パリで、アニメをはじめとする日本文化大好き!  という、おもに若者に出会うことがよくありますが、かならずしも市民の全員が全員日本通というわけでもないんですね。

ニッポンではチョンマゲで帯刀している、とは、さすがに思わないでしょうが、アジア諸国の区別はあいまいです。

「日本でネム食べて来た?」

ネムはベトナムの揚げ春巻き。フランスは歴史的にベトナムと関係が深く、ことに1970年代にベトナム難民を多く受け入れ、彼らが生活の糧にベトナム料理店を営んだところからこの一品料理が浸透することとなり、今では学校給食にのぼるまでになっています。

東京にも今や200軒あまりのオッシャレなベトナム料理店があるそうですが、いまだ行く機会に恵まれません。

「日本は、ネムでなく、スシ」

スシSushi、とこう言いながら、緑のアボカドと黄色いタクアンが芯のフトマキを思い浮かべられても
(違うんだけどなあ)
と、思いましたけど、本場もののお寿司はどうあっても想像つきますまい。

パリの街角を見渡せばここにもあっちにもあったベトナム料理店は1990年代後半ごろに姿を消し、テイクアウト中華へとって代わりましたが、こういう店にはスシもネムも置いているんです。

「運転手さん、パリでモロッコ料理のおいしい店ご存知?」
と、今度はこちらから訊ねてみました。

「妻」
と、ひと言。「外へ食べに行く気は起きないね」

モロッコ、チュニジア、アルジェリアのマグレブ三国のなかでモロッコは料理が格別においしい国とよく耳にしますが、家庭料理もまた抜きんでているのでありましょう。

男は黙って妻が食卓に出した料理を食べる、と、80歳を過ぎたワタシの父など日本の男は家庭料理の味つけには無抵抗のような気がするんですが、マグレブの、ことに古い世代の男は、厨房に立つ家族へ、
「この肉をこうしてああして・・」
と、細かく口出しする、と、聞いたことがあります。

運転手さんチはどう? 
と、聞いてみたかったんですが、ちょうどそこでタクシーは懐かしきわが家の前に着きました。


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また日常に戻ります。
みなさま、あけましておめでとうございます。今年も「立ち呑み日記」をどうぞご贔屓に何卒よろしくおねがいいたします。

前菜は、トマトとゆで卵のサラダ
主菜は、フォーフィレ(牛肉)ステーキ、小粒じゃがいものニンニクソテー、いんげん塩茹で


立ち呑み日記・リピーター [おでかけ]

植え込み前のベンチに席を見つけて、やれやれ。

ただ今東京ディズニーランドに、13歳のムスメのなかよし、ユリナちゃん母娘とともに来ていて、子どもらはディズニー・キャラクターを描く講座アトラクションに入ったところ。

これ、ファストパスを有効に使う手腕にぬきんでたユリナちゃんのオカーサンの指示によりこちらのオカーサン(ワタシです)が朝イチで予約の列にすべりこんだため実現可能となりました。

その間、子どもらはまっしぐらに「スペースマウンテン」へ走り、ユリナちゃんのオカーサンはといえば「ビックサンダー・マウンテン」のファストバスをとってからシアターの抽選に行き(残念ながらはずれたそう)、朝8時だというのにもう人員整理係が出ているポップコーン屋台の大行列のしっぽをつかんでいます。

東京ディズニーランド、うちの二匹は人生お初、ワタシもまた、30なん年前の開園の年に大学のサークル仲間と来て以来です。

(楽しかったなあ)(やたらキャーキャーしたなあ)(きゃぴきゃぴもしたなあ、ミニーちゃんの耳つけて)
とは思い出しますが、園内地図などは忘却の彼方。

ユリナちゃん母娘はもう数えきれないほど来ていて、園内を熟知すること庭のごとし。

見回せば、クリスマスの25日のことで、中学高校生のグループないしはカップルが、そりゃもうつくだ煮になりそうなほどひしめいてます。

それぞれディズニーキャラクターを折りこんだおそろいルックがお約束のようです。

その多くのみなさん、冬休みはもう始まっているはずなのに、ベースに着ているのが学校制服なのはどうしてなんだか。

それともあれって「なんちゃって制服」なんでしょうか。

いずれにしても、おそろいのトレーナーやら格子模様のミニスカートやらミッキーの耳やらをまとってテレンコ、テレンコ歩いている。

もしくは、ベンチにまーったり腰掛けている。

なるほどなあ・・
と、気づきましたが、彼らは東京ディズニーランドへは子どもの時から何度も来ているんですね。今更焦ってアトラクションにがつがつ乗ることもない。

でもまあせっかくのディズニーランドだし、おしゃべりしながら行列し、あるいはファストパスで長蛇の列を横目に小気味よく優先的に乗り、おみやげ屋を十二分にひやかし、ポップコーンを、アイスを、ミッキーの形したハンバーガーを、ほおばる。

「ちょっとまじうざい」
と、つい今しがたワタシの横のベンチで、おたがいのホットドッグやピザを二人であーんし合って味見していた十代カップルの女の子が、自分の胸元のダッフィーというクマのポシェットの中へ気安く手をつっこんだカレシへぴしゃりと言いました。

「こんなものとってあンの?」
と、カレシが勝手に取り出したのは、これまでに来た東京ディズニーランドの入場券ざっと10枚。

「いいじゃんあたしの記念なんだし。さわンないで」

この10枚の中には、前のカレシと来たときのもまじっているものなんだか。

今回また1枚加わって、次会の1枚の時に今のカレシは横にいるのか・・

・・テナどうでもこと思い描いているうちにユリナちゃんとうちの2匹が走って戻って来ました。


写真はしばしお待ちくだされ。

前菜は、千切り山芋、牡蠣の蒸し焼き、
主菜は、牛肉ソテー、パプリカのグリル、きゅうりの糠漬け

立ち呑み日記・いつもと違う [おでかけ]

ワルガキ二匹の日本語塾を待つ間、いつものカフェテリアに席を見つけて、やれやれ。さきほどひとしきり強い雨が降ったからか、いつもより混んでいます。

あいもからわぬ風景、あちらの卓でもこちらの卓でも語学の交換授業をしています。韓国人とフランス人のグループが目立ちます。

惨劇から一週間がたちました。

その間、パリ近郊では犯人グループをねらっての銃撃戦があり、フランスはシリアに空爆し、隣国ベルギーのブリュッセルでは一味の巣窟があるというので厳戒態勢が敷かれ、フランスとも関係が深いアフリカのマリでもまたテロがあり、もうなにがなんだか。

「それでも、これまで通りに生活していこう」
と、人々はみな思いを新たにしているのではないでしようか。

ワタシもまたいつも通り、パソコンの前から離れない二匹のお尻叩いて日本語塾のあるオペラ座界隈まで来たんですが、いつもと異なり地下鉄は避け、バスにしました。

万が一地下鉄で化学兵器でも撒かれたら逃げ場がないのでは、という懸念からです。

「それが浅はかだっていうのヨ」
と、午前中に買い物に行った肉屋でくさされましたが。

肉屋のご主人いわく、パリの地下鉄くらい安全な乗り物はない、とのこと。
「そりゃマ、コソ泥は多いけどサ、ただあいつら人は殺さない」

東京の地下鉄サリン事件はいたましいことでしたが、このときパリの地下鉄は大いに勉強し、かりに毒ガスがまかれるような事態となっても万全の換気で悪い空気が停滞しないよな設備になっているのだそうな(ホントかいな)。

「それよりバスのほうがうっとうしいってよ」
と、ご主人。

不安のはびこっているところへ便乗して近郊のチンピラがのさばり、バスに乗り込んでは
「オレさまは爆弾を身体に巻いているんだゾ!」
と、面白半分でひと騒動起こして乗客を騒然とさせたり、する。

(乗り合わせないといいなあ)
と、心曇りながら、二匹をせかしてバスに乗りこんだんですが、幸い何の問題も起きず、オペラ座界隈に着きました。

ただし、ちゃんと降車ボタン押したしバスも停留所で停まったにもかかわらずドアが開かず、次のバス停まで乗って行くハメになりました。

「運転手さんったら開けるの忘れたみたいね」
と、ドアの真ん前にかじりついていながら降りそびれた熟年世代のご夫婦が慈悲深い声をお出しになる。

こういうときはふつう、ドアの最前にいた人が
「ドア! ドア!!」
と、運転席のほうへギスギスした声で叫び、それを合図に周囲の人もギスギス加担するんですが、ご夫婦は静かに棒につかまったまま。

この棒についているボタンが光ったところを押して初めてドアが開くので、ドアの真ん前に立ちはだかっている人は降りる人全員の全権大使みたいなものです。

ご夫婦は、雨で窓が曇っていて今停まっているのが信号なのか停留所なのかハッキリしなかった、とのこと。背後のワタシとて同じでした。

「降車ボタン押したのになぜ停まらぬッ」
と、普段なら降りそびれた人は運転席でガミガミやるんですが、本日はギスギスもガミガミもなしで、なんだかみんな心優しい。

このあたり、いつもと全然違うパリです。


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歩きながらパチリ。この橋は「ボンヌフ」、映画「ボンヌフの恋人たち」のポンヌフです。そうそう、この映画を撮影していたとき、やはりこうやって歩いていたら橋のところで撮影隊とすれ違いました。大型バスからボロボロの衣服をまとった乞食がいっぱい降りてきて、仰天したワタシはすかさず遠巻きにしたんですが、この方々はエキストラで、小走りのワタシをおもしろそうに眺めておられました。もう二十年以上昔のことになりました。

前菜は、カボチャのポタージュ
主菜は、鶏ロースト、じゃがいもロースト、いんげん塩茹で、グリーンサラダ

立ち呑み日記・Uターン [おでかけ]

秋の学期休みでピレネー山脈のふもとのふるい友人のところに居候し、この寒村へUターンしてきた別の若い友人母子と散歩しました。

彼女は同郷の幼なじみと所帯を持ち、つい先ごろまでパリに住んでいましたが、ひどい頭痛とめまいに悩まされ、「電磁波過敏症」の診断が下された。

「電磁波過敏症」は、普通の人には感じないwifiや無線などに過敏に反応してしまうアレルギーの一種です。

「生活環境を革命的に変えなければ治りませんよ」
と、お医者さんに宣告され、キャリアも何もほっぽって家族三名故郷へ舞い戻りました。

夫の一族はこの村一帯にかたまっているそうで、親族所有の避暑用別荘に住む所がたちどころに見つかったといいますから、故郷というのは心強いものです。

さしあたっての食い扶持は、夫が父親の会社のバイトでしのぎ、ゆくゆくは車で片道1時間のトゥールーズに仕事を見つけ通勤する心づもり。

彼女のほうは当面静養しつつ子育てに専念、というわけです。

久々に会ったら、頭に白いバンダナをおしゃれに巻いてました。でもこれおしゃれのためでなく、電磁波よけの特別布だそうです。

この格好でこないだ、今ともに散歩している森の小路で野イチゴを摘んでいたら、
「やれヒッピー、わしの村で何しておるッ」
と、通りがかりの老人になじられたそう。

バンダナでヒッピーという決めつけも大時代的ですが、ピレネー山脈のふもとには俗世間から隔絶して集団生活する本物のヒッピー村が今もたくさんあり、古い世代はそれを苦々しく思ったまま年を重ねてしまったようです。

「私は住民ですッ」
と、彼女は声を張り上げました(老人は耳が遠かった)。

しかし、これ以外は村での生活は快適そのものだそう。

なにしろ日課の散歩で、何かしら収穫がある。野イチゴ、桑の実、フランボワーズなどが「お持ち帰りください」といわんばかりに道端で熟れている。

村の誰か彼かの庭にイチジクやスモモがなっているのを見かけて
「獲ってもいいですか」
とピンポンすると、それはもう快く迎え入れてくれる。

どの家でも毎年のことで持て余しているんですね。地面に散らばった鳥のつつきかすをうんざり掃き片付けるより、誰かが収穫していってくれたほうが格段にありがたい。

秋口に入ってからは、栗とクルミをどっさり拾ったそうです。

散歩の収穫物は、ベビーカーのカゴに入れます。本日は、落ち葉のみっしり積もった小路で暖炉の炊きつけにする乾いた小枝をたくさん拾いました。

パリ生まれの二歳になる彼女の一人娘もまた、散歩中の食べられるものに目ざとくなったそう。

「これ食べられる?」
と、ちゃんと大人に聞いてから口に入れる決まりで、今日もそうやって道端のミントの葉を千切っています。

「ほんッとのほんッとに食べられるのね?」
と、ワタシなどもよくよく念を押してから、諦観した心境で口に入れてみました。ミントと思いこんでトリカブトだったなんて、シャレになりませんからね。

ミントは、うっすら甘く、とても香りのいい正真正銘のミントでした。

帰り際、手作りの桑の実ジャムをおみやげにくれました。


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手の届くところに牛も草をはんでいます。ナデナデするには、軽いながら電流の通った鉄線が目の前にあるので向こうがこちらに近づいてくるのを待たないとなりません。

前菜は、千切りニンジンとトマトのサラダ
主菜は、仔牛カツレツ、ベシャメルソースとマカロニ、ブロッコリー塩茹で


立ち呑み日記・愚かなまま死ね [おでかけ]

劇場で、心没入して鑑賞している佳境で携帯の着信音が聞こえてくるぐらい腹立たしいことはないです。

許し難いことこの上ない。

いえね、「Je ne veux pas mourir idiot(愚かなままで死にたくない)」という、軽妙で笑いがいっぱいながら胸にズシンとくる芝居を、しかもその初日に観に行ったんですね。

この一月のテロで斃(たお)れた、フランスを代表する風刺漫画家ヴォランスキーへのオマージュ公演です。

初演は1968年5月の学生運動の時代、ヴォランスキーと、演出家で俳優コンフォルテス、当代人気急上昇中で「歌う物理学者」という変わり種のシンガーソングライター・エヴァリストの三名が軸となって制作しました。

この作品は、68年5月のバリケードを舞台背景に、社会に異議を唱える女子学生、若い一工員、機動隊員、ごくふつうの人、支配層の五名がそれぞれの展望の違いをおもしろおかしく浮き彫りにしていきます。

大別すれば、旧態依然とした世界にあぐらをかくばかりの大人と、社会の殻を破って新しい価値を見出そうとする若者。

短いスケッチがいくつも展開し、それを縫って狂言まわし的にエヴァリスト(役の俳優)がギター抱えて歌います。

繰り返されるルフランが、
♪Je ne veux pas mourir idiot(愚かなままで死にたくない)・・

社会のあり様に目をふさいで卑近なことばかりに囚われていていいの? という自戒の警句です。

たとえば、登場人物の「ごくふつうの人」とは、「ご都合主義の日和見主義で、他人の意見を我がものとして発言し、賢(さか)しく、常に強い方へつく」人。

「ふつうの人」は報道記者としても登場し、目の前でたいへんな学生紛争が巻き起こっているというのに、
「カンヌ映画祭でも記事にしようかナ」
と、なきがごとくふるまうんですが、これなど先月30日の日本の国会周辺デモとその報道の状況と重なって唸(うな)りました。半世紀近く前の作品というのに色褪せるどころか普遍的なテーマです。

今日と一番違って描かれているのが、機動隊員です。

機動隊員は秩序の名をかざして警棒を振り上げ、隙あらば誰彼となく激しく打ちつけます。当時の機動隊とバリケードを築く学生とは敵対関係でしたからね。

「Je suis Charlie(私がシャルリだ)」
と、テロを我がこととして捉えた惹句が席巻した大デモ以来、警察は敵対どころか心強い存在となり、
「Je suis Police(私が警察だ)」
とも飛び交ったくらいです。

今回のこの追悼公演も、劇場前に複数の警官が見張りに立つなかで行われています。

さて、うちのフランス人のオトーサン(ワタシのオットです)が制作関係者と縁のあるところから家族そろってかぶりつきの特等席をいただき、舞台はいよいよ最終版のクライマックスを迎えます。

全員が舞台にそろい、声をそろえて畳みかけるように
♪Je ne veux pas mourir idiot(愚かなままで死にたくない)・・

・・・と、そこで、あろうことか携帯の着信音が響き渡ったんです。

それも、ワタシのバッグの中から。気の動転するまいことか、指ふるわせて消音しました。今こうして思い出しても冷や汗が出ます。

反省なんでもんじゃないです。心から、
♪Je ne veux pas mourir idiot(愚かなままで死にたくない)・・


どうしたわけか写真が入りませぬ。スミマセンヌ。

前菜は、トマトサラダ
主菜は、鶏ロースト、野菜カレーライス、ブロッコリー塩茹で

立ち呑み日記・二度つけ厳禁 [おでかけ]

学生時代からの仲間たちと一軒目の店を出て渋谷の道玄坂を
「どうしようか、もう一軒行っちゃおうか」
と、テレンコ歩いていたら、軒の提灯が揺れている店に吸い寄せられました。

抗(あらが)うことなく6名のれんをくぐります。するとこの店は、大阪名物串揚げで知られたところだったんですね。

「ソースの2度つけ厳禁」、ワタシももちろん聞いたことがありますが、ついに実際に体験することとなります。

「うち初めてスか?」
と、固い丸イスに腰を下ろして卓を囲むと、頭に手ぬぐい巻いた青年に聞かれました。

初めて。ご指南よろしくおねがいいたします・・

青年は、ソースの2度付けは厳禁であること、串揚げは一本から注文できること、ハイボールには「チンチロリンハイボール」というのがあってどんぶりにサイコロ転がす「チンチロリン」でいい目がでると特典があること等々、オジサンオバサン連に噛んで含むがごとく説明してくれました。

その口調の端々に、関西弁がにじんでいる。渋谷の真ん中で、食べ物のみならず雰囲気まで大阪をもたらすとはすごいことです。

一軒めでみんなお腹がドフドフになるほど生ビールをつぎ込んだので、冷酒なり、サワーなり、おのおの好みでたのみます。

ワタシは、「チンチロリンハイボール」にしてみました。

チンチロリ~ンとどんぶりにサイコロが転がる音も清々しく、ヨッパラったアタマには理由が何だったか定かではないながら、みごと半額とあいなりました。

さていよいよ串揚げの注文です。

「ししとう」「ハーイ」
「レンコン」「ハーイ」
「アスパラ一本揚げ」「ハーイ」
と、誰かが要望を述べると、同調するひとが手を挙げます。

一軒目でたくさん食べたから、というのもありますけど、われわれも寄る年波、野菜ばっかりに人気が集中。

出会ったころは、学食のたまり場でサービスランチの大盛りだの、スパゲティセットのおテンコ盛りだのを平然と平らげていたものでしたが。

あッつあつの串揚げが来る前に、キャベツの大盛りと、アルミのお弁当箱に入ったソースがやまずって来ます。これが名にしおう2度つけ厳禁のソースなり。

ソースはドロリンとしているのかと思いこんでいたら、意外にもさらっとしてます。

「へいお待ち」
と、串揚げが次々とやって来ました。

そのカリッと揚がっておいしいこと。ソースなしでも十分なくらいです。オレオの串揚げなんていうのもあり、クッキー生地に油が十二分にまわってとおってもヨロシかったです。

で、時にソースに浸し、時に何もつけないでハフハフかじりながら思ったんですが、ソースのお弁当箱にスプーン添えさえすれれば2度つけモンダイはカンタンに解消されるんじゃないでしょうか・・

・・そうするとでも、大阪庶民の味の「感じ」が半減しちゃう。

「人生って、学生時代に思ってたより短いね」
と、仲間の一人が、ウズラの卵を串からはずしながら実感こめて言い出しました。

ウン。一同異議なし。

「すみませーん、『チンチロリン』もうひとつ」
と、来し方行く末をしみじみ思う間もなく、仲間の一人が店員さんを呼びとめました。


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夏休みもおしまい。しばしサヨナラ日本、また次の機会に。

前菜は、トマトサラダ
主催は、フォーフィレ(牛肉)ステーキ、じゃがいもソテー、いんげん塩茹で、グリーンサラダ

立ち呑み日記・ディズニーC [おでかけ]

なまじのことでは太刀打ちできないのだなあ・・
と、一日を振り返り、しみじみしているところデス。

「ディズニー・シー」に、12歳のムスメの日本のおともだち母娘に、誘われたんです。

くっついて歩くので精一杯の一日でした。ワタシら家族は人生お初。日本の「ディズニー・シー」の名はもちろん幾度となく耳にしています。

東京ディズニーランドといったらワタシなど30年前の開園の年に大学の仲間たちと行ったっきり。

とはいえディズニーランはパリにもあり、こちらへは何度も足を運んでいるので雰囲気には慣れているつもりでした。

が、パリと同じ心づもりでいては右往左往するのみと思い知らされましたヨ。ムスメのおともだちのオカーサンからは事前に二点、注意事項がありました。

・ずっぽり濡れるので着替えを持参してください。
・走りやすい靴でお出かけください。

濡れるほうは、水かけパレードがあるんだナと楽しい想像がつきましたが、遊園地で走らねば乗り物に乗れないとなるとこれは大いにひるみます。

当日の朝は、ひるむなんてもンじゃなかったです。

朝8時開場のところ存分に余裕をもって7時半に着いてみればすでに群衆が取り巻いている。ただしこの群衆は無闇に押し寄せることなく、整然と列をなし、落ち着いて歩行します。

けっきょく、早歩きにはなりましたが、走ることなく目的地に着きました。

目的地とは「アリエルと海のなかまたち」というショー。今年の春にリニューアルされ、たいへんな人気なのだそうです。先見の明あり、すぐさま入場できました。

これを皮切りにアトラクションめぐりが始まったわけですが、ムスメのおともだちとそのオカーサンの「先見の明」といったらなかったです。

子どもらがショーにかぶりついている間にファストパスを取りに行き、結果を我が子の携帯にメールする。それを見てムスメのおともだちが時間配分し、30分ほどで乗れそうなアトラクションへ駆けつけ、ワーワーキャーキャー楽しむ。

「パレードの場所とれました」
と、ワタシにもメールが入って来ました。

立錐の余地なく日傘を広げ座りこむ善男善女をまたぐようにその場についてみれば、早くも荷物を大型透明ゴミ袋にすっぽり入れて準備万端の人がそこかしこにいます。

みなさん、慣れておられる。

先方のオカーサンとワタシは子どもらのみ残し、ショー見物の場を離れました。食べ物屋のテーブルの場所とりです。

ショーの間、冷たい飲み物でひと息ついていると、着の身着のまま海に飛び込んだかのような濡れねずみがやって来ました。

用意万端に着替えさせ、腹ごしらえし、アトラクションに乗る方(子ども)とファストパスを取りに出る方(保護者)へまたぞろ二手に分かれての出陣。

ディズニー・シーではこういうマネージメントに長けていないと180分待ちとて当たり前、アトラクションのアの字も楽しめないと痛いほど分かりました。

先方のオカーサンのお蔭で、半フランス人のワルガキ(うちの二匹です)はお目目キラキラで一日を過ごさせていただきました。

「次はディズニーAとBにぜひ行ってみたい」
と、帰り際、真顔でおねがいされました。

写真はしばしお待ちくだされ。

前菜は、トマトサラダ、明太子、たこ焼き
主菜は、焼き鳥、帆立貝のソテー、ブロッコリー塩茹で、じゃがいもソテー


立ち呑み日記・ジョイポリス [おでかけ]

日曜日にお台場にある「ジョイポリス」という室内型遊園地に行きました。

SEGAが運営している屋内遊園地で、SEGAを知らない子どもはいませんから、うちの半フランス勢(ワルガキ二匹です)もそりゃァもうリキが入ります。屋内施設なのに360度回転ジェットコースターがあることもHPでしらべてあります。

勇躍りんかい線にとび乗ったんですが、通勤電車並みの混雑で大いにひるみました。最寄り駅の東京テレポート駅がまたイモ洗い。

改札の前に、「ジョイポリス」の前売り券屋台が出ていたのですかさず近づきます。

乗り放題券(「小中高校用パスポート」)を購入すると、
「混みますからジェットコースターは午前中に乗っておいた方がいいッスすよ」

前日は100分待ちだったそうです。

陸橋を渡ってSEGAの字が見えてくると、興奮いやがおうでも高まりましたね。

「まずはジェットコースターですよッ」
と、オカーサン(ワタシです)。が、朝イチだしダイジョブと思ったのにすでに50分待ち。がんばりましょう。

このジェットコースターは360度回転して、途中でレーザー攻撃(?)して敵をたおすしくみのもよう(ワタシは乗りませんでした)。

待った甲斐あり、二匹はお目目キラキラでおりて来ました。さっさと次、いきましょう。

安全装備付きのスケートボード風に2人組で乗り、くるくる回転して点数を競うアトラクションが、75分待ち。

くるくる、くるくる、おもしろかったみたいですが、
「待つのに疲れたし目がまわった、もう帰りたい」

ちょっとォ、小中高校生用パスポートのモトをちゃんととってちょうだいッ、と、顔が曇りかけましたが、なにしろ常時耳をつんざく効果音とピカピカのフラッシュ照明にさらされての長時間待ちですから、実を言うとこちらもすでにかなり堪(こた)えているんです。

とりあえずひと休み。そのカフェテリアがまた行列。

全館埋め尽くしているのは中学生とおぼしき男女別のグループが圧倒的で、その中におデートカップルがちらほら混じっています。

外国人観光客もたくさん見かけました。

元気を取り戻し、パスポートのもとをとるべく10分待ちの札を見かけたので、オカーサンも券を買って入ることにします。

「占いの森」と、入ってから知りました。

「何を占いたいですか?」
と、機械の画面に聞かれ、日本語のおぼつかない二匹の世話焼きつつ、「愛情」を適当にポチリ。

こういう占い、おデートカップルにはこたえられないでしょうネ。

でも、日本人カップルのみならず世界各国の観光客もたくさん来るわけですから、中国語と英語はありましたけど他の言語もあるといいのにと思いました。

ワタシの「愛情」占いは、正確には「愛情とセックス」占いだと後に判明。ワタシは「正攻法を好むスタンダード派」だそう(うす暗いなか字が小さくて読むのにひと苦労)。

あらいやン、と、うら若きカップルなら頬赤らめ大いに盛り上がる案件でありましょう。

老眼のオバサン(ワタシです)は印字された紙をそそくさしまい、待ち時間の少ないアトラクションをさがして、光と効果音の中へまたぞろ飛び出しました。


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通りがかりにパチリ。

前菜は、トマトサラダ、ひと口餃子、肉入り月餅
主菜は、蒸しじゃがいもを添えたビーフシチュー、いんげん塩茹で


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