立ち呑み日記・運命的恋愛 [買い物]
「誰かいい女性(ひと)いないッスかね」
と、肉屋に行ったら新顔の弟弟子(でし)に、兄弟子ピエールを横目でやりながら聞かれました。
ただ今パリ地区は学期休みで、店長のジルが休みを取って家族旅行に出かけている間、別の支店から新顔くんが派遣されて来ているんです。
新顔くんは、無口で実直なピエールとは対照的な、軽口のはずむ青年です。
「日本女性に的を絞りたいんだって」
と、横目つかいながら日本人のオバサン(ワタシです)にいたずらっぽい顔をむける新顔くん。
「そこまでは言ってないだろッ」
と、ピエールは大慌てです。
新顔くんが言うには、ピエール先輩のような勉強熱心で真心のある精肉職人にこれまで出会ったことがない、にもかかわらず先輩はといえば彼女いない歴が年齢と同じ満25年、それって不条理じゃないスか・・
それ、こないだうちまで店長のジルが言ってたことと同じなんですヨ。
牛挽き肉でも買おうと肉屋へ行ったら、包丁握ったなりで真っ赤になっているピエールを、店長ジルがからかい半分でかきくどいている真っ最中だったんです。
ジルがすすめる女性はというと、買った肉がショボかったとクレームつけてきた40代前半のマダム。近所の八百屋でバナナ一本ぽっきり買いを見かけて独り身の確信を深めたそうです。
歳の差カップルなどめずらしくないですしね。
「なにしろ住まいのアパートがすぐ近くなんだからさ」と、店長ジル。「午後の休みに横になれるんだぜ、繰り返すが、横になって身体休められるんだぜ」
ちょっとォ、ヒルネするための彼女なの?
と、ワタシも口をはさみました。
「ボクは断じて愛し愛されたいんですよ」
と、これまた大真面目に返答するピエール。
肉屋といったらなかなか苛酷で、午前7時から13時までと、いったん閉店して16時から20時まで立ち仕事の力仕事、午後の3時間をいかに休むかにかかっています。
職場近くに住まいを見つけた店長ジルはいったん帰宅して横になれますが、アパートの遠いピエールは寒空でも公園のベンチで過ごしているんです。
ピエールは、店で対応したその美熟女をふつうにお客としか思えなかった(そりゃマそうだ)。
「そこをもっと積極的にサ、横になったらうんといいことあるって」
と、人の悪いジルはやや卑猥な腰つきまでしてなおもからかいました。
「ボクは本気の恋愛がしたいんだよ」
と、ピエールが弱り切っているのでさすがにかわいそうになり、鹿爪らしく助け舟を出しましたね。
「ヒルネの関係はでも、本命ができたとき別れるのに苦労するわよ」
運命的に出会ってときめきたい、というピエールに、もっともだと思いました。
「だからそのためには出歩かなきゃだめなんだって」
と、新顔くんはもどかしげに足踏みせんばかりです。「先輩はほんッともう出不精の引っ込み思案なんだから」
「どんな女性がいいの?」
と、ピエールに聞いてみると、
「同世代で、宗教人種問わず、優しいひと」
と、これまた真剣な顔で答えるではないですか。
わかったわ、心当たりがいたら口きくわ、
と、心から約束して、鶏をロースト用にさばいてもらいました。
前年のクリスマスごろからパリの山の手お金持ちあたりの子息の間で大流行だったもようの、電動スケートボード。学生街のうちの近所では乗っているひとをついぞ見かけたことなかったんですが、本日安物屋に発見。これからうちの界隈でも一足遅れではやるんでしょうか。安売りになっても4万円ぐらいと安くない値段です。
前菜は、オイルサーディンをのせたトマトサラダ
主菜は、レンズ豆の煮込みと挽き肉(以上残り物)のトマトソースがけチーズ焼き、モロッコいんげん塩茹で
と、肉屋に行ったら新顔の弟弟子(でし)に、兄弟子ピエールを横目でやりながら聞かれました。
ただ今パリ地区は学期休みで、店長のジルが休みを取って家族旅行に出かけている間、別の支店から新顔くんが派遣されて来ているんです。
新顔くんは、無口で実直なピエールとは対照的な、軽口のはずむ青年です。
「日本女性に的を絞りたいんだって」
と、横目つかいながら日本人のオバサン(ワタシです)にいたずらっぽい顔をむける新顔くん。
「そこまでは言ってないだろッ」
と、ピエールは大慌てです。
新顔くんが言うには、ピエール先輩のような勉強熱心で真心のある精肉職人にこれまで出会ったことがない、にもかかわらず先輩はといえば彼女いない歴が年齢と同じ満25年、それって不条理じゃないスか・・
それ、こないだうちまで店長のジルが言ってたことと同じなんですヨ。
牛挽き肉でも買おうと肉屋へ行ったら、包丁握ったなりで真っ赤になっているピエールを、店長ジルがからかい半分でかきくどいている真っ最中だったんです。
ジルがすすめる女性はというと、買った肉がショボかったとクレームつけてきた40代前半のマダム。近所の八百屋でバナナ一本ぽっきり買いを見かけて独り身の確信を深めたそうです。
歳の差カップルなどめずらしくないですしね。
「なにしろ住まいのアパートがすぐ近くなんだからさ」と、店長ジル。「午後の休みに横になれるんだぜ、繰り返すが、横になって身体休められるんだぜ」
ちょっとォ、ヒルネするための彼女なの?
と、ワタシも口をはさみました。
「ボクは断じて愛し愛されたいんですよ」
と、これまた大真面目に返答するピエール。
肉屋といったらなかなか苛酷で、午前7時から13時までと、いったん閉店して16時から20時まで立ち仕事の力仕事、午後の3時間をいかに休むかにかかっています。
職場近くに住まいを見つけた店長ジルはいったん帰宅して横になれますが、アパートの遠いピエールは寒空でも公園のベンチで過ごしているんです。
ピエールは、店で対応したその美熟女をふつうにお客としか思えなかった(そりゃマそうだ)。
「そこをもっと積極的にサ、横になったらうんといいことあるって」
と、人の悪いジルはやや卑猥な腰つきまでしてなおもからかいました。
「ボクは本気の恋愛がしたいんだよ」
と、ピエールが弱り切っているのでさすがにかわいそうになり、鹿爪らしく助け舟を出しましたね。
「ヒルネの関係はでも、本命ができたとき別れるのに苦労するわよ」
運命的に出会ってときめきたい、というピエールに、もっともだと思いました。
「だからそのためには出歩かなきゃだめなんだって」
と、新顔くんはもどかしげに足踏みせんばかりです。「先輩はほんッともう出不精の引っ込み思案なんだから」
「どんな女性がいいの?」
と、ピエールに聞いてみると、
「同世代で、宗教人種問わず、優しいひと」
と、これまた真剣な顔で答えるではないですか。
わかったわ、心当たりがいたら口きくわ、
と、心から約束して、鶏をロースト用にさばいてもらいました。
前年のクリスマスごろからパリの山の手お金持ちあたりの子息の間で大流行だったもようの、電動スケートボード。学生街のうちの近所では乗っているひとをついぞ見かけたことなかったんですが、本日安物屋に発見。これからうちの界隈でも一足遅れではやるんでしょうか。安売りになっても4万円ぐらいと安くない値段です。
前菜は、オイルサーディンをのせたトマトサラダ
主菜は、レンズ豆の煮込みと挽き肉(以上残り物)のトマトソースがけチーズ焼き、モロッコいんげん塩茹で