立ち呑み日記・村のカフェにて [食前酒]

「今日の『デペッシュ』読んだ?」
と、フランソワーズと青空マルシェ前のカフェに陣をとっていたら、フランソワーズの友人女性が駆け寄って来ました。

ただ今バカンスで、ワタシら一家は古い友人でスペイン国境近くの寒村に住むフランソワーズの家に居候をきめこんでいるところ。

買い出しに青空マルシェのたつ隣り村へ出るんですが、帰りにきまってここでひと息入れます。

常連のフランソワーズとその連れ合いアランの前には打てば響くように生ビールが出てきて、ワタシも
「同じものおねがいします」

フランソワーズの友人女性もわれわれの輪に加わりました。と、いいますか、いつもの輪にワタシが加えていただいているわけですが。

「この県で、コカイン総3キロ400グラムを豊胸手術でオッパイにしこみ密輸しようとした女が捕まったんだそうよ」

ニンニク商の屋台の前で小耳にはさんだと言うんです。発言者は今日の『デペッシュ』で読んだと確かに言ったそうな。

『デペッシュ』というのは地方紙で、『ル・モンド』などの全国紙がとり上げない地元の話題に充ちています。

「だからひょっとしてあなたがた詳細を知ってるかと思って」
手を貸した外科医も外科医よねーえ、と、鼻息荒く糾弾なさいます。「どの村の誰だか」

パリなどの都会では外科医といったらゴマンといますが、こういう小村では「誰」というのがうすうす特定できるらしいんですね。

「総3キロ400といったら片オッパイ何キロになるのかしらねえ」
と、悠然とタバコ吹かしながらフランソワーズ。「1キロ800?」

「違う、1キロ700」
と、これまた煙突のようにタバコふかしながらフランソワーズの連れ合いのアラン。

「あらアラン、その手何やったの?」
と、友人女性は、サポーターの巻かれたアランの右手首に気が付きました。

木の彫刻家アランは、作品のもとになる廃材を斬り分ける際に、なにぶんにも寄る年波から腱鞘炎になった、と、言ってました。

「オナニー」
としかし人を喰うことを信条としているアランは飄然と言い放ち、タバコをぷかり、生ビールをぐびり。

やあね、と、友人女性はアランの肩をぽんと打ち、
「いつもの」
と、お店のひとに声をかけます。

「3キロ400グラムのオッパイといったら相当な重さで生き死ににかかってくるわよ」
と、フランソワーズ。

もう何年も前になりますが、フランスにはロロ・フェラーリという巨乳タレントがいたんです。彼女はそんじょそこらの巨乳ではなく、豊胸手術により尋常ならざる風船を際限なく増大。

が、それがたたり、スターの座もはかなく亡くなってしまいました。

まして中に詰めているのがコカインというんですから、危険なんてものではないはず。ワタシもまた、その新聞記事を読んでみたくてたまらなくなってきました。

「買って来たわよーッ」
と、そこへフランソワーズのまた別の友だちが新聞を高々と掲げて大股でやって来ました。
「カゼネタよ、載ってやしないわ」

おかしいと思ったのよね、と言いながらイスを引き寄せ、いつもの、と、今度はギャルソンに声をかけて、おしゃべりはまだまだ続きます。


P1020602.JPG
香辛料屋の広告塔なのかいかがわしいモノ発見。このあたりから想像をふくらませた誰かがホラバナシしたんじゃないでしょうかねえ・・

前菜は、メロン
主菜は、白インゲン豆とハムのトマト煮込み


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