立ち呑み日記・マスタード屋 [買い物]

「あの八百屋は、刑務所に収監された」
と、朝市でいつも行く八百屋と軒を並べるマスタード屋のおにいさんがおごそかに断言するので、エーッ、と、のけぞりました。

いえね、ここのところ朝市の定位置になじみの八百屋が出ていないのでどうしたのかなと思っていたんです。

「『ニューヨーカー』にデカく取り上げられたの、知らないの?」
と、おにいさんはたたみかけます。
「傷んだ肉団子を魚屋のおやじに無理やり売りつけたかどでね」

ン? と、このあたりでこちらも首をかしげました。

そんなショボい事件を、アメリカの大雑誌がわざわざ取材に来るでしょうか。だいいちあの八百屋さんは肉団子なんか商(あきな)ってません。

「冗談だよー」
と、こちらの表情をたーっぷりたのんしんでから、マスタード屋のおにいさん。

「次かその次の朝市には戻って来るから心配しないで」

八百屋のご主人は所用で故郷のチュニジアに一時帰省している、とのこと。卸売市場への出入り免許を持つご主人なしには仕事が成立しないので、思い切って休みにしてしまったのだそうです。

なあんだ。それにしてもこちらも買い物の手順が狂っちゃいます。

仕方なく朝市の別の八百屋で用をすませるわけですが、品物の並べ方も違い、選ぶのになかなか手間取ります。

が、お初に行った店でキウイを10個買ったら1個よけいにくれ、かつパセリひと束、ついでにミカン2個とバナナ1 本までもおまけにこちらの買い物袋へ入れてくれました。

「あらどうもありがとう」
と、うれしく頂戴しながらも、
(ワタシったら浮気してる・・・)
テナ、やましい気持ちに、なぜかなってくる。

インゲンを、うちの家族が大好きなので毎度必ず買うんですが、こちらの八百屋のはなかなかお高い。

(やっぱりうちのヒトのが一番だワ)
と、われとわが身をナットクさせるべく、インゲンはやめてカリフラワーにしました。

こちらの、愛人のほう(?)の八百屋がインゲンの値段をふっかけているというわけではなく、ケニヤ産と北アフリカ産とが、あるんです。

ケニア産は極細でうっすら渋みのある上品な味で、キロあたり8ユーロ(約1000円)以上。

片や北アフリカ産はむっちり太くて甘みがあり、大味、と、言えないこともないんですが、子どもらが皿に盛り上げパクパクいくにはうってつけで、キロ当たり5ユーロ(約600円)以下。

さて、そうやって愛人と逢瀬を重ねていたんですが、本日朝市に行ったら、あらまあ懐かしいホッとした、なじみの八百屋さんが戻って来ていた。

「刑務所じゃなかったのね」
と、話しかけると、実に実にうれしそうに
「マスタード屋のやつみんなにそう言ったんだってね」

実はチュニジア帰省でさえなく、持病の検査入院の日程が病院の不手際で予定と異なることとなったせいだそう。

健康上の理由となると無用の心配からともすれば常連客が離れていくのではと懸念して、マスタード屋のおにいさんは軒を並べるよしみでひと芝居打った、ト、そういうことのようでした。

情報だけもらったままというのもあれなのでマスタードひとビン買ってみたんですが、これがまあ、やみつきになるほどおいしいマスタードでした。


P1010598.JPG
ここのところびしゃびしゃした雨。パリの秋冬はいつもこうです。

前菜は、エシャロットと胡麻油をふった赤かぶサラダ
主菜は、ボラのニンニク風味焼き、蒸しじゃがいも、いんげん塩茹で

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